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出光美術館 土佐光吉没後400年記念『源氏絵と伊勢絵-描かれた恋物語』(2013年4月6日~5月19日)
生活拠点を北海道に移してひと月半。先週は東京出張だったので、所用と所用の間隙を縫って、この展覧会を見てきた。桃山時代に源氏絵をリードした絵師・土佐光吉(1539-1613)の没後400年を記念する展覧会だというが、実は「土佐光吉」と聞いても、あまりピンとこなかった。華麗で繊細な王朝美学を発展された「土佐派」の名称は知っていたけど。光吉→光則→(息子)光起→住吉如慶と続くんだな、とWikiで確認。
展覧会の冒頭には、岩佐又兵衛の『源氏物語 野々宮図』と『在原業平図』が展示されていた。私は岩佐又兵衛大好きだが、この画家の描く人物は顔が長くてデカい。しかも棒立ちに立ってるし。なんというか、ヘンな源氏とヘンな業平で、これを始まりに掲げていいのか?と可笑しかった。
反対側の列に『扇面流貼付屏風』六曲一双があった。18面の扇面のうち、7面が源氏絵である(あとは花鳥など)。屏風は桃山時代・海北友松筆とされているが、扇面は室町時代の土佐派のものと見られ、扇面形式の源氏絵として最も早い作例だという。人物が丸っこく、キャラっぽくて、かわいい。狩野派の『源氏物語 早蕨・手習図屏風』は「漢画系の絵師による」という注釈があったが、舞台(建物)が大和絵っぽくない。従者の髭にも違和感がある。また狩野探幽筆『源氏物語 賢木・澪標図屏風』は、格調高く、王朝らしさを漂わせた作品だと思うけれど、よく見ると、源氏が六条御息所に対して、御簾の下から榊を差し入れる場面、体ごと御簾のうちにすべりこませているし、船の上の明石の君は、露天に姿をさらしている。いや、昔からこうなんだから、昨今のテレビドラマが、多少、有職故実を曲げるくらいは大目に見てもいいんじゃないかと思うよ。
伊勢絵の冒頭には、角倉素庵が本阿弥光悦らの協力を得て出版した「嵯峨本」の伊勢物語が出ていた。出版史や書誌学的には「古活字本」として有名なものだが、絵画史との関係を知らなかったので、なぜこの展覧会に出ているのか、不思議な感じがした。そうしたら、この出版の影響は圧倒的で、この後の伊勢絵は、ほとんどが『嵯峨本 伊勢物語』の挿絵を踏襲しているのだそうだ。ほんとだ~。しかし、少数だが「規格」に与しないユニークな作品も生み出されている。伝・宗達の『伊勢物語図屏風』は、古絵巻の図様を利用したもの。いいな~。土佐派の『源氏物語 澪標図屏風』(江戸時代)もかなりユニークだった。金色を背景に、小さな松の木、小さな人物が多数、踊るようにうごめいている。
最後に、さまざまな源氏絵・伊勢絵の行き着く果てとして、それらしい登場人物がいなくても「源氏」「伊勢」の物語世界が喚起される「留守模様」を取り上げる。たとえば、源氏・宇治十帖のイメージを抜きには眺めることのできない『宇治橋柴舟図屏風』。おおお!これ、いくつかバリエーションの中で、私の最も好きな作品なのである。左右そろって展示されたのは、久しぶりではないかしら。酒井抱一の『八ッ橋図屏風』も、この季節にぴったりで嬉しかった。思わぬ眼福。