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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

真相

2016-11-10 21:07:50 | 読んだ本
ロバート・B・パーカー/菊池光訳 2007年 ハヤカワ・ミステリ文庫版
メイスンものを一作読むと、スペンサー・シリーズもひとつ読むというリズムがつづいてる、ここんとこ。
古本買ったりして、順に読んでってんだけど、これは書店に残ってた新刊だな、シリーズ30作め。
原題は「Back Story」、ただの真相ぢゃなくて、生い立ちってことか。
『初秋』以来おなじみのポール・ジャコミンが登場、今ではすっかり立派な舞台演出家になっている。
スーザン、ホークにつづいて、身内からの無報酬の依頼を引き受けることになるスペンサー。
だが、ポール・ジャコミンはよくわかっているので、スペンサーを訪ねるときには、ボストンでまだ売っていないクリスピイ・クリーム・ドーナッツをひと箱買ってくる。
どうでもいいけど、ホークがスペンサーのとこへ来るときも、必ずドーナッツの類を持ってくる。
ドーナッツとコーヒーをふるまわれると何の疑いもなく喜んで食っちゃうスペンサーなので、彼を殺すにはこれらに毒を入れれば一発ぢゃないかと思う。
さて、事件のほうは、ポールが連れてきた彼の舞台に出てる女優の過去について。
28年前の1974年に彼女の母が、ボストンの銀行で強盗に入った一団に射殺された、その犯人を改めていま見つけてほしいという。
迷宮入りの事件の記録を調べ、関係者の過去をあたっていくんだが、そうやってスペンサーが突っつきまわってると、例によって余計なことにクビ突っ込むんぢゃない、みたいなこと言ってくる連中が出てくる。
しかも、本作では、いかにも悪党の一味みたいな奴らだけぢゃなくて、「政府の者」と称する人間まで、手を引けとかってからんでくる。
一度乗りだしたら、誰がなんと言おうとやめないスペンサーだが、背後から撃たれちゃたまらないので、これまた例によってホークに護衛してもらう。
「(略)おれたちを殺そうとしたら、おれたちは阻止するよう努めるんだ」っていうスペンサーに対して、ホークは「その〈おれたち〉はどういう意味だ、白人野郎? 連中はおれを狙ってるわけじゃないよ」と、当然の抗議をする。
スペンサーの答えは、「お前はおれを守らなければならない。おれはお前のただ一人の友人だ」だ、いい友だちだね。
調べをすすめるうちに、28年前の事件に関して、FBIが乗りだしたはずなのに、その報告書が存在しないこととかがわかってくる。
迷宮入りぢゃなくて、誰かがなんかの意図をもって、うやむやにしちゃったのか。
そのへん追究しようとすると、当然むずかしいんだが、警察のなかでも長年の付き合いであるボストンの殺人課はスペンサーの味方だったりする。
でも、「(略)合法的なやり方があるとは思えないな」とベルソンが言うと、クワークは「そういうことのために私立探偵がいるんだ」なんて言ったりする、不法侵入なり誘拐なり何でもやれと、スペンサーに勧めてるわけだ。
かくして、真相は次第にあきらかになってくんだけど、状況はけっこう複雑で、スペンサーは、依頼人である女性にすべてを教えるべきか迷う。
>この仕事は時には人助けになる。しかし、今回は誰の助けになっているのだ? ダリルは私が調べ出したことを知りたいのだろうか? それで彼女の助けになるのだろうか? それを決めるのは自分なのか?
なんて悩む。うん、真実を知ることが必ずしもいいこととは限らないからねえ。
ところで、その葛藤をスペンサーがどう解決したかはさて置いて、スペンサーと恋人スーザンの関係だけど。
珍しいことに、スペンサーとスーザンとで飼ってた、愛犬のパールが、ここ何作かでは年老いていて来たるべき日が近いって覚悟が語られてたのは確かなんだけど、この物語の冒頭では、既に死んでしまっていたことになってるって描写がある。
珍しいよね、登場人物たちのペットの死があるシリーズものって。
二人は新しい犬を飼うことになるんだけど、まあ、それはいいや。
事件に係わる敵方によってスペンサーに危険が及ぶことを心配するスーザンだが、スペンサーは誰が何と言おうと撤退しない。
そのへんのことをやりとりしてる二人に対して、ホークは、
>「お前さんたちは、まともに話をしない(略)一人が暗号のようなことを言うと、もう一人が〈判ってる〉と言う(略)」
とズバッと指摘する、まあ、そうだ、たしかに。
でも、スペンサーは、ホークに何と言われようと、
>私はテイブルの向かいの彼女を見た。スーザンに似た女性はどこにもいない。(略)彼女は、雅量と自我没頭、確信と混乱に満ちている。彼女は明敏で厳密。大胆でいながら優柔不断、偏見がなく、専横で、素直、短気、情愛深く、現実的で、情熱的だ。(略)私がこれまでに知った中でもっとも完全な人だ。
って絶賛してる。あー、そうかい、勝手にしてください。
コメント
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