■泉屋博古館 企画展『歌と物語の絵-雅やかなやまと絵の世界』(2023年6月10日~7月17日)
会期末の週末に駆け込み鑑賞。屏風や絵巻物などの物語絵と歌絵を紹介するコレクション展。実はちょっと意外な感じがしていた。泉屋博古館と「やまと絵」があまり結びつかなかったのだ。しかし展示の19件は、確かに全て同館の所蔵品だった。最も古い作品は伝・公任筆『中色紙』(古今355・つるかめもちとせののちはしらなくに)。巧いとは思わないが、たよりなげで雅やかな筆跡である。三十六歌仙を描いた書画帖(江戸時代)が2種類出ていた。松花堂昭乗を作者とするものは、書(和歌)と絵が交互に貼られている。近世らしく、人間味を感じさせる歌仙絵である。
屏風は見覚えのない作品もあって面白かった。『柳橋柴舟図屏風』(六曲一双)は、ひろびろした川面を柴舟が三艘渡っていく。金地よりも若草のような緑色が目立って、のんびりした雰囲気。『秋草鶉図屏風』は、なんだかウズラがいっぱいいて、ちっとも寂しさを感じない。『扇面散・農村風俗図屏風』は右隻が扇面散らし。全く文字が書いていないのに、この扇面はこの和歌と説明されていて、どうして図柄だけで断定できるんだろう?と思ったら、光悦著『扇の草紙』という典拠があるのだった。左隻の農村風俗図には、田んぼを眺める父親と子供、それに夕顔の這いつたう質素な家の前で、腰巻ひとつの母親が幼子に乳を与えている。
絵巻は『是害坊絵巻』が楽しい。唐の天狗・是害坊はちょっと図々しいが憎めない。狩野益信筆『玉取図』は縦長の画面に、船の上で見守る人々、命綱をつけて潜っていく海女、海底から躍り上がる龍神と、物語の要素を全て盛り込んでいて見事である。この日は久しぶりに青銅器館もひとまわりしてみた。
■京都文化博物館 特別展『発掘された珠玉の名品 少女たち-夢と希望・そのはざまで 星野画廊コレクションより』(2023年7月15日~9月10日)
京都・東山岡崎にある老舗の画廊、星野画廊のコレクションから「少女」を描いた日本画と洋画約120点を展示する。冒頭に、おそらく知らない画家の作品がほとんどでしょう、みたいな言葉が掲げられていた。確かに、例外的に北野恒富や島成園、岡本神草、甲斐荘楠音のような知っている名前もあり、2022年の府中市美術館の展示で覚えた笠木治郎吉の作品もあったけれど、それはほんの一部である。多くは初めて聞く名前、いや、そもそも「作者不詳」の作品も多い。でも、明治、大正、昭和と、ああ日本人はこういう絵を描いて、こういう絵を好んできたんだなあ、というのが、なんだか腑に落ちる感じがした。
入口に「どの作品が一番好きかを考えながらご覧ください」というアドバイスもあり、最後に人気投票のパネルがある。私は笠木治郎吉の『下校の子供たち』(歴博で見たもの)と迷ったが、菊池素空『羅浮仙女』にシールを貼ってきた。会期の初日だったので、まだ貼られているシールは少なかったが、最終的にどういう結果になるのか、楽しみである。
歴史好きなので総合展示の『足利将軍、戦国を駆ける!』(2023年6月10日~8月6日)と『足利将軍が見た山鉾巡行』(2023年6月17日~8月13日)も面白く見た。足利義政が祇園祭の行列を自宅(烏丸第)前に呼びつけたエピソードには笑ってしまった。この2つの展示 には「室町幕府滅亡後450年」(1573年滅亡)という共通キャプションが付いているのだが、滅亡をアニバーサリーにされるの、どうなんだろう。