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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

深読み日本文学

2018-03-25 17:46:50 | 読んだ本
島田雅彦 2017年 集英社インターナショナル新書
1月下旬に書店で見かけて買った、著者の小説は好きなんだけど、文学について何語るんだろうって、ちょっと気になったもんで。
源氏物語から始まって、西鶴、近松、そして漱石と文学史としてたどってくるんだが、樋口一葉を高く評価してるとこが、読んだことない私には勉強になった。
で、文学史もけっこうなんだけど、現在の実社会において文学は重要な役割があるということを熱く語ってるのがいい。
>人文社会科学とは、人類が歩んできた歴史全般を扱う学問です。ゆえに、人文社会科学の教養のない人間が政治家になると、歴史認識において大きな躓きを招いてしまいます。(p.8-9)
と冒頭から人文系の教養の欠如に警鐘をならして、なかみのないフレーズをふりまわす政治家なんかを批判してる。
政治だけぢゃなくて経済についても、金銭関係で人間関係がどういうことになってしまうかとか分析するのが文学であって、
>文学は最も下世話な経済学だと言えます。逆に文学を知らない経済学者は単に理論に忠実なだけで、確実に経済の実態を見誤るでしょうから、そういう人の勧める株は買わないに越したことはありません。(p.83)
と文学の意義を主張して、そういう教養のない経済の専門家をけん制してる。
どうも、正しい言葉の使えない昨今の政治家とか官僚なんかに対するいらだちがかなりあるようで、戦後の文学の解説においても、
>政治、経済、国家を大上段に構えて論じる「大説」が嘘で固めた妄言に過ぎないことがわかったとき、人々は生活実感の中から立ち上がる「小説」の方を信用するようになりました。(略)戦後七二年が経過し、戦争の記憶が風化してくるのと引き換えに登場した愚かな施政者たちが無責任かつ幼稚な妄言を繰り返していますが(略)(p.161)
とか、
>公務員とは今も昔も、公を最も私物化できる立場の人たちです。戦争に負けたから、モラルが低下したのではありません。戦争遂行者のモラルが低かったから、戦争に負けたのです。(p.167)
なんて攻撃してる。
人間とは何か、ということに答えを出すのが文学だっていう自負がとてもいい。
現代文学については、多様性が広がってるのはいいことだとしながらも、
>文学をはじめとする文化は、多様性を喪失すると急速に活力を落とします。(略)
>多様性の確保のために必要なのは、歴史に学ぶ姿勢です。
と、やっぱ保守の思想を唱えてるんで、あれ、このひとサヨクぢゃなかったんだ、なんて、ちょっと面白く思ったりもした。
序章 文学とはどのような営みなのか
第一章 色好みの日本人
第二章 ヘタレの愉楽―江戸文学再評価
第三章 恐るべき漱石
第四章 俗語革命―一葉と民主化
第五章 エロス全開―スケベの栄光
第六章 人類の麻疹―ナショナリズムいろいろ
第七章 ボロ負けのあとで―戦中、戦後はどのように描かれたか
第八章 小説と場所―遊歩者たちの目
第九章 現代文学の背景―世代、経済、階級
第一〇章 テクノロジーと文学―人工知能に負けない小説
コメント
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