見もの・読みもの日記

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異界へのかけはし/日本美術に見る「橋」ものがたり(三井記念美術館)

2011-07-12 23:50:03 | 行ったもの(美術館・見仏)
○三井記念美術館 特別展『日本美術に見る「橋」ものがたり-天橋立から日本橋まで-』(2011年7月9日~9月4日)

 9月まで、2ヶ月間にわたる展覧会だが、急いで見にいったのにはわけがある。雪舟筆『天の橋立図』は、この週末と次の週末しか見られない(~7/21展示)からだ。近寄って見ると、細部は普通の水墨画なのだが、離れるほど不思議。ヘリコプターにでも乗って、下界を見下ろしているみたいで。こんな視点を持った水墨画はないんじゃないかと思う。

 展示室1は、工芸・茶道具から。冒頭の仁清作『色絵柳橋図水指』は、湯木美術館所蔵と聞いて、大阪のあそこか、と思った。本展は、かなり頑張って、各地から珍しい作品を集めてきてる。この愛らしい水指は、丸亀京極家伝来。京極家は、仁清の代表作、色絵茶壺などの注文主であるそうだ(→個人ブログ:讃岐の風土記「京焼と讃岐との深い縁」)。

 工芸品には「住吉○○」と銘のついたものが多い。そうか、橋といえば住吉なんだな、と、今年5月に訪ねた住吉大社の朱塗りの太鼓橋を思い出す。しかし「住吉図に太鼓橋が描かれるのは意外に遅く室町以降」だそうだ。そうだろう。太鼓橋って、かなり高度な技術を要する建造物だと思うのである。

 本展の楽しみかたはいくつかある。ひとつは、歴史資料として橋の描かれ方を見ていくもの。古いものでは、鎌倉時代の仏画『二河白道図』に朱塗りの欄干を備えた反り橋が描かれているが、庭園の水辺や建屋間には、こうした橋があり得ても、自然の河川には難しかったのではないかと思う。『八坂法眼寺塔絵図(八坂法眼寺参詣曼陀羅)』(室町時代。法眼寺所蔵。面白い!! 初見!)には、鴨川にかかる四条橋と五条橋が描かれているが、どちらも棒杭の間に板を渡しただけ(たぶん流されたら、また架け直すつもり)の簡素な造りである。

 歴博D本『洛中洛外図屏風』では、三条と五条の橋はかなり立派に描かれているが、四条橋だけは貧相で、縦に渡した板1枚しかない。なお、五条橋って、以前は松原通りの位置にあって、豊臣秀吉が架け替えさせたということを初めて知り、調べていたら、京博の庭に「橋石材」が展示されていることが分かった。今度、見てこよう。

 それから、橋が喚起するイメージというか精神性。やはり、異界とか宗教的なものとの結びつきが強いので、縁起絵巻や参詣図曼荼羅に、橋はなくてはならないものだ。『伊勢参詣曼陀羅』2幅(三井文庫蔵)も、あまり見た記憶のないもので、面白かった。外宮図の宮川には「式年遷宮の年のみ架けられる舟橋(舟を並べてその上に板を渡すもの)」が描かれている。内宮図の五十鈴川には立派な宇治橋が見えるのに。また、日光二荒山を勝道上人が開いたときは、青・赤の蛇を握った深沙大王が現れ、蛇を放って、橋を架けたという。おお~そんな伝説もあるのか。

 私は、学生時代の国文学の演習で「橋」を詠んだ和歌を集めた記憶がある。それでいうと、「宇治橋」「瀬田の唐橋」「三河の八ッ橋」みたいに美術でも文学でも高名な名所がある一方で、「緒絶の橋(おだえのばし)」「長柄の橋」みたいに絵にならない歌枕(名所)もあるんだなあ、と思った。

 江戸時代には、江戸も大阪も「橋の都」であり、諸国にもたくさんの橋があったことが分かる。それにしても、北斎の『百橋一覧図』は作者の精神状態が疑われて、ちょっと怖いが…。歴博の『江戸景観図』は、アメリカン・ナイーフ・アート(絵本「ちいさいおうち」みたいな)色調が印象的。これは見たことある、と思ってブログ検索をかけてみたら、2008年の歴博『西のみやこ 東のみやこ』展がヒットして、嬉しかった。

 なお、茶室・如庵に掛けられた軸が寸松庵色紙で、紀友則「あまのがは あさせしらなみ たどりつつ わたりはてぬに あけぞしにける」と、かすかに「橋」を響かせているところが好きだ。
コメント
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