付け焼き刃の覚え書き

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「魔法医師ニコラ」 ガイ・ブースビー

2009-08-07 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 不死の秘密を手に入れようとする怪人ニコラと、彼に雇われたブルース青年が、中国人秘密結社と渡り合いながらチベットの奥地へと旅する物語。菊地秀行の新訳で小学館文庫から出版されたのを買って読んで、前にも読んだ気がすると思ったら、ハードカバーの「地球人ライブラリー」版も実はうちの書架に並んでいて、さらにいうなら小学生の頃にも読んでました……。

 小学館が1971年から76年にかけてワイドカラー版『少年少女世界の名作』というシリーズを全55巻で刊行していたのです。まだたいして景気の良くない頃でしたが、小学生だった私に親がこの全集を買い与えてくれまして、自分はこれと江戸川乱歩の少年探偵シリーズで育ったようなものです。
 今になって思えば、「小学館の暴挙!」「ご乱心!?」というようなシリーズでした。各巻ごとにアメリカ編とかフランス編などと別れており、その中に文学からノンフィクション、昔話までひととおり収録されているという行き届いた構成です。たとえば「フランス編7」なら、ジュール・ベルヌの『十五少年漂流記』、ジュール・ルナールの『にんじん』、アンリ・ファーブルの『科学物語「かみなり」』、『きつね物語』、『モーパッサン短編』、『キュリー夫人』といったように文学、冒険小説から科学読み物、伝記までフォローされています。
 それだけなら普通の「よくできた」文学全集なのですが、その収録範囲がやけに広いのですね。テア・フォン・ハルボウ の『メトロポリス』や海野十三の『海底大陸』のようなSFあり、スーベストル&アランの『怪盗ファントマ』や黒岩涙香の翻案小説『ゆうれい塔』のような怪奇とミステリーあり、高垣眸の時代活劇小説『怪傑黒頭巾』あり、エミリオ・サルガーリの海賊小説『黒い海賊』あり。こんなラインナップを武部本一郎や小松崎茂、柳柊二といったイラストで読んで育つとどうなるかというと、ヘロドトスもディケンズもシャミッソーもクストーもバローズもルー・ウォーレスもコナン・ドイルもトーマもベルヌもデュマも壺井栄もバイコフもルナールもロフティングも川端康成も酒井三郎もモンゴメリもチャペックも夏目漱石もルブランもハガードも海野十三も、みんな互角になってしまうのです。読まずギライにはなりません。ノンフィクションだろうと科学の啓蒙書だろうと「とりあえず読んでみよう」となります。

 ……で、大きく話がそれましたが、ブースビーの『魔法医師ニコラ』も、もともとはそこで読んでいたのですね。それを小学館が完訳で「地球人ライブラリー」の1冊とし、さらには菊地秀行の新訳で小学館文庫から出版し……って、日本ではさほどメジャーでもあるまいに、どれだけ『魔法医師ニコラ』が好きなんだ、小学館!?
 なんというか、普通の基準でいう「良い人」「正義の味方」が出てこないのが特色。秘密結社にしろ博士にしろ、目的のためには騙す・殺すは当たり前なので、一種のピカレスク・ロマンなのかも。

【魔法医師ニコラ】【ガイ・ブースビー】【菊地秀行】【チベット】

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