many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

夜と霧の隅で

2015-01-22 21:00:52 | 読んだ本
北杜夫 昭和38年 新潮文庫版
こないだ読んだ「秘密と友情」のなかで、穂村弘が北杜夫に影響をうけたみたいなこと言ってたんで、さっそく読み返してみることにした。
私の持ってるのは昭和56年の33刷。
ふーむ、そのころ読んだんだな、なんでそのころ、こういう小説に興味あったのか忘れちゃったけど。
この短編集には、芥川賞受賞作の「夜と霧の隅で」が入ってる。そのあたりを読んでみたかったのかもしれない。当時はいまより短編小説が好きだったような気もするし。
「岩尾根にて」
山登りをしていると、とても信じられないようなロッククライミングをする男を、離れたところから目撃する。
しばらくすると、その岩を登っていた男と出会い、言葉を交わすが、男は病気で朦朧とした状態が自分にそういう行動をとらせるのだという。
二人の会話はどっちがどっちでしゃべったかわからないという態で書かれてて、なんかドッペルゲンガー的なものを想像させられる。
「羽蟻のいる丘」
三歳の女の子と母親が、芝と土のあって蟻のいる丘にいる。
母親と一緒に座って話している男は、女の子の父親ではない。
とりとめのないような話を男と女はするんだけど、どうしたって幸せにはなれそうにない雰囲気が満ち満ちてる。
「霊媒のいる町」
友人といっしょに、見知らぬ町にやってきたのは、霊媒による心霊実験をみるのが目的だった。
といっても、熱心なのは友人のほうだけなので、「私」は何故かイライラするような機嫌が悪くなるような思いに終始襲われる。
どうでもいいけど途中で立ち止まって「歩き方を忘れてしまったよ。足をうごかすやり方をね」っていう科白があるんだけど、なんか妙。
「谿間にて」
終戦の翌年、信州松本の島々谷の渓流沿いの道を歩いていると、蟻の巣を探しているという男に会う。
男はかつて蝶の採集人だったといい、台湾で珍しい蝶を追ったときの話を始める。
熱病のおそれと戦いながら、憑かれたように山奥へ入っていき蝶をとらえようとする執念が、けっこう最初読んだときから印象に残ってた短編。
「夜と霧の隅で」
第二次世界大戦も終盤の南ドイツの州立精神病院が舞台、ナチスによる精神病患者の安死術がテーマ。
「長期療養または不治と見なされる患者たちが、隠密のうちに何処かへ連れ去られてゆくようになった」んだが、医師たちのなかには、絶望的な状況でも新たな治療の試みをする者もいた。
死んだ患者の脳細胞の標本にしか主たる興味がなかった医師が、生きた患者に過激な療法を始めるんだけど、そのへん途中から急におもしろくなって、ズンズン読んでしまった。
むかしむかし初めて読んだときより、いまのほうがおもしろく感じたかも、めずらしいことに。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする