付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「八犬伝」 原作:山田風太郎

2024-12-14 | 本屋・図書館・愛書家
「悪も勝つこともあるこの世の中だからこそ、別の世界を読者には味わってもらいたい」
 勧善懲悪、善因善果、悪因悪果が曲亭馬琴の作品作りの根底なのだ。

 滝沢馬琴は人気絵師の葛飾北斎に構想中の新作について語った。第三者として北斎の率直な感想が聞きたかったのだ。
 北斎はこんな面白い話はなかろうと絶賛するが、その挿絵を担当することは拒否した。どうせ馬琴があれこれ注文つけたり文句を言うから面倒くさいというのだ。そして、話を聞き終えた勢いで描き上げた渾身の挿絵3枚を、馬琴にチラ見せするや破り捨てた。
 このやりとりが、以後の彼らの交流スタイルとなった……。

 夫婦2人で、山田風太郎原作、役所広司主演の『八犬伝』を観てきました。妻は「八犬伝」といったらNHKの人形劇『新八犬伝』がまず脳裏に浮かぶ世代で、自分は直近で読んだのが鎌田敏夫の『新・里見八犬伝』で、忍法帖が混ざってよく分からなくなっているありさまでしたが、とにかく堪能できました。馬琴と北斎のやりとりに魅入られながらの2時間半。虚実のいずれが真なるやという創作論を軸に、親子・家族のあり方が混じり合いながら、南総里見八犬伝の名シーンが映し出されていきます。いや、『南総里見八犬伝』は書籍もコミックも多けれど、抄訳と翻案もので頭がぐちゃぐちゃ。なので山田風太郎版の八犬伝がどこまで原作に忠実で、それを映画がどこまでなぞっているか分かりませんけど(少なくとも結末は違います)。
 本というのはイラストが大事とか、原稿は上がっていても出版社の都合で刊行が遅れるとか、最近イラストレイターの原稿が遅れているとか、今でもよく聞く話でございますね。現実と物語とどちらか虚か実かとか、創作者にとってのテーマはいかにあるべきかとか、しっかり調べても面白さ優先で史実とかに嘘を交えても赦されるとか、やはり読者の生の感想は嬉しいとか、創作論が語られる曲亭馬琴パートと、どちらかというと2.5次元ののりで派手なアクションが繰り広げられる八犬伝パートが交互に語られます。
 難点は犬とか船とか、ときどきCGの出来に甘さが見えること。いちばん怖かったのは、芝居と現実いずれが真なるやと頭上から語りかける鶴屋南北。正直、このシーンだけで来た甲斐は合ったと思いました。

【八犬伝】【曽利文彦】【役所広司】【山田風太郎】【キノフィルムズ】【[虚]と[実]が交錯する前代未聞のエンターテインメント超大作】【内野聖陽】【土屋太鳳】【渡邊圭祐】【鈴木仁】【板垣李光人】【水上恒司】【松岡広大】【佳久創】【藤岡真威人】【上杉柊平】【河合優実】【小木茂光】【丸山智己】【真飛聖】【忍成修吾】【塩野瑛久】【神尾佑】【栗山千明】【中村獅童】【尾上右近】【磯村勇斗】【立川談春】【黒木華】【寺島しのぶ】【鉄砲】【四谷怪談】【赤穂浪士】【渡辺崋山】【鶴屋南北】【あれは、絵になる】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする