○国立文楽劇場 平成28年初春文楽公演 第1部(1月10日、11:00~)
・新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)・座摩社の段/野崎村の段
この狂言、「野崎村の段」以外の段を見るのは初めてのように思う。恋は思案の外とはいいながら、お染久松のむこうみずが私はあまり好きではなかったのだが、だんだん若い恋人たちに同情を感ずるようになってきた。初めて「座摩社の段」を見て、いっそうその気持ちが強くなった。若い二人のまわりが悪いヤツらばかりなのだ(大坂では)。座摩神社は、正式には「いかすりじんじゃ」という古い神社だが通称で「ざまじんじゃ」ともいう、と先日読んだ『大阪府謎解き散歩』に出てきた。狂言では「ざま」と読んでいた。「野崎村」の切は咲大夫さん。和生さんのおみつちゃんは相変わらず可愛い。
・八代目豊竹嶋大夫引退披露狂言:関取千両幟(せきとりせんりょうのぼり)・猪名川内より相撲場の段
30分の休憩(ロビーでお弁当で昼食)のあと、開演のブザーが鳴って席につくと、床に嶋大夫さんと三味線の鶴澤寛治、呂勢大夫が現れ、呂勢大夫さんが嶋大夫の引退について口上を述べる。それから、英大夫と津国大夫(かな?)が嶋大夫の隣りに座って、幕が開く。呼び出しが妙にたくさん大夫の名前を並べると思ったら、このあと、もう四人くらいが入れ替わり立ち替わり、役に応じて床に上がるのである。なんか落ち着かない狂言だなあ。嶋大夫さんは、関取猪名川の女房おとわの役。女役なので高めの声音だが声はよく聞こえる。でも嶋大夫さんの語りの量が少なすぎる~。人形は猪名川を玉男さん、おとわを蓑助さんで、万全の配置なのは分かるが。
そして場面が一段落すると、床がまわって、嶋大夫も他のみなさんも引っ込んでしまう。これだけかい! 中途半端な舞台で呆然としていると、舞台は浅葱幕で目隠しされたまま、床に三味線の鶴澤寛太郎さん登場。「このところ櫓太鼓曲弾きにて相勤めます」の声が入る。私は2013年2月にもこの狂言を見ていて、そのときは鶴澤藤蔵さんと鶴澤清志郎さんが二人で曲弾きを見せてくれた。寛太郎さん、基本的に無表情で生真面目なんだけど、失敗しかけたときにちょっと笑顔が見えた。
とても面白かったけど、櫓太鼓が終わったところで、再び嶋大夫さん登場。え?引退披露はまだ終わっていなかったのか。気持ちの切り替えができなくて、何重にもとまどう。舞台上では、相撲取役の人形が廻し姿で裸体を見せるのがめずらしい。金の工面に迫られて八百長を考えていた猪名川は、贔屓から祝儀金が入ることを知って鉄ヶ嶽を倒す。その祝儀金は、女房おとわが自ら身売りしてこしらえたものだった。駕籠でゆくおとわを見送る猪名川で幕。まだ物語の途中なのかもしれないけど、ものすごくあっけない幕切れ。こんな引退狂言ないだろ。正直ガッカリした。この記事のタイトルは「嶋大夫引退狂言を聴く」にしたかったのだが、全然聴けていないのだ。
しかし引退狂言に多くを期待してはいけないのだと思う。一期一会の芸は、聴けるときに聴いておくべきなんだろう。いま自分のブログを検索しながら、ああ『本朝廿四孝』の「十種香の段」よかったな、『摂州合邦辻』も『ひらかな盛衰記』も嶋大夫さんで聴けてよかった!と回顧にふけっている。今の私にはいちばん心に残る大夫さんでした。お疲れさまでした。
・釣女(つりおんな)
狂言『釣針』をもとに明治期に歌舞伎舞踊に移され、昭和に文楽となった。詞章が狂言そのままなのが面白い。大名と太郎冠者は、西宮の恵比須神社に祈願し、釣竿を授かり、おのおの妻となる女性を釣り上げる。初見のような、どこかで見たような曖昧な記憶があったのは、札幌の「あしり座」のオリジナル狂言『祝い唄』も元ネタがこれなのではなかろうか。咲甫大夫さんの明るい声を新年のはじめに聴けて満足。
