■太田記念美術館 『闇と光-清親・安治・柳村』(2022年11月1日~12月18日)
小林清親(1847-1915)は、西洋からもたらされた油彩画や石版画、写真などの表現を取り込むことにより、これまでにない東京の風景を描いた。本展は、小林清親を中心に、これまで紹介されることの少なかった井上安治(1864-1889)や小倉柳村(生没年不明)の作品を加え、光と影を情感豊かに捉えた「光線画」約200点(前後期で全点展示替え)を展示する。
最終日に行ったら、たくさんお客が入っていて驚いた。清親・安治・柳村なんて、全くメジャーじゃないと思っていたのに、みんなどこで情報を得て見に来たのだろう。私は、清親の名前も「光線画」という用語も、何度か聞いたことがあったが、あまり感心したことがなかった。この展覧会も、見逃してもいいくらいに思っていて、最終日にふらりと寄ったのだが、なんだかとても引き込まれてしまった。このところ、派手派手しい明治錦絵(明治赤絵)を見る機会が多かったので、その落差が身に沁みたのだ。同じ時代の風景を描いても、こんなに違いがあるのだな。
清親は、ガス燈や洋館など明治らしい風物を描いていても、基本的な共感は、江戸の情緒にあったように思われる。その郷愁や哀感が、なんとも言えない魅力になっている。しかし清親は、明治14年(1881)に光線画の制作を中止し、以後、風景画を描くことはあっても光線画風には描かなくなってしまう。理由については、Wikipediaに記事があることを補記しておく。弟子の井上安治は、もう少し屈託なく明治の風物を描いたという解説も面白かった。
そして、わずか9点しか作品が残っていない謎の絵師・小倉柳村(本展には8点を展示)。実は本展のメインビジュアルは、清親でなく柳村の『湯嶋之景』なのである。街を見下ろす坂の上に男性二人が背を向けて佇む、ミステリアスな雰囲気。以前、同館の展覧会で見た記憶があり、強く印象に残っていた。
■太田記念美術館 『はこぶ浮世絵-クルマ・船・鉄道』(2022年10月1日~10月26日)
同館の1つ前の展覧会も見たのだが、レポートを書いていなかった。人や馬、船などを用いた、さまざまな「運ぶ」行為を描いた作品を展観する。お膳を運ぶ中居の女性、街頭で商品を売り歩く人々、飛脚や川越人足など。大井川の川越は、お金を出せば蓮台に乗せてくれるが、ケチると肩車なのだな。本展は「鉄道開業150年」の関連企画でもあり、鉄道はもちろん、馬車や人力車、船から気球まで、さまざまな乗り物が描かれた明治浮世絵が展示されていた。