付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「『エロイカより愛をこめて』の創りかた」 青池保子

2009-06-29 | 伝記・ノンフィクション
 1976年に始まり、先日最新35巻が発売されたスパイ・コメディ『エロイカより愛をこめて』を題材に、作者自らキャラクターのモデルとなった人物やストーリー作りの裏話から作家デビューの顛末までたっぷり書きつづった1冊。
 少女マンガゆえ堅物の軍人であるクラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐を長髪にしてしまい、軍人らしくないのではと悩んだこともあったらしいけれど、ドイツ軍の広報誌『イプシロン』で紹介された後の反応は上々で結果オーライだったようです。

『本質的にはしかし、彼の髪型に関しての議論は意味がないだろう。結局のところ、「なぜジェームズ・ボンドは、いつもスーパーモデル並の美女と知り合うことができるのか?」とは誰も深く考えないのだから』

 イプシロン記事より。
 少女マンガとしては、政治軍事などについて深いところまで言及する作品ですが、現地取材や現地の人々の協力も大きいようで、必要とあれば軍事評論家や専門家に相談することもあるそうです。ドイツ軍の雑誌掲載に前後するエピソードについても1章が設けられていて、実を言えばこの詳細が読みたくてこの本を買ってたりします。
 その他合作マンガも2編収録していて、この週末でしっかり堪能させていただきました。

【『エロイカより愛をこめて』の創りかた】【青池保子】【ZEP】【ELP】【エーベルバッハ市】【イプシロン】【ビザンチン遺跡調査団】【アンドロメダから来た】【大島弓子】【おおやちき】【樹村みのり】
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「かの悪名高き 十九世紀パリ怪人伝」 鹿島茂

2009-03-02 | 伝記・ノンフィクション
 専業作家を世に送り出し経営危機のオペラ座を救った怪人タコ博士から反骨の新聞人まで、19世紀パリにおいて「黒い獣」(憎まれっ子)と忌み嫌われた、節操のないジャーナリズムの成功者たちの人生を抜き書きした列伝。
 中でも紙幅の半分を費やしているのが、大衆娯楽紙フィガロの創始者であるジャン=イポリット・ド・ヴィルメサン。

「面白ければ、すべてよし」
 フィガロの編集方針。

 職を転々としたあげくパリに出てきたヴィルメサンは、「およそ仕事というものを何ひとつ知らないので、いかなる先入観にも惑わされることがない」と楽天的にかまえ、思いつきからファッション・モード紙を創設。香水メーカー・ゲランを取り込み、でっち上げの広告記事で売上を伸ばしていきます。彼には文才はないけれど、クライアントの要望を的確に反映させる広告マンであり、顧客心理を巧みについた営業マンだったののです。
 そして、彼は自紙の批評欄に論争を巻き起こします。彼は文芸や演劇の批評に手心を加えないばかりでなく、フィガロ紙そのものへの批判すら受け止めました。でも、それは客観性とか公正さにこだわったからではなく、単に「読者がその方が喜ぶから」だったのです。

【十九世紀パリ怪人伝】【鹿島茂】【ヴェロン】【ミヨー】【アヴァス】【フィリポン】【ヴィルメサン】
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「白洲次郎 占領を背負った男」 北康利

2008-12-16 | 伝記・ノンフィクション
 葬式無用、戒名不要。

 どこまでが真実なのかわからなくなると著者をして言わしめた白洲次郎の生涯。
 ハードカバー版では買わなかったけれど、文庫落ちしたので上下巻で購入。
 上巻は誕生からイギリス留学、占領下日本で憲法起案や公職追放をめぐるGHQとの攻防まで。下巻は講和条約締結の裏舞台から日本経済再建を経て一周忌のエピソードまで。吉田茂の懐刀として活躍。表舞台に出ることを嫌ったことから、時にはラスプーチンとまで揶揄されたけれど、基本はやらなきゃいけないときにはやるべきことを徹底的にやり、やることが済んだらとっとと田舎へ隠遁するというイギリス仕込みの「紳士の哲学」の結果。
 日本の自立のためには経済再建を最優先しなくてはならず、それには国内産業の保護育成ではなく貿易だと信じた白洲次郎は、旧体制を根底からひっくり返して貿易庁の情実関係を一掃。そのまま貿易庁をぶっ潰して通商産業省を創設するだけすると、古いものなんか引きずらず新しいものを作れとばかり引き継ぎも許さずに身を引いてしまいます。
 226事件、開戦、敗戦、東京裁判、日本国憲法制定、サンフランシスコ講和条約と昭和日本史を振り返ってみると、歴史の授業で習ったときよりもすっと頭に入っていきます。これも誰よりも渦中にいながら最後まで第三者的な姿勢を崩さなかった白洲次郎の視点で見ているからでしょうね。

