見もの・読みもの日記

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対談・民衆革命の実状と未来(酒井啓子、吉見俊哉)

2011-11-28 01:18:24 | 行ったもの2(講演・公演)
ジュンク堂書店新宿店トークセッション 酒井啓子×吉見俊哉『民衆革命の実状と未来』(2011年11月25日)

 酒井啓子さんの著書『〈アラブ大変動〉を読む-民衆革命のゆくえ』(東京外国語大学出版会)の刊行記念イベント。外語大の図書館に勤める友人から情報をいただいた。感謝。

 中東政治を専門とされる酒井啓子さんのお名前は、イラク戦争以降、何度もメディアで拝見する機会があり、著書もずいぶん横目で見てきたのだが、中東って、よくわかんないんだよなーという引け目があって(地図を見ても国名を言い当てる自信さえない)なかなか手に取ることができなかった。それが今回、メディア研究、文化研究など、私にとっては比較的なじみのあるの吉見俊哉氏との対談ということで、少し不思議な組み合わせだと思った。そうしたら冒頭に、おふたりが見田宗介ゼミの先輩後輩だという話があった。へえー。酒井さんが社会学の見田宗介ゼミ出身というのは、かなり意外。

 そして、酒井さんが、2010年の年末から2011年の春にかけて、連鎖的に起きたアラブ世界の政治変動(まだ続いている?)を論じた新著について、先輩・吉見俊哉氏の感想を聴きたいとラブコールをおくったところから、この対談が実現した、という裏話をまず聞く。

 これに対し、吉見氏は、中東のことを全く知らない自分が読んでも非常に面白かったと述べ、遠いと思っていた中東とわれわれ日本の社会が「思いのほか似ている」と感じた点として、携帯やインターネットの普及、アメリカの影、の2つを指摘した。

 前者(アラブ大変動を引き起こしたネットメディアやソーシャルメディアの力)については、酒井さんから時系列順に整理したレビューがあって、ありがたかった。あらためて反省したのだが、3月11日の大震災以降、私の関心はすっかり「国内向き」になっていたと思う。酒井さん曰く、中東諸国において、これまでカメラは権力による監視、懲罰、恐怖を誘うものだったはずなのに、どこかでカメラの意味が反転し、人々は自分の行動が世界中から「見られている」ことに力を得て、行動するようになった。大集会の様子や独裁政権批判の歌が、どんどんYouTubeなどで発信されているそうだ。

 一方で、中東の人々は、非暴力的な民主革命なら「見ている」欧米諸国に受け入れられるということを、強く意識して行動しているフシがある。かように、中東におけるアメリカの政治的・文化的プレゼンスは大きいのであり、このことは日本と共通する。ただし、日本の社会意識は一貫して「親米7割」であるけれど、コーラを飲むよりお茶を好む人のほうが多かったり、さほど英語に固執していなかったりする。基本的な生活様式は、むしろ中東人のほうがずっとアメリカ寄りらしい。

 なぜ日本は、アメリカに対してもっと自己主張をしないのか、というのは、中東の人々が不思議に感じている点だという。これに対し、吉見氏は、戦後の日本では(沖縄を例外として)アメリカの暴力性が見えなかったこと、東アジア地域における「帝国」的な地位を、戦後もアメリカの後ろ盾によって、ある程度維持することができたこと、だから、アメリカに対してものをいう必要はなかったのではないか、という説明をされた。酒井さんが、ああそうか、日本は東アジアのイスラエルなのね、と(正確ではないけれど、そんな表現で)応じたのが印象的だった。

 日本でも1950-60年代には反基地闘争というものがあった。しかし、反基地闘争は反"岸"闘争に変質し、岸信介首相の退陣は実現させたが、そのあとは何も変わらなかった。エジプトにおいても、反米は反ムバラク運動に変わり、独裁政権は崩壊したが、その先は見えていない。そもそもこうした国の独裁政権は、民族解放の闘士だったはずなのに…とか、この偶然だか必然だかよく分からない、歴史の「ねじれ」って複雑だなあと思ってしまう。

 あと、吉見先生からの提言。酒井さんの著書は、そこに掲載されているFacebookやYoutubeのサイトを実際に訪ねてみることで、より深く理解できる。しかし、いつまでそれが可能であるか。図書館や文書館が、紙に書かれた記憶の収集と保存に責任を果たしたように、「デジタルでパブリックな記憶」を維持していくことは、非常に重要な課題である。たぶん吉見先生がコメンテーターをつとめる『デジタル化時代における知識基盤の構築と人文学の役割-デジタル・ヒューマニティーズを手がかりとして-』(11月29日)は、そのへんの問題も扱うんだろうな、と思い、来週のシンポが一気に聴きたくなった。

 酒井啓子さんの中東論というのが、中東のことをよく知らなくても共感できるものだということは分かったので、いずれ著書は読んでみたいと思う。ただ、本書は編著(アンソロジー)なので、まだちょっと迷っている。
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