見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

「かざり」と「あそび」/大神社展(東京国立博物館)後期・補遺

2013-05-12 23:38:32 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館 特別展『国宝 大神社展』(2013年4月9日~6月2日)

 すでに前期のレポートを長々と書いているけれど、後期の見どころについても補記しておきたい。

 いちばん大きく入れ替わったのは、第1章「古神宝」である。後期は、鶴岡八幡宮、厳島神社、熱田神宮が中心。なんとなく源氏、平家、源氏という布陣だなと感じる。いちばん馴染みが薄い分、新鮮に感じたのは熱田神宮の神宝で、特に衣装類が興味深かった。

 第3章「神社の風景」で目がとまったのは、三の丸尚蔵館本の『春日権現記絵巻』。連休中に春日大社の宝物館で見た模写本と同じ巻ニ、寛治御幸の図である。車中の白河上皇の顔は見えないのだが、身体の向きが、少し冷泉為恭模写本と異なる気がした。まわりに裹頭した大衆が大勢集まっているが、衣の下に鎧のようなものが見える。公卿や従者たちの表情も豊かで面白い。熊野那智大社の『那智山宮曼荼羅』にも「上皇の御幸が描かれている」とあったけど、誰? 回数からいえば、やっぱり後白河上皇かな? 香川・観音寺の『琴弾宮縁起絵』は初見だと思うが、写実的な地形図に可愛らしく名勝・聖地が記されていて、楽しかった。

 第4章「祭りのにぎわい」では、久しぶりに狩野内膳の『豊国祭礼図屏風』を見たが、「1089(とーはく)ブログ」に紹介されていた「竹の子コスプレ」は見逃してしまった。

 このセクションは装束類が楽しい。前期の黄色とブルーの『蛮絵袍』もカッコよかったけど、後期は『紺地白鷺葦模様』の狩衣がイチ押し。明の道士の服を仕立て直したというキンキラの狩衣もあって、これが山形に伝来しているというのも、予想を裏切って面白かった。そして、日本の神様って基本的に「かざり」と「あそび」、美しいものと楽しいことが大好きなんだ、と思った。

 第5章「伝世の名品」はあまり展示替えがなさそうなので、流し見しようと思ったら、『北野天神縁起絵巻』(根本縁起)が出ていたので、慌てて最前列に並ぶ。でもパネルには「清涼殿落雷の場面」を取り上げているのに、展示されているのは巻八「日蔵六道めぐり」の箇所だった。まあ紹介されることの少ない珍しい巻で、最下層の庶民の様子が面白かったけど。

 第6章「神々の姿」は、彫刻は展示替えがないが、絵画は入れ替わっている。展示図録を見て衝撃を受け、どうしても本物が見たいと思ったのが、仁和寺の『僧形八幡神影向図』。こんな表現をどうして思いついたんだろうか。畏怖に満ちた、神秘的な図像である。

 なお、この日は東洋館地下のミュージアムシアターで、VR(バーチャルリアリティ)作品『三蔵法師の十一面観音』を見ていく。私は好きだけど、有料(500円)にするほどの価値があるのかなあ。無料にして、より多くのお客さんに見てもらうほうがいいと思うのに。
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個性豊かな神々/大神社展(東京国立博物館)前期を中心に

2013-05-12 21:25:18 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館 特別展『国宝 大神社展』(2013年4月9日~6月2日)

 連休前の4月20日(土)にまず前期を、友人と見に行った。それからブログを書く時間が取れないまま、きのう5月11日(土)後期も見てきたので、まとめてレポートする。

 前期の参観日は冷たい雨の降る日で、東博の特別展としては、比較的空いていた。仏像好きの友人なので「まず第二会場の神像から回りましょうか」とも話したが、結局、順路に従うことにする。そのほうが気持ちが盛り上がっていいみたい。