【白洲次郎】【占領を背負った男】【北康利】【吉田茂】【GHQ】【東北電力】
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「海将補のアフリカ奮闘記」 松浦光利

2008-11-29 | 伝記・ノンフィクション
 ザンジバルから新造船の訓練指導にあたる人材派遣が日本に要請されていたが、海運業界からはなり手が見つからず、やむを得ず退役直後の海上自衛隊の海将補が単身アフリカに送り込まれて四苦八苦した、1975年から6年間の記録
 なにしろ船長資格を持っている者がほとんどおらず、いても腕が悪く、乗り込んだ船のレーダーは故障しているし、灯台の大部分はガス欠で消灯しているし、荷役作業員は怠けていてちっとも働かないし、食事はまずいし、船長は指導半ばでいなくなっちまって、交代に来た船長は前の船長よりさらにヘタクソで人望が無く、水先案内人はあてにならない。しかも海員学校の設立やら緊急輸送だの、飛び込みの仕事が次から次へ……。

【海将補のアフリカ奮闘記】【松浦光利】【愛知万博】【烏合の衆】 
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「淀川長治の映画人生」 岡田喜一郎

2008-09-12 | 伝記・ノンフィクション
「自分がはじめからひとりだという覚悟を強く持つことだね。もうひとつは、自分の生きる目的を、ハッキリと持つことだ」
 生涯独身を貫くための掟。

 1998年に没した映画解説者、淀川長治の明治から平成にかけての映画人生について、友人であった著者が、映画の話から温泉旅行の話まで取り混ぜて紹介する1冊。淀川長治の書いた映画のキャッチコピーや内外との映画スターとの交流といった、調べれば誰でもわかるだろうといったエピソードから、よくぞこんなことまで生前に聞き込んでいたなという、幼少の頃に売れっ子芸者に連れられて芝居見物に行ったことまで、いろいろもりだくさんの生涯。

 美しいモノに感動しよう、感激する心を大事にしよう。ちょっとしたユーモアがあれば愉快になれる。そのためには映画を見よう。良い映画だったら何回でも見よう。

 そういう生き方にあふれています。
 でも「男と女の関係だろうと、男と男の関係だろうと、愛というのには差別がない」とか「不倫だって(条件付きで)大賛成だ」などとけっこうフリーダムな発言もしているのですね……。

【淀川長治の映画人生】【岡田喜一郎】【芸者】【アンナ・パブロワ】【ギャラ】【映画遊び人】
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「蒋介石」 保坂正康

2008-07-04 | 伝記・ノンフィクション
 蒋介石の評伝。良いも悪いも淡々と書き連ねてあるのが特色。ときどき年代が前後してわかりにくいところが数カ所あったが、当時の中国の雰囲気を知る一助にはなると思う。
蒋介石個人の言動、中国人民の対日感情、日本政府の外交方針と認識不足等、チェックしていくとおもしろい。

【蒋介石】【保坂正康】
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「ご冗談でしょう、ファインマンさん」 R.P.ファインマン

2008-05-30 | 伝記・ノンフィクション
 「信念のために歴史を改変しました。あとは野となれ山となれ」という、アンダースン&ビースンの『臨界のパラドックス』に、金庫破りが趣味の変な科学者ファインマンが登場するのだけれど、本物のファインマンはへたな小説より面白いのです。
 リチャード・ファインマン(1918-1988)は、ノーベル物理学賞を受賞したアメリカの物理学者。マンハッタン計画にも携わって原爆開発にも参加していますし、晩年はスペースシャトル爆発の事故調査委員会に加わって物事の真実を突き止め、それを他人に判りやすく解説する能力を発揮しています。

 この『ご冗談でしょう、ファインマンさん』は、ファインマンの少年時代から戦後日本を訪問したあたりまでの回想録。最初、岩波書店のハードカバーを新古書店の投げ売りで購入し、あまりに面白かったので反省して、後に岩波現代文庫で復刊されたときにすべて買い直しました。
 知的好奇心が旺盛で、何事も自分の目で確かめ考え意味づけしないと気が済まないファインマンですが、なにより人生を愉しんでますね。だから、その回想を読んでいても面白いし、生半可なフィクションでは太刀打ちできません。