・新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)・座摩社の段/野崎村の段
この狂言、「野崎村の段」以外の段を見るのは初めてのように思う。恋は思案の外とはいいながら、お染久松のむこうみずが私はあまり好きではなかったのだが、だんだん若い恋人たちに同情を感ずるようになってきた。初めて「座摩社の段」を見て、いっそうその気持ちが強くなった。若い二人のまわりが悪いヤツらばかりなのだ(大坂では)。座摩神社は、正式には「いかすりじんじゃ」という古い神社だが通称で「ざまじんじゃ」ともいう、と先日読んだ『大阪府謎解き散歩』に出てきた。狂言では「ざま」と読んでいた。「野崎村」の切は咲大夫さん。和生さんのおみつちゃんは相変わらず可愛い。
・八代目豊竹嶋大夫引退披露狂言:関取千両幟(せきとりせんりょうのぼり)・猪名川内より相撲場の段
30分の休憩(ロビーでお弁当で昼食)のあと、開演のブザーが鳴って席につくと、床に嶋大夫さんと三味線の鶴澤寛治、呂勢大夫が現れ、呂勢大夫さんが嶋大夫の引退について口上を述べる。それから、英大夫と津国大夫(かな?)が嶋大夫の隣りに座って、幕が開く。呼び出しが妙にたくさん大夫の名前を並べると思ったら、このあと、もう四人くらいが入れ替わり立ち替わり、役に応じて床に上がるのである。なんか落ち着かない狂言だなあ。嶋大夫さんは、関取猪名川の女房おとわの役。女役なので高めの声音だが声はよく聞こえる。でも嶋大夫さんの語りの量が少なすぎる~。人形は猪名川を玉男さん、おとわを蓑助さんで、万全の配置なのは分かるが。
そして場面が一段落すると、床がまわって、嶋大夫も他のみなさんも引っ込んでしまう。これだけかい! 中途半端な舞台で呆然としていると、舞台は浅葱幕で目隠しされたまま、床に三味線の鶴澤寛太郎さん登場。「このところ櫓太鼓曲弾きにて相勤めます」の声が入る。私は2013年2月にもこの狂言を見ていて、そのときは鶴澤藤蔵さんと鶴澤清志郎さんが二人で曲弾きを見せてくれた。寛太郎さん、基本的に無表情で生真面目なんだけど、失敗しかけたときにちょっと笑顔が見えた。
とても面白かったけど、櫓太鼓が終わったところで、再び嶋大夫さん登場。え?引退披露はまだ終わっていなかったのか。気持ちの切り替えができなくて、何重にもとまどう。舞台上では、相撲取役の人形が廻し姿で裸体を見せるのがめずらしい。金の工面に迫られて八百長を考えていた猪名川は、贔屓から祝儀金が入ることを知って鉄ヶ嶽を倒す。その祝儀金は、女房おとわが自ら身売りしてこしらえたものだった。駕籠でゆくおとわを見送る猪名川で幕。まだ物語の途中なのかもしれないけど、ものすごくあっけない幕切れ。こんな引退狂言ないだろ。正直ガッカリした。この記事のタイトルは「嶋大夫引退狂言を聴く」にしたかったのだが、全然聴けていないのだ。
しかし引退狂言に多くを期待してはいけないのだと思う。一期一会の芸は、聴けるときに聴いておくべきなんだろう。いま自分のブログを検索しながら、ああ『本朝廿四孝』の「十種香の段」よかったな、『摂州合邦辻』も『ひらかな盛衰記』も嶋大夫さんで聴けてよかった!と回顧にふけっている。今の私にはいちばん心に残る大夫さんでした。お疲れさまでした。
・釣女(つりおんな)
狂言『釣針』をもとに明治期に歌舞伎舞踊に移され、昭和に文楽となった。詞章が狂言そのままなのが面白い。大名と太郎冠者は、西宮の恵比須神社に祈願し、釣竿を授かり、おのおの妻となる女性を釣り上げる。初見のような、どこかで見たような曖昧な記憶があったのは、札幌の「あしり座」のオリジナル狂言『祝い唄』も元ネタがこれなのではなかろうか。咲甫大夫さんの明るい声を新年のはじめに聴けて満足。