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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

愛と狂瀾のメリークリスマス

2018-03-21 17:50:10 | 堀井憲一郎
堀井憲一郎 2017年 講談社現代新書
私の好きなライター、ホリイ氏の新しい著作。
ちゃんとクリスマス前の10月に出版されてたようだが、1月になってから買った、知らなかったもんで、すいません。
えー、でも、クリスマス? さんざやったじゃん、あれでしょ、アンアンだかノンノだかが仕掛けたという、まさか焼き直し?
と思ったら、全然ちがった、サブタイトルの「なぜ異教徒の祭典が日本化したのか」に従い深い考察がされてる、大マジメな新機軸。
なんせキリスト教伝来の戦国時代までさかのぼって、当時クリスマスはどんなだったかなんてことまで文献調べてるんだから、まったく日本史。
戦国時代の文献がそんなあるわけはないんだが、近代に入ると、東京朝日新聞の1888年(明治21年)からこのかた12月1日から31日までの紙面をぜんぶ見て、記事でクリスマスがどう報じられてるか、広告でどんな扱いになってるかを調べてる。
あいかわらず、すごいひとだ。
で、広告に初めて「サンタクロース」の文字が出た1906年(明治39年)から、日本ではクリスマスがはしゃいでもいい日になったという。
理由は、ロシアに戦争で勝ったから。このへんが、日本とキリスト教の関係にからんでる。
それから、昭和に入って、以前はそれでも子供向け要素の多かったクリスマスに、大人たちが遊ぶようになったのは、12月25日が大正天皇祭(崩御された日)で祭日になったことも理由のひとつ、ってのは全く知らなかった。
この昭和初期のころについて、なんか暗い時代であった、みたいに思われてるのはまちがいで、「暗かった戦前」というのは1937年(昭和12年)から始まる、っていうのも、学校の授業ぢゃ教えてくれなくて、当時の資料を実際にあたってみた人にしか言えないことだ。
ここにひとつのテーマがあって、1928年(昭和3年)から1936年(昭和11年)にかけてクリスマスの大騒ぎというのが実際にあって、それは1948年(昭和23年)から1957年(昭和32年)までに起きた戦後の狂瀾クリスマスと同じ、つながっているものだという。
そういう戦前と戦後でつながりがあるってことが語られないのは、戦争は間違っていたという圧倒的な世の意見のせい。敗戦によるリセットで、新しくて楽しい社会になった、みたいな思い込みが戦後生まれの人にはどうしても押しつけられちゃう。
そのあとの昭和は、高度成長とかオイルショックとかいろいろあって、で、いよいよ1983年にアンアンのクリスマス特集で女性主導のクリスマスが始まる。
このアンアンの宣言について「治承四年の以仁王の令旨のようなものだ(p.215)」ってたとえてるのには、爆笑してしまった。
で、そのあとの時代の観察も続いて、派手なクリスマスが消えるのが2003年、クリスマスは恋人と過ごそうという記事が消えたのは2009年だという。
でも、明治大正からクリスマスにまつわる日本の歴史をみてきたひとは、今は沈静期だけどまた大騒ぎする時がくるんぢゃないかと予想するわけで。
>クリスマスで騒がなくなったのは、社会が成熟したわけではない(うちの社会は何があっても成熟しない社会だと私はおもう)。社会が平穏なのだ。「まもなく緊張が高まりそう」と変動を予感したときに、われわれの社会はクリスマスで大騒ぎする。(p.235)
ってのは卓見だと思う。私としては括弧内の一文がツボにきたけど。
クリスマスに代わって2009年くらいから騒ぎが始まったのがハロウィンだという。
そうやって外国のものを取り入れて、祭りとして騒ぐだけにするのは、外から来たものだから捨てようと思えばいつでも捨てられるからだと。
西洋文化の祭りのイメージだけをとりいれて独自に騒ぐ、西洋文化を受け容れているポーズだけはとるんだが、そこが肝心なとこなんだと。
キリスト教の本質的なものは国内に持ちこませないが、わかったふりはしようというのが、明治のころ急に諸外国とつきあわなければならなくなった日本のとった態度でその後の伝統。
>宗教部分を抜いた“文化としてのキリスト教”をうまく取り入れるようにしよう。どこにも明文化せず、言葉にせず、瞬時にそうすることに決められた。言葉を交わさずにそういう国民的合意が成り立つところが、この国の強みであり、海外から見たときの不気味さにつながっている。(p.82)
っていう明治初期からの日本人の特質はなんも変わってないと思う。
コンテンツは以下のとおり。
序 火あぶりにされたサンタクロース
1章 なぜ12月25日になったのか
2章 戦国日本のまじめなクリスマス
3章 隠れた人と流された人の江戸クリスマス
4章 明治新政府はキリスト教を許さない
5章 “他者の物珍しい祭り”だった明治前期
6章 クリスマス馬鹿騒ぎは1906年から始まった
7章 どんどん華やかになってゆく大正年間
8章 クリスマスイブを踊り抜く昭和初期
9章 戦時下の日本人はクリスマスをどう過ごしたか
10章 敗戦国日本は、狂瀾する
11章 戦前の騒ぎを語らぬふしぎ
12章 高度成長期の男たちは、家に帰っていった
13章 1970年代、鎮まる男、跳ねる女
14章 恋する男は「ロマンチック」を強いられる
15章 ロマンチック戦線から離脱する若者たち
終章 日本とキリスト教はそれぞれを侵さない
コメント
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