「ええ、僕がやりました」
「ふざけるなよ、ファインマン」

 犯人は自分だと名乗り出ても信用してもらえない悲劇。

 マンハッタン計画の舞台となったロスアラモス時代には、病床の妻と手紙を暗号文でやりとりしたりして検閲官をからかい続け、同僚の机の引き出しや金庫を片っ端から開け閉めして金庫破りの腕を磨き、ブラジルに大学教育のテコ入れで招聘されたときは詰め込みだけの教育を一蹴する一方で、太鼓の腕を磨いてサンバ・カーニバルに参加。ラスベガスでギャンブル修行をし、ナンパ術に磨きをかけ、絵画に凝ってマッサージ・パーラー用に飾る絵を描いたけれど納品前に経営者が監獄行き。トップレスクラブが公序良俗に反しているかの裁判では、クラブ側の証人として裁判に出席。博物館で手に入れたマヤ文字を眺めているうちにパターンを解読、解説書の誤りを発見し……。

 人事管理的には、ロスアラモス時代の計算センターの話が面白い。機密優先で、担当者たちに何も教えず計算だけさせていたときよりも、何のための作業なのか説明した後の方が「僕らは戦争に参加しているんだ!」と士気が上がり、作業手順の改善なども現場で考えてどんどん実行していったのだそうです。これは経営学のテキストにはないエピソードですねえ。

【ご冗談でしょう、ファインマンさん】【MIT】【メッキ】【金庫破り】【レーダー】【ディラック方程式】【ノーベル賞】【ドラッグ】
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「アラブの大富豪」 前田高行

2008-04-09 | 伝記・ノンフィクション
 最近、アラブ成分が不足していたので、ちっとばかし供給。

 今なお総額1京3000兆円相当の石油や天然ガスが眠っているという地下資源を背景に、世界経済を牛耳っているアラブの大富豪を描くことでオイルマネーの流れを紹介しようという本。

 アラブの大会社というのは、王族=大富豪が支配しているわけで、当然株式公開の必然性も何もないから他人が財務諸表を手に入れることは不可能。それでも表面に出てくる動きをとらえていくだけで、アラブの近現代史が浮かび上がってくるところが面白いよね。
 ビジネスとしては完全に失敗だった競馬の世界からドバイが得たモノは何か?
 ペルシャ湾での戦争を「湾岸戦争」と呼ぶのは何故か?
 サウジアラビアのアルワリード王子が投資家として成功できたのは何故か?
 産油国に囲まれた弱小国にすぎないヨルダン王国が国際政治で飛び回っている理由は?
 こうした話題の数々を順番に展開していくので、読んでいても飽きません。個人的にいちばん面白かったのは、建設ブームに湧くドバイの話かな。いつ完成するとも知れない巨大タワーは知っていたけれど、土台が回転するんで全室オーシャンビューなマンションは知りませんでした☆ 竣工した姿を是非みたいものです。

【アラブの大富豪】【前田高行】【オイルマネー】【コーラン】【政商】【王族】
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「ホワイトハウスの職人たち」 マイケル・ユー

2008-03-15 | 伝記・ノンフィクション
「ダイエットと健康を考慮しなければデザートではない」
 25年間ホワイトハウスに勤めたロラン・メスニエの言葉。 

 アメリカ大統領だって散髪する必要はあるし、服装だってきちんとしたものにしなけりゃいけない。国賓を迎えての晩餐会をすることもあるけれど、何も無くったって大統領一家も食事はするのだ……ということで、ホワイトハウスで働く料理人、菓子職人、学芸員、理髪師、仕立屋、フローリストといった表舞台に出ることはない職人たちの物語を、本人とのインタビューや資料によって語った1冊。
 菓子部門がクーデターで料理部門から独立した話とか、料理人は12万ドルの年俸でも引き留めるのが難しくなっているとか、911後のアフガニスタン出身の理髪師の運命とか、仕立屋のプライド、東西冷戦とジャクリーンのTVツアーだとか。
 ところで、こうした職人たちの統括はファーストレディの役割なんだとか。もし女性大統領が誕生したら、どうするんでしょうかね?

