見もの・読みもの日記

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総説・入門編/「もののあはれ」と日本の美

2013-05-02 23:10:45 | 行ったもの(美術館・見仏)
サントリー美術館 『「もののあはれ」と日本の美』(2013年4月17日~6月16日)

 出品リストの中に、大和文華館の『寝覚物語絵巻』(5/1-13)や四天王寺の『扇面法華経冊子』(6/5-16)など、私の好きな作品が混じっていたので、かなり楽しみにしていた展覧会。だが、展示品の多さが、かえって展覧会の全貌を分かりにくくしている感じがする。

 そこで「もののあはれ」という概念を「具体」に落とし込むために連れてきたのが本居宣長なんだろうけど、絵巻や歌仙絵や調度品から、直接、王朝の美学を味わおうと思っていた観客は、いきなり宣長の稿本を見せられても「?」ではないのかな。私のような文書(もんじょ)好きは嬉しいけど。

 冒頭近くにあった『紫文要領』は、宣長が「もののあはれ」を初めて体系的な形で提唱したことで知られる著作。Wikiに「弟子による写本である東京大学図書館本居文庫蔵本は『源氏物語玉の小琴』の内題を持っている」とあるが、今回、展示されていた本居宣長記念館本(自筆本?)も巻首の「紫文要領」をミセケチにして「源氏物語玉の小琴 一の巻」に直していた。

 また、宣長の自画自賛像には「めづらしきこま(高麗)もろこし(唐)の花よりも あかぬいろ香は桜なりけり」という和歌が記されている。このひと、業績の偉大さも人柄の卑しからぬことも認めるにやぶさかでないけれど、和歌は巧くないよねえ(と書いていたのは丸谷才一氏?)。これを「もののあはれ」展の冒頭に置いていいのだろういか、と苦笑しながら眺めた。

 よかったのは『豊明絵草紙』という14世紀の絵巻(前田育徳会)。白描にわずかな赤を用いている。人物や建物はそこそこ巧いのだが、ちらっと顔を出す動物(馬、猿)の稚拙さに微笑を誘われる。古筆、歌仙絵は展示替えが多く、一度にはあまり数が見られない。通期で見られるのは、西行物語絵巻の白描本と著色本くらい。早くから人々の関心を引き付け、伝説化した歌人だったことが分かる。

 後半には、桃山~江戸時代の屏風や工芸品、さらに明治時代・鏑木清方の美人画(美しい!)まで。なんというか、外国人にも分かる「もののあはれ」入門編という展覧会だった。
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