見もの・読みもの日記

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伝統を遊ぶ/生誕130年 松岡映丘(練馬区立美術館)

2011-11-17 00:51:26 | 行ったもの(美術館・見仏)
練馬区立美術館 『生誕130年 松岡映丘-日本の雅-やまと絵復興のトップランナー』(2011年10月9日~11月23日)

 松岡映丘(1881-1938)の名前はもちろん知っていたが、特に好きでも嫌いでもなかった。古典的で端正な、逆に言うと、一目で、あ、松岡映丘だと分かるようなアクの強さのない絵を描かない画家だと思っていた。今回、初めて作品をまとめて見て、面白いな、と思うようになった。

 本筋とは全く外れるのだが、第一に面白かったのは、その「コスプレイヤー」振り。子供の頃から武者絵が大好きで、歴史画の名品をたくさん残した映丘だが、まさか会場で、本人が甲冑をまとった写真を見るとは思わなかった。展示図録の解説によれば、先輩画家の小堀鞆音(1864-1931)にも同じ趣味があったそうだ。趣味は実益を兼ねるというか、映丘の歴史画を見ると、武者絵に限らず、どんな時代の有識(訂正)故実にも曖昧なゴマカシがない。沓とか冠とか、馬具、牛車まで、明晰に描かれているので、なるほど、ここはこうなっているのか~としみじみ眺め入ってしまった。その点では、やっぱり近世以前の「やまと絵」とは、一線を画するところがあると思う。

 おお?と思ったのは、源氏物語「橋姫」に取材した六曲一双屏風『宇治の宮の姫君たち』。右隻で縁側に腰かけ、横顔を見せている男性(薫)が描かれている。細かい連続文様の入った青の薄衣の下に、白い衣が透けている。私は、昨年、五島美術館の『国宝 源氏物語巻』展で復元模写を見て、初めてこの絵巻に登場する男君たちの多くが、青い衣を着ていることを知った。いまは銀鼠色にくすんでしまった元の色は青だったんだ…と知ったわけだが、どうして映丘は、この青色を知っていたんだろう。『源氏物語巻』展で見たのは、平成と、昭和33~37年頃の復元模写の2種類だったが、もっと古い時代の復元模写が存在するのかな。

 『みぐしあげ』は枕草子に取材し、中宮(定子?)の妹・原子を描いたものと解説されているが、『源氏物語絵巻』「東屋」にヒントを得て描いているのではないかな。いま、両展の図録を並べて眺めていると、いろいろ想像がふくらんで面白い。もちろん武者絵や、それ以外の作品にも、文学的な元ネタ、造型的な元ネタが幾重にも重なっている。たとえば『春日の祭使』は、何の説明もないけれど、きっと道長の嫡男・頼通(13歳で春日祭使になった)だなーと思って、私は眺めた。黒い衣に少し粉雪が舞っているし。さまざまな伝統を集約して、しかも清新で、楽しかった。
コメント (2)
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