【ホワイトハウス】【職人】
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「傭兵の二千年史」 菊池良生

2008-03-01 | 伝記・ノンフィクション
「フランスのためにスイス人の流した血潮はパリからバーゼルに至るありとあらゆる河川に満ち溢れている」

 16世紀のイタリア戦争を舞台にした『ばら物語』というコミックがあって、その主人公の1人が傭兵として砲兵隊を指揮するローザ。そこで実際に、砲兵部隊として独立した傭兵隊ってあったっけ?……という話題になったのです。
 ところがインターネットで調べてもなかなかわからない。
 フィクションではパイパーの『異世界の帝王』に登場するアルキデス隊長とかいますんで、そういうものだと思っていましたがリアルもそうかといわれると確証がない。
 それでも、あれこれ調べていて、それらしい内容の目次がある本『傭兵の二千年史』をみつけました。
 でも近所の本屋には置いてなく、かといって何日か待ってアマゾンあたりで購入する手間暇・お金をかけてまで調べることかと思い直し…………と思っていたら、自分ちの書架にありました。

 よくあることよくあること。
 まあ、「こんなこともあろうかと」。

 で、載ってるかなあ……。

 はっきりとは書いてないですね。傭兵部隊に砲兵はいたけれど、独立していたかどうかははっき言及はしてません。でも要点は幾つか。

・砲術は特殊技術である。高度な専門知識と修行が必要。
・砲兵隊は専門家集団であり、秘密結社的な同業組合であった。
・砲術は門外不出で、徒弟制度でのみ伝えられていた。

 これが16世紀くらいまでの砲兵だったようで、マウリッツの軍制改革まで続いていたようです。
 まあ、日本でも雑賀衆なんていますしね。
 そう考えると、独立した砲術集団があった方が自然ということですね。

【傭兵の二千年史】【菊池良生】【講談社現代新書】【スイス傭兵】【ワイルドギース】【砲兵】【騎士団】【古代ギリシアの民主制崩壊】【ナポレオン戦争】
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「世界をだました男」 F・アバネイル/S・レディング

2007-12-25 | 伝記・ノンフィクション
 20世紀最大の詐欺師の自叙伝『世界をだました男』。正確には「世界中でだました男」。

 パンナムの副操縦士になりすますことを思いついたのがきっかけ。パイロットの特権を利用して世界各国・各都市をうろつき回り、行く先々で偽造小切手を乱発。ほとぼりを冷ます間にも、病院の専門研修医になりすましたり、大学講師になりすましたり……。
 でも、20世紀最大の詐欺師と言われるだけあって、単なる自称ではなく、本当に病院の部門管理者になっては7人のインターンと40人の看護婦を監督し、大学講師になりすましては社会学部の夏期講習を勤め上げ、各地で偽造小切手を使いまくって手に入れた金額だけで250万ドル以上。
 でも、彼が逮捕されたとき、実は大学に入学もしていない高校中退の21歳……
ってのが……あ~……う~ん……なんか美女に囲まれて優雅な生活だったらしいですよ。もうそれだけで「おまえ、いつ死んでも良いだろ?」という感想しか持てませんね。そうでしょ?
 まあ、逮捕された後のフランスの牢獄が前近代的で悲惨な状況だったそうだけど、あちこち引き渡しがあったり、逃亡したりと紆余曲折あった末に、母国アメリカで服役。出所後は詐欺対策のコンサルタントとして活躍……って……。

【パイロット】【詐欺師】【独房】
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「父の仕事を継ぐ 自分の味をつくる」 陳建一

2007-12-18 | 伝記・ノンフィクション
 料理の鉄人、中華料理の陳建一自らが語る半生記。
 『父の仕事を継ぐ 自分の味をつくる』は、岩波ジュニア新書だけあって、同じ職業に就いた親と子の関係にポイントを置いてあります。今は小学校でも「お父さんたちに仕事の話を聞く」なんて授業もあるのですが、そんな感じで生い立ちから料理の道に進んだ経緯、職場での親子関係の困惑から抜け出そうと努力したこと、『料理の鉄人』に出たことで1つ吹っ切れたものがあることなど、厳しいけれど、常に明るく楽しく前向きで頑張ろうという著者の姿勢が見えて読んでいて楽しいし元気になります。
 もともと伝記とか自伝とか回想録とか好きなんですけども、これも子供に読ませたい1冊です。

【父の仕事を継ぐ 自分の味をつくる】【陳建一】【料理の鉄人】【家業】【陳建民】
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「定刻発車」 三戸祐子

2007-11-29 | 伝記・ノンフィクション
 PBMをやっていて感じることは、たった1つのアクションが他の多くのシナリオに影響を与えることもあれば、多くのアクションの結果としてたった1つのイベントが起きることもある、ということ。現実もそうだから……ということもできるし、そういうところをきちんと押さえてあるゲームは面白いと認識することもできる。
 まあ、そんなことをつらつらと読みながら考えてしまいましたが、それを抜きにしても『定刻発車~日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか』は面白かったです。