 第1章は、みやびやかな「古神宝」から始まる。前期は春日大社と熊野速玉大社が中心。そこに第2章「祀りのはじまり」が入り組んでいて、沖縄や沖ノ島の考古文物(銅鏡、子持ち勾玉など)が混じり、『古事記』『日本書紀』などの文献資料に進む。『延喜式』の神名帳の前で「このアマテラスから化生した三女神が宗像神社の神でさ」と話している男子がいて、詳しいな、若者、と思った。全体に会場の会話がクロウトっぽくて面白かった。なお、出品目録では第5章「伝世の名品」にリストアップされている『平家納経 願文』(平清盛の自筆)は、いきなり第1室に展示されていて、ハッとした。筆跡って、肖像画よりも何よりも、その人が本当に生きていたことを生々しく伝える資料だと思う。

 第3章「神社の風景」では『伊勢両宮曼荼羅』の前で、三重県出身の友人から現地の様子を聞く。文化庁所蔵の『天神社頭図』が面白かった。絵巻か何かの断簡だろうか。試しに検索してみたら「随意契約の公示」という下世話な情報が引っかかってきて、苦笑。

 第4章「祭りのにぎわい」の見ものは、何と言っても和歌山・鞆淵八幡神社の『沃懸地螺鈿金銅装神輿(いかけじらでんこんどうそうしんよ)』である。展示室の奥まった薄暗がりにひっそりと、しかし堂々と鎮座した様子は、龍が蟠居しているような迫力だ。12世紀の神輿が残っているって、もう奇跡としか思えない。これ、和歌山県博の『高野山麓 祈りのかたち』で(写真?複製を?)見なかったかなあ、と思ったが、私の記憶違いのようだ。でも鞆淵八幡神社の名前は、同展の記憶の中からよみがえってきた。ちなみに「日曜美術館」でこれが映ったときは、twitterの平清盛クラスタが「神輿キター!」「強訴じゃー!」で大騒ぎになって笑った。

 ここから第2会場。第5章「伝世の名品」冒頭は刀剣多し。鹿島神宮の巨大な『直刀 黒漆平文大刀』は、むかし現地で見て、呆気にとられたなあ。石上神宮の『七支刀』はあまり見る機会のないもので嬉しい。意外と細身で華奢な作りである。同じく石上神宮に伝わる『鉄盾』は重たそうだった。ああ、映画『レッド・クリフ』の歩兵もこんなのを持っていたかもしれない。手向山八幡宮に伝わる『唐鞍』一式の重装備にも驚く。やっぱり「神社」って、大陸や朝鮮半島の鉄器・銅器文明との親近性が強いような気がする。

 いよいよ第6章「神々の姿」は、4つほどの部屋に分かれる。まず獅子・狛犬、そして随身像に招かれて進むと、奥には松尾三神像が鎮座まします。左右一対の『随身立像』は岡山・高野神社という知らない神社だった。松尾三神像と並んでいた大きな女神像は、京都・東寺のものだというが、ぜんぜん記憶になかった。このへん、キャプションで所蔵先を確かめながら、へえとかほうとか驚く。写実的だったり、いくぶん抽象化されていたり、唐風だったり和風だったり、さまざまなタイプの神像(絵画もあり)を眺めながら進んでいくと、最も奥まったところに、小浜の若狭神宮寺に祀られた男神(小丹生之明神 和加佐国比古神)・女神像(小丹生之明神 和加佐国比女神)がおいでになった。

 向かって右に男神、左に女神を安置する。どちらも実に静かな御姿で、憤怒や威圧からは程遠い。沈思するというか、むしろ放心しているにも見える。しかし単純に運命を甘受するばかりでない、一種の凛々しさも感じられる。雪深い小浜の人々が祈り求めた神の姿はこのようなものか、と思うと、納得できる気がした。

 チラシ、ポスターに使われているおおらかな地母神的な女神像『吉野子守神像』(個人蔵)は最後に展示されている。個性豊かな神々とともに、この小さな国土に生きていることが嬉しくなる展覧会だった。

 前期参観の日は、このあと『平成25年 新指定 国宝・重要文化財』(2013年4月16日~5月6日)を見ていく。静岡・願成就院の不動明王及二童子立像など、仏像が多くて楽しかった。さらに法隆寺館を覗いて、充実の1日。

 『大神社展』後期の感想は別稿にて。
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