見もの・読みもの日記

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そうだ、江戸へ行こう/JIN-仁- 完全シナリオ&ドキュメントブック

2011-07-08 23:32:25 | 読んだもの(書籍)
○TVガイド特別編集『JIN-仁- 完全シナリオ&ドキュメントブック』(TOKYO NEWS MOOK) 東京ニュース通信社 2011.7

 ドラマ『JIN-仁-』第1シリーズ全11話、第2シリーズ全11話のシナリオを完全収録。各話の冒頭には、演出家のコメント付き。読みどころは、プロデューサー石丸彰彦氏と、脚本家、森下佳子氏へのロングインタビュー。

 特に石丸彰彦氏へのインタビューは面白くて、ああ、このひとがいなかったら、このドラマは生まれなかったんだな、ということがよく分かった。作品をつくるきっかけとなったのは、江戸時代の写真を探していて、たまたま、ある本で、順天堂大学(の位置)から見た神田川の写真を見つけたことだという。あの場所に誰かが立って、あの風景を写真に撮らなかったら、ドラマ『JIN-仁-』は全く違うものになっていただろう。そのくらい「奇跡」の出会いだった、という発言を読みながら、実は、石丸さん自身が江戸にタイムスリップして、その写真を現代に送り届けたんじゃないか、と妄想してしまった。

 石丸さんは、本当に歴史好きなんだな。実証的な研究対象としての歴史好きではなく、もっと生身の、歴史ドラマ好きというか、歴史小説好きというか…。「そうだ、江戸へ行こう」と思えるドラマにしたかった、という表現は分かりやすい。実際、そのとおりのドラマだったと思う。

 「今の自分が生きているのは、間違いなく『誰か』のおかげなんだってことは、本気で感じています」という発言も、感慨深く受け止めた。私は、あのドラマを見て、亡き祖母のことが思い出されて、いくらなんでも、これは私の想像の飛躍だろう、と思っていたのだが、石丸プロデューサーが「『JIN-仁-』が終わったら、おじいちゃんの墓参りに行こうかなと思ってます」というのを読んで、ああ、私の「読解」は、制作者の趣旨を大きく外れたものではなかったんだ、と思った。

 森下佳子さんのインタビューでは、内野聖陽さんが「龍馬」という役を自分のモノにしてしまったことを「あえて例えれば、ケーキを先に食べられてしまったような」と表現しているのが面白かった。「役づくり」って、脚本家と俳優さんの共同作業ではあるけれど、主導権争いの一面もあるんだろうな。

 私は『JIN-仁-』を録画していないのだが、記憶による限り、放送で流れたドラマと、この「完全シナリオ」には、ほとんど差がないように思う。差がないことが気にかかる。

 実は、5月に『大河ドラマ50の歴史展』(日本橋高島屋、2011年5月11日~30日)を見てきた。このとき、故・緒形拳さんが使った『風林火山』の台本が展示されていたのだが、活字の台本が跡形もなくなるまで、緒形さんの筆で修正が加えられていたのである。時間配分とか、いろいろ理由はあるのだろうけど…。一般にテレビドラマというのは、あんなふうに現場で、脚本家の書いた台本に改変を加えながら撮影するものなのか、私にはよく分からない。

 それにしても、本書の、放映版との一致ぶりを見ると、これは森下佳子氏が書いた「台本」ではなくて、放映されたドラマ(編集済みビデオ)から起こした「完全シナリオ」なんじゃないかと思う。本書の中に、江戸の地図を表紙にした、各話の「台本」らしきものを積み重ねた写真があるが、こっちの本こそ読んでみたい。
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