 まず前提として日本の鉄道の時刻管理は非常に優秀だと本書では指摘しています。世界的に見て、異常なくらいダイヤが正確。日本では電車が5分遅れても大騒ぎし、30分遅れればニュースになる。でもそんな国は他の世界にありません。もっとも優秀といわれるスイスやドイツにしても、5分の遅れくらいは定刻のうち。欧米の他の国なら30分やそこらは「定刻通り」でひとくくり。アジアやアフリカの諸国に至っては……。そういう状況を認識した上で、「なぜ日本人だけが鉄道ダイヤ通りに運行することにこだわるのか」「なぜ定刻通りに走らせることが可能なのか」といった複数の視点から検証していきます。
 そうすると歴史的には、古くは徳川家康の天下統一にまで遡ります。安定した統一政府・行政組織の存在、参勤交代という失敗すればお家断絶になりかねない定期的な大プロジェクトの存在、時鐘によって動く市民生活、高い識字率と技術力、橋梁の制限など馬車交通を支える道路網が意図的に整備されていなかったこと……とシステムを支えることのできる社会基盤、生活習慣が存在していたことなどが挙げられますが、それはほんの一部に過ぎません。地形や気候から現代の乗員の訓練まで、あらゆる方面にあらゆる因果関係が指摘されることになります。
 先進国の援助で建設された鉄道網が朽ち果てていく途上国の実例をみればわかるように、一握りの意欲的な指導者、先進的な技術者だけでは、「時刻通りに動く鉄道」というものは存在し得ないのです。さまざまな条件が絡み合って、はじめて秒単位で運行される鉄道が実現し、存続していく姿を認識できるということは、なかなか感動的でありました。

【鉄道ダイヤ】【風土】【参勤交代】
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「私の履歴書~帝国ホテル厨房物語」 村上信夫

2007-11-26 | 伝記・ノンフィクション
 戦前から帝国ホテルの厨房に入り、専務取締役総料理長にたどり着いた村上信夫の半生記。序文がオテル・ドゥ・ミクニの三國清三オーナーシェフというのは、読んだ時期的にはタイムリー。
 味は盗むものであり、先輩の簡単な指示にも的確に対応できなければ容赦なく拳骨が飛んできた厨房の世界。やがて戦争になり、すべて拳骨で叩き込まれた軍隊。戦争が終わり、復興していく中で「もう、私的制裁はやめような」と犬丸社長が言い出し、秘伝のレシピも公開することで切磋琢磨していくようになったのがやっと昭和30年代前半。高度経済成長にともなって、世界の食材が入ってくるようになり、一般社会に「洋食」ではなく「フランス料理」が浸透していく一方で、冷凍食品などが普及していく光景は興味深くありますね。ターニングポイントはやはり東京オリンピックとテレビ出演……。
 個人の回想であると同時に、日本の戦後復興史としても読めるかも知れません。

 さて、食べ放題のビュッフェ形式を「バイキング料理」というのは帝国ホテルが発祥の地で、由来は近くの映画館で上映していたカーク・ダグラス主演の海賊映画での饗宴の様子から……って、映画かい!?

【ホテル】【洋食】【徒弟制度からの脱却】【バイキング】
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「負け組ジョシュアのガチンコ5番勝負!」 ジョシュア・ディビス

2007-11-23 | 伝記・ノンフィクション
 身長170センチ、体重60キロそこそこ。運動能力が優れているわけでもなければ、天才的なひらめきを持っているわけでもない、安月給のデータ入力係にすぎなかったジョシュア・ディビスが、「自分だって、何かの分野ではひとかどの人物になれるはず!(自分がヒーローになれる分野が必ずどこかにあるはず)」と、果敢かつ不毛な挑戦を続けた記録……。いや、不毛と言っちゃいけないな。彼は確かに成し遂げたんだから……。

 この本に収録されているエピソードは、タイトルにある通り5つ。アームレスリングの全米大会に参加し、やがて世界大会に挑む話。闘牛士になるべく速成教育を受けてスペイン遠征する話。相撲大会に出場する話。後ろ向きマラソンの世界大会に挑んだ話。そして北欧の耐久サウナ大会に参加する顛末。ええ、その体格でスポーツに挑むこと自体が大無謀ではありますが、行動力には誰にも文句がつけられません。
 何かムチャクチャだったりくだらなかったりする競技があると、たいていアメリカ発なんですが、なにかしら「自分が一番になれる拠り所が欲しい」というのはアメリカ人のアイデンティティなのかもしれません。

「精神科医に診てもらう必要があると思うわ」

 でもいちばんエライのは奥さんかな……。
 っていうか、嫁さんいたんかいっ!?

【相撲】【闘牛】【サウナ】【マラソン】【腕相撲】
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