丸谷才一 二〇一二年 ちくま文庫
年明けくらいに買った新刊の文庫、最近読んだのはいいんだが、雨で濡らしてしまった、残念。
文庫オリジナルなんだが、巻末の注によると、1964年から2001年までに書かれたものから集められた116の