町山智浩 2016年 文春文庫版
町山さんのコラム集、去年夏ごろいくつかまとめて買ったんだけど、最近になってやっと読んだ。
どーでもいーけど、こないだもCSで「アメリカン・パロディ・シアター」なんて映画を観たけど、けっこうおもしろかったな。
これは『教科書に載ってないUSA語録』につづく週刊文春「言霊USA」を本にしたもので、時代は2012年8月から2014年3月と、私がこれまで読んできたものに較べたらグッと新しくなる。って言っても5年以上前か。
単行本は2014年刊で『知ってても偉くないUSA語録』というタイトルだったらしいので、まちがって古本買わないようにしないといけない。
文庫タイトルになってるキラキラネームについては、2013年9月初出の「メサイア=救世主。アメリカで男の赤ん坊に増えている名前」という章にくわしい。
『ted テッド』という映画のなかで、貧乏白人の女性の名前をあててみろというシーンで、ティファニーとかクリスタルとかルビーとかって名前があげられてくそうなんだが、
>ベストセラー『ヤバい経済学』に登場するハーヴァード大学のローランド・フライヤーは、名前と収入の関係を調査研究したが、低所得層に最も人気のあった女の子の名前は「アンバー」だった。
>アンバーとは「琥珀」のこと。ルビーもクリスタルも宝石。ティファニーも宝石店のイメージだろう。キラキラしてる。(p.170)
ということで、あげられてる例はまことに的確だと解説して、キラキラした名前をつける親は日本だけぢゃなくアメリカにもいるという話なんだが。
ショッキングなのは、家庭の経済状況と子どもの名前の傾向を結びつける研究があるってことだね。
>では、逆に、アメリカの高額所得者はどんな名前なのか? キャリアアップを目指す人々のための求人サイト「ザ・ラダー(社会のはしご)」は、600万人の会員の収入データを持っているが、名前と収入の関係を調べたところ、名前が短いほど高所得になるという結果が出た。つまり男ならJohn(ジョン)、女ならAnn(アン)とかの3~4文字の名前の人が最も収入が多く、1文字増えるごとに3600ドルずつ年収が下がっていくというのだ。(p.173)
って、すごい。日本だったら、名前の漢字の画数と収入が反比例するんぢゃなかろうかと著者は推測してるけど。
ほかでは、やっぱ政治の話が私には興味ある、ブッシュのころから何かと話題になる南部のほうの共和党支持基盤のこととか気になるし。
2012年の大統領選挙のころには、「野球の入場者数がフットボールよりも多い州では民主党が勝つというデータ」を紹介してくれてる、それおもしろい。
>理由は不明だが、実際、民主党が常に勝つニューヨークやマサチューセッツではいつも野球の観客が多く、共和党が常に勝つテキサスやジョージアではいつもアメフトの観客が多い。
>で、民主党と共和党の間で揺れていて、選挙のカギを握る「浮動州」では野球とアメフトの人気も拮抗しているというから面白い。(p.49「こども投票」)
って、マジか。ヨーロッパでは、階層によってラグビーみるかサッカーみるか分かれるって話はありそうだけど、野球とアメフトでなにがちがうのか。
その後の、オバマ再選が決まったあとの12月ころのコラムでは、、南部の州が連邦から離脱して独立しようなんて動きが紹介されてる。
保守的で共和党が強い南部が「赤い州」、民主党が強い東部や西海岸が「青い州」というらしいけど、
>保守的な「赤い州」は、銃規制、同性婚、人工中絶、学校での進化論教育に反対し、青い州との溝が深まっている。「赤い州」は白人のキリスト教徒が過半数を占め、ヒスパニックやアフリカ系、アジア系やユダヤ系の多い州と民族的に違う。だから「ここまで違うのに一緒にいる必要はない!」という声も出てくる。(p.67-68「アメリカから分離独立せよ」)
って、すごい話なんだが、実際には分離独立は起きないという、なぜかというと、
>赤い州は青い州が必要だから。アメリカの産業は青い州に集中しており、貧しい赤い州は連邦政府の福祉なしでは生きられない。たとえばルイジアナ州は連邦に払う税金1ドルに対して1.78ドルの援助を連邦から受けている。(p.68同)
ってことで、日本にいるとわかんないけど、いろいろあるのねとは思うんだが、どうもアメリカの貧富の差はすごいものらしく、なんかいろんな政策とかで追随してってるように見える日本のこの先が心配だあねという気もする。
貧富の差については、サンフランシスコあたりの住宅事情の変化が書かれてる章があって、大手IT企業が地域に入ってきたから、そこの高給とりの社員たちが住みはじめてから家賃とか地価が上がって、庶民が住めなくなっちゃったという。
>実際、サンフランシスコでは2LDKのアパートが月35万円なんて相場になってしまった。地価が上がれば固定資産税も上がるから家賃も値上げするしかないのだが、払えない借主は立ち退きを命じられる。サンフランシスコでは2013年だけで1700人以上が家賃を払えずに立ち退かされている。(p.278「ジェントリフィケーション=住宅地の高級化」)
ってことなんだが、大手IT企業のひとたちは年収1000万円以上だし、自社の敷地内にはあらゆる施設があって無料で利用できるしで、なんともすごいことになっている。
前からの住民がいなくなっても、新しい裕福な住民が税金払うから自治体はいいんだろうけど、べつのとこで過疎化が進んだデトロイトなんかは市が財政破たんで破産したって。
デストピアとひっかけて、デトロピアと呼ばれるらしい、どうでもいいけど映画「デトロイト」は観たけど、なんか救いのない話だったな、ありゃ。
デトロピアはいいとして、日々あたらしくつくられてく言葉を知ることできるのが、本書のいいところのひとつなはずで。
Mansplainは男がドヤ顔でくだらん講釈垂れることで、ManとExplainがくっついたもの、男って上から目線になりたがりなのはどこでもそうか。
Killer Crushって、「女の子が殺人者に恋すること」って、あるんだ、そういう言葉、よくある現象なのか。
Childfree life、「子どもを持たないと決めた人生」ってのは、タイム誌の特集記事があったらしいが、
>今まで、「子どもがない」を表現する言葉はchildlessチャイルドレスだった。レスlessは「足りない」という意味だ。それをフリーfreeにすると、シュガーレスを英語ではシュガーフリーsugar freeというように、「足りない」のではなくて、「なくてよかった」というニュアンスになる。(p.174「子どもを持つ義務から解放された人生」)
という言葉の表現としてのおもしろさはいいんだけど、社会の事態は深刻だそうで。
>そして、年収が高い女性ほど子どもを欲しがらないというデータも示される。それによると、1000万円以上の高年収の女性の8人に1人が子どもを欲しがらず、中流だと14人1人、低所得だと20人に1人と減っていく。(略)
っていうんだけど、若い世代の意識調査では、
>1980年以降に生まれた世代、いわゆるミレニアルのアメリカ人のうち「人生に子どもは必要だ」と考える人は39%としかいない。(p.175-176同)
ということになってて、なぜなら育児や学費にカネがかかりすぎる世の中の仕組みだからだという。
>いまや子どもを沢山育てられる経済的能力があるのは金持ちだけなのに、先述のように、実際は金持ちほど子どもを作りたがらない。(略)
>アメリカでは貧困層ほど10代の妊娠率が高く、子沢山だ。そんな子どもは高い教育を受けることはできないので、貧困へのスパイラルを落ちて行く。生活保護を受け、税金を払わない貧困層が増えれば、社会全体が貧困のスパイラルに引きずりこまれる。(p.177-178同)
って、キラキラした名前を笑ってる場合ぢゃないよね。