○静嘉堂文庫美術館 『日本における辞書の歩み-知の森への道をたどる-』(2011年6月25日~7月31日)
久しぶりの静嘉堂文庫。刀剣も雛人形も陶磁器も行き逃していたのだが、古典籍が出ると知って、いそいそと出かけてきた。
「プロローグ」として、どこの図書館にもある印刷本の『大漢和辞典』(昭和58年刊)が展示されていたので、ちらっと横目で見て通り過ぎようと思ったら、小さな赤字は、編者の諸橋轍次(1883-1982)当人による訂正書き入れだという。諸橋が静嘉堂の第二代文庫長だったということを初めて知って、(自分の無知に)軽い衝撃を受けてしまった。いま調べたら、大正12年の関東大震災当時の文庫長であり、静嘉堂文庫って、その翌年、二子玉川に移転したのか(※三菱ゆかりの人々 Vol.19)。
『広韻』(宋刊)は、現存最古の広韻で、室町時代には伝来していたものと考えられる。『永楽大典』は、正本が明末に消失し、副本も散逸して、世界各地に400冊足らずが伝存しているというもの。静嘉堂文庫は8冊を所蔵する。『康煕字典』は、比較のために2種類が並べて展示されていた。ひとつは清刊(殿版=武英殿刊本)で、朱筆で訓点や送りがなが書き入れられている。誰の筆なんだろう? もうひとつは安永9年(1780)日本で刊行されたもので、訓点も版に起こされている。読み下し方は微妙に異なる。あと、紙質が明らかに違う(日本の方が厚く、白っぽくてぼってりしている)のも面白いと思った。『欽定古今図書集成』(雍正4年/1726)は銅活字本。中国も、意外と活字を使ってるんだな…。
日本の辞書は、狩谷棭斎の自筆書き入れ本や、石川雅望編『雅言集覧』の自筆初稿(読みにくい字だなー)、青木昆陽自筆の『和蘭文字略考』などを興味深く眺めた。『波留麻和解』(江戸ハルマ)の見出し語(オランダ語)は木活字で組まれている。画像を探したら、早稲田大学のこれが該当。なお、こちら(全文)は見出し語も手書きである。
『道訳法児馬(長崎ハルマ)』は天保4年(1833)書写。「法児馬(fa er ma)」は中国語音訳である。版心に「三省堂蔵」と見えるが、これはどこの三省堂? 『仏語明要』の「達理堂蔵版」も分からなかったが、調べたら、編者・村上英俊(幕末のフランス学者)の家塾だった。ヘボンの『和英語林集成』は、英文のタイトルページには「Shanghai」とあるが、和文のタイトルページには縦書で「日本横浜梓行」とある。また本文に取られている単語が不思議で、「アビコ 石龍 A kind of lizard(トカゲの1種)」なんて、知らなかった。
※参考:それにしても、世の中には、いろいろなサイトを立ち上げている人がいるものだと思う。
・日本英語辞書略年表(早川勇氏/愛知大学)
・幕末明治期日本語学関連電子化資料(金子弘氏/創価大学)
ヘボン『和英語林集成』初版「和英の部」冒頭のテキストあり
久しぶりの静嘉堂文庫。刀剣も雛人形も陶磁器も行き逃していたのだが、古典籍が出ると知って、いそいそと出かけてきた。
「プロローグ」として、どこの図書館にもある印刷本の『大漢和辞典』(昭和58年刊)が展示されていたので、ちらっと横目で見て通り過ぎようと思ったら、小さな赤字は、編者の諸橋轍次(1883-1982)当人による訂正書き入れだという。諸橋が静嘉堂の第二代文庫長だったということを初めて知って、(自分の無知に)軽い衝撃を受けてしまった。いま調べたら、大正12年の関東大震災当時の文庫長であり、静嘉堂文庫って、その翌年、二子玉川に移転したのか(※三菱ゆかりの人々 Vol.19)。
『広韻』(宋刊)は、現存最古の広韻で、室町時代には伝来していたものと考えられる。『永楽大典』は、正本が明末に消失し、副本も散逸して、世界各地に400冊足らずが伝存しているというもの。静嘉堂文庫は8冊を所蔵する。『康煕字典』は、比較のために2種類が並べて展示されていた。ひとつは清刊(殿版=武英殿刊本)で、朱筆で訓点や送りがなが書き入れられている。誰の筆なんだろう? もうひとつは安永9年(1780)日本で刊行されたもので、訓点も版に起こされている。読み下し方は微妙に異なる。あと、紙質が明らかに違う(日本の方が厚く、白っぽくてぼってりしている)のも面白いと思った。『欽定古今図書集成』(雍正4年/1726)は銅活字本。中国も、意外と活字を使ってるんだな…。
日本の辞書は、狩谷棭斎の自筆書き入れ本や、石川雅望編『雅言集覧』の自筆初稿(読みにくい字だなー)、青木昆陽自筆の『和蘭文字略考』などを興味深く眺めた。『波留麻和解』(江戸ハルマ)の見出し語(オランダ語)は木活字で組まれている。画像を探したら、早稲田大学のこれが該当。なお、こちら(全文)は見出し語も手書きである。
『道訳法児馬(長崎ハルマ)』は天保4年(1833)書写。「法児馬(fa er ma)」は中国語音訳である。版心に「三省堂蔵」と見えるが、これはどこの三省堂? 『仏語明要』の「達理堂蔵版」も分からなかったが、調べたら、編者・村上英俊(幕末のフランス学者)の家塾だった。ヘボンの『和英語林集成』は、英文のタイトルページには「Shanghai」とあるが、和文のタイトルページには縦書で「日本横浜梓行」とある。また本文に取られている単語が不思議で、「アビコ 石龍 A kind of lizard(トカゲの1種)」なんて、知らなかった。
※参考:それにしても、世の中には、いろいろなサイトを立ち上げている人がいるものだと思う。
・日本英語辞書略年表(早川勇氏/愛知大学)
・幕末明治期日本語学関連電子化資料(金子弘氏/創価大学)
ヘボン『和英語林集成』初版「和英の部」冒頭のテキストあり