見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

町家リノベーション/そうだ、京都に住もう。(永江朗)

2011-11-13 22:28:10 | 読んだもの(書籍)
○永江朗『そうだ、京都に住もう。』 京阪神エルマガジン 2011.7

 1958年生まれ、奥様と二人暮らし(たぶん)のフリーライター・永江朗氏が、京都の町家購入を思い立ち、ついに東京・京都の二重生活を開始するまで、1年余りの顛末記。永江さんの本は、『本の現場』だったかな、出版事情に関する著作を一、二点読んだことがある。現在は、早稲田大学文化構想学部(なんだ、それは)の教授をされているそうだ。

 そもそもの始まりは茶室だったという。茶室のあるセカンドハウスが欲しくなり、銀座、青山と考えているうちに、だんだん京都のことが気になってきた。2010年3月初めに上洛して、物件探しを開始。はじめは中古マンションの購入を考えていたが、「ルームマーケット」という不動産屋で町家を勧められ、御所南の物件に決める。3月30日、現金払いで購入。さすがに値段は秘してあるが、××××(4桁?)万円とある。

 次はリノベーションである。リノベは、新築と違って法的な規制がないので、誰でもできるのだそうだ。しかし、著者夫妻は、京都在住の建築家に設計を依頼。京大建築学教室出身の河井敏明さんである。記録的な猛暑となった2010年の夏、東京と京都を往き来しながら、設計が進む。その一方で、著者は家具探しを始める。私には全くない趣味なので、椅子や壁紙へのこだわりが面白かった。ハンス・J・ウェグナーがデザインした「ベアチェア」って、そんなにいいのかー。

 2010年10月、初めて見積もりが出る。予算と相談して、見直しを重ね、12月、プラン決定。上原工務店(サイト※音が出ます)による施工が始まる。リノベは、解体してみないと分からないことが多々あるそうだ。隣家のガレージが、著者の家の浴室の壁を使っていた(壊してみたら隣家に壁がなかった)というのには笑ったが、なんといっても興奮したのは、昭和初期築と思っていた物件から「明治肆拾参年」の墨書が出現したこと。明治43年=1910年。大逆事件と日韓併合の年だ。なんと、著者が購入した2010年は、ちょうど建築から100年目だったのである。ヨーロッパの街で「18XX年」とか「17XX年」という竣工年の入った建築を見ると、さすが石造だなあと感心するが、木造住宅もやるもんじゃないか!

 2011年3月11日、大地震。この影響で、IHクッカーと浄水器の入荷が遅れることが判明。まだ仕上げ工事が続いていることを承知の上、4月30日からの連休は京都の家に初めて泊まる。そして、5月27日、命名「ガエまちや」は、正式に引き渡しとなった。

 以上のいきさつは、ウェブマガジン「Lmaga.jp」でも、おおよそ読むことができる。本書には、このほか、「ルームマーケット」代表取締役の平野準さん、建築家の河井敏明さん、「上原工務店」現場監督の片山学さんのインタビューが収録されていて、それぞれの立場から、家探し・家づくりへのコメントが聞けて面白い。

 私は永江さんとさほど変わらない年齢であるが、親の家を出てからずっと賃貸暮らしで、家を買ったことも、買おうと思ったこともない。しかし、本書を読んでいるうちに、本気で家(分譲マンションでもいい)が欲しくなってきた。残すところ10年を切った職業人生活が終了したら、仕事(配属先)の都合で家を決めるのではなくて、住みたい場所を自分で選び、住みたいスタイルの家を買いたい。

 著者が述べている京都の魅力、都会であるわりにコンパクトであること、意外とよそ者にも住みやすい土地であることは、とてもよく分かる。でも、奈良でもいい気がする。美味しいカフェで朝ごはんを食べるような優雅な楽しみは減るだろうけど、つましく田舎暮らしをするなら奈良でもいい。年金って、もらえるのかなあ…と考え出すと、現実に引き戻されてしまうが、中高年でも「将来の夢」を描ける、楽しい本である。著者が、旅行者として、あるいは京都「仮免許」生活者として、実際に利用したお店(カフェ、レストラン、書店、雑貨屋さん)のインデックスも役立ちそう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

見えない自己像/「上から目線」の構造(榎本博明)

2011-11-13 01:17:43 | 読んだもの(書籍)
○榎本博明『「上から目線」の構造』(日経プレミアシリーズ) 日本経済新聞出版社 2011.10

 私にしては珍しく、苦手分野のビジネス書を読んでみた。なんとか最後まで読めた。本書は、いつの頃からか目立ち始めた「上から目線」という言いまわしを取り上げ、大学生や新入社員の、中高年をびっくりさせる言動を紹介して、ビジネス書の体裁を取っているが、全体としては、オーソドックスな社会心理学や精神分析の入門書という感じがした。

 上司の指導に「上からですね」と反発する若手社員、実際「上から」になりがちなウザい大人、双方の事例を紹介したあと、どちらかといえば後者について、なぜ人は「上から」心理に陥りがちなのかを考察する。これは、安定したプライドと偽物の不安定なプライドとか、横柄な人物に潜む自己防衛の構造とか、けっこう古典的な分析理論に基づいているように思う。

 そのあと、あらためて、人間関係を苦手とする現代の若者の問題に立ち返る。なぜ、今の状況が生まれたかという問いに対しては、人間関係が希薄化し、他人を鏡とする機会が減ったため、うまく自己像(他人がこちらを見る自己像)を認知することができていないから、という答えが示される。まあ、そうなんだろうな。だからこそ、就活スタート時点に自己分析をやらせるんだろう。でも分析結果を受け入れられるのかなあ、そもそも。

 それと、最近の会社は、社員寮を復活させたり、運動会やバーベキューなどの催しを積極的に開いて、社員間のコミュニケーションを改善しようという動きもあるそうだ。うっとうしい話である。上からだろうと下からだろうと、社会人のコミュニケーションは「型」であると割り切ってしまうほうが楽だと思うのに。

 著者は、「そのままの君でいい」という心のケアは、あくまで一時的な保護であって、コミュニケーション力不足や営業スキル不足に悩んでいる若者は、メンタル的に鍛えることが「本当のやさしさ」である、と苦言を呈している。ただ、実際に段階を踏んで、どう鍛えていくかという提言は特にない。逆に、即効薬的なハウツウを示さないところが、ビジネス書的な胡散臭さがなく、私が本書を最後まで読み切れた理由かもしれない。

 ちょっと関心をもったのは、著者は、社会人のキャリア・アイデンティティの形成がどの程度まで進んでいるか、およびどんなルートをたどっているかを知るためのキャリア・アイデンティティ・ステータス(CIS)テストを開発しているという情報。自分は、いまさらキャリア形成でもない年齢だと分かっているが、逆にこれまでの職業生活の総括の意味で受けてみたいと思った。ネットで調べたら、3,150円の商品になっていた。うーん、お遊びで購入するにはやや高いな。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする