見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2011秋の九州遊:大分/耶馬渓、中津

2011-11-24 23:33:00 | 行ったもの(美術館・見仏)
○耶馬渓・羅漢寺~耶馬渓風物館~中津・福沢諭吉旧居記念館

 週末、福岡旅行を決めたあと、あと1日をどう過ごすかをしばし考えた。唐津は春に行ったし、熊本はちょっと遠い。国東半島も車がないと…と考えて、そうだ、耶馬渓!と思い至った。この春、江戸博で開催された、狩野一信の『五百羅漢』展シンポジウムで、山下裕二先生の"全国五百羅漢行脚"写真ルポを見せていただいたのが始まり。千葉市美術館の『橋口五葉展』では、なぜか五葉が、一度きり訪ねた耶馬溪の風景を繰り返し描き続けたことを知った。さらに旅行の直前に、耶馬渓風物館で『羅漢寺と耶馬渓展』(2011年10月15日~12月18日)という展示が始まっているというニュースも聞き込んだ。これは、行くしかないだろう。

 問題は「耶馬渓へのアクセス」を調べると、マイカーまたは定期観光バス推奨とあるばかりで、公共交通を使う方法がよく分からない。ようやく、博多7:33-9:08中津(にちりんシーガイア7号、またはその後の特急でも可)、中津駅から路線バス9:40-10:08中島下車、という行きかたを見つける。初日(土曜)に行こうと思っていたのだが、あいにくの雨。天気予報が、翌日は晴れると言っていたので、急遽、スケジュールを入れ替える。

 日曜は、予報どおりの晴天。中津駅に到着すると、万全のウォーキングスタイルの中高年が、にぎやかに集まっている。この日、JR九州主催のウォーキングイベント「紅葉の耶馬溪と羅漢寺・青の洞門を訪ねて」が開催されていたのだ。臨時バス(有料)がピストン輸送で、お客さんを現地に運んでいる様子。なるほど、こういうイベントをチェックすると、路線バスの少ない観光地へも行きやすいんだな、と学ぶ。

 私は予定どおり、路線バスで耶馬渓へ。正確には、本耶馬渓(ほんやばけい)と呼ばれる地域である。のどかな紅葉を眺めながら15分ほど歩くと、羅漢寺の参道口が見えてくる。しかし、ここは「リフトを使ったほうがいい」と誰かが書いていたので、少し先のリフト乗り場へ。安全バーも何もない簡易リフトで、ええ~と思ったが、一気に上って、羅漢駅到着。

 リフトを下りて、少し歩く覚悟だったが、ひょいと岩壁をまわったら、もう目の前が羅漢寺の山門。そうか~日本のお寺って、規模が小さいなあ、と苦笑する。つい中国の華山とか武当山のつもりになっていた。ちなみに山門に行きつく前に「石橋」の下を通るのは、中国・天台山の石橋(石梁飛瀑)をイメージしているのだろう。



 「無漏窟」という額を掲げた岩陰に石の羅漢像がひしめく。えーと、確か山下先生の話では、狩野一信の羅漢図に見られる「大蛇の口の中の羅漢」や「顔をめくる羅漢」がいるはず、と思って探したが見当たらない。どうやら、彼らは洞窟の外にいたようだ。個人的には、奥のキーボード奏者ふうの羅漢さんが好き。



 再びリフトで下り、道の駅・耶馬トピアに併設されている耶馬渓風物館を訪ねる。あらためて羅漢寺の由来を読んだら、インドの僧、法道仙人が金銅仏を持参したのがはじまりと伝えられている。法道仙人といえば、一乗寺、花山寺、播州清水寺など、兵庫県の西国三十三所巡りをしたとき、さんざん耳にした名前なのに、なぜか飛び地のように、ここ大分に伝説が伝わっているのが面白い。

 羅漢さんのうち、特に古い「延徳三歳(1491年)」の墨書のあるもの、「応永七(1374年)」の陰刻のあるものは、いま、こちらに展示されている。それから、『蓑虫山人絵日記』という大判の冊子にも、ちょっと興奮した。板橋区立美術館の『実況中継EDO』で、この変わった名乗りの画家を、はじめて知ったばかりだったので(検索したら肖像写真も残っているんだな)。

 見ものは、京都・廣誠院が所蔵する明代の羅漢図6幅の里帰り展示。収納箱に「六幅ノ仏画ハ、豊前国耶馬渓羅漢寺の所蔵ナリシ」とある。さらに遡ると、かつては博多・聖福寺に伝来したらしい。展示は2幅ずつなので、残りの図像は受付で貰ったリーフレットで確認する。動物の登場が多い。なお、木屋町の廣誠院は旧長州屋敷だそうだ。今度、京都に行ったら探してみよう。

 昼食を済ませて、13:32のバスに乗り、中津駅へ戻る。これで15:04の特急ソニック38号に乗れば、博多(16:28着)経由で福岡空港を18:00発の羽田行きに間に合うはず。中津で1時間ほど余裕があったので、駅の北口から15分ほどのところにある福沢諭吉旧居記念館まで往復してきた。



 藁葺き屋根の母屋と、諭吉が自ら改造して勉学に励んだ土蔵が残っている。津和野の西周旧居も、確か同様に土蔵が建っていたことを思い出す。
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2011秋の九州遊:福岡/地上の天宮 北京・故宮博物院(福岡市美)

2011-11-24 00:21:49 | 行ったもの(美術館・見仏)
福岡市美術館 特別展示 日中国交正常化40周年記念『地上の天宮 北京・故宮博物院展』(2011年10月18日~11月23日)

 九博の『草原の王朝 契丹』を見に東京から遠征したついでだったので、あまり期待はしていなかった。まあデパートの客寄せ展示くらいかな?という感じ。そうしたら、意外と展示品の量も多く、バラエティに富んで面白かったので、図録まで買ってきてしまった。

 展示会趣旨によれば、明・清両宮廷ゆかりの品、約200点を展示という。ただし、会場によって(計10ヶ所巡回予定)展示替えがあるようだ。中国史の予備知識がなくても、魅力を感じとれる服飾、宝飾品が多く選ばれている。しかし、できれば、登場人物たちに多少の知識があるほうがいい。「珍妃の印」(左半分は満文なのか?)を見れば、悲劇の王妃の最期にしみじみ思いを致し、「光緒帝の大婚のために作られたオンドル用の敷物」を見れば、数々の吉祥文で彩られた金色の双喜字とは裏腹に、母親(西太后)から意に添わない花嫁を押しつけられた皇帝の心中がしのばれる。『光緒帝大婚典礼全図冊』はすごい。展示場面は、会場によってA, Bが割り当てられているのだが、A(神戸、名古屋、東京、新潟、福島 ※後述)のほうが、圧倒的に見応えあり。

 地味な書籍だが『大明仁孝皇后内訓』は、明の永楽帝の皇后が、女性の教育のために著した訓令・訓示、という解説を読んで、徐皇后(明建国の元勲・徐達の娘)か!と、なつかしく思った。最近、明史にハマっていたので。

 途中、美しい彩色で女性たちの風俗を描いた画巻があって、近づいたら、南宋の『女孝経図巻』だというので、びっくりした。9つの画面の1つしか開いていないが、残りはモニタのデジタル画像で見ることができる。『韓煕載夜宴図巻』は、原本は五代(10世紀)の作で、展示品は1950年代の模写だというが、古色までよく写している。南唐の宰相・韓煕載が美しい妓女たちと戯れる夜宴の様子を描く。けっこう描写があけすけで、面白い。他にも本展には、明清の風俗画(仕女図)や、人物にフォーカスした歴史画、風景画などがあって、日本人に知られている中国絵画って、偏りがあるなあ、と感じた。

 今回、見られなくて残念に思ったのは『乾隆帝及妃威弧獲鹿図』。これ、見たい! いやーカッコよすぎだわ、この皇帝夫妻(※小さい画像は、こちらにあり)。

 ひとつ本展に文句を言いたいのは、上記の作品名は『乾隆帝…』になっているが、別の絵画に『弘暦元宵行楽図』というのがあって、弘暦は乾隆帝の本名なのだが、分かりにくい。原題にとらわれず、日本人向けの表記を工夫してくれないかなあ。あと『胤妃行楽図軸』という12幅の美女図、これも「雍正帝がことのほか好んだ」という解説を読んで、しばらく考えてから、胤が雍正帝の本名であることに思い至った。私の記憶が間違いでなければ、会場では「明」時代の作品と表示されていたのが、さらに混乱のもと(図録では「清」)。しかし、そう間違う気持ちも理解できる。后妃たちは全て、たおやかな漢人ふうのファッションなのだ。図録に寄稿された入江耀子さんは、清朝では、満州族と漢族との通婚が禁じられたにもかかわらず、皇族とそれに準ずる階級に限って漢族女性を満州族とみなす抜け道があり、「そのような手段で雍正の後宮に招かれた寵妃たちであったかもしれない」と述べている。そうかな。私は、雍正帝本人も大好きだったコスプレの一種じゃないかと思うけど…。しかし、この后妃図、美しい上に、画中の小道具がいちいち意味ありげである。

 このほか、宮廷の日常生活をしのばせる、皇子・皇女用の腹掛けや子ども靴、虎の顔のついた帽子、バスタブ、手あぶり、マージャン牌(現代と変わらない)、燕の巣(ええ~)、大型犬用の服まであって、笑った。『百物図』という題簽のついた冊子は、ラストエンペラー溥儀が、子どもの頃に絵や文字を練習したもので、会場では、千字文を記したページが開いていた。西太后(慈禧)の描いた『魚藻図』が、全く巧くないのに、あまりに堂々としているのにも笑ってしまった。「地上の天宮」というけれど、むしろ見終わると、故宮の住人たちの人間味を感じる展覧会である。

 本展は、今年5~7月、東京富士美術館から巡回が開始されるはずだったが、震災の影響で延期となり、7月の北海道が皮切りとなった。全10会場を巡回予定だが、福島だけは会期会場が決まっていない。残念だが、無理はしないでほしいと思う。東京富士美術館のサイトには、2012年春の開催に向けて、すでに詳しい特設ページが設けられている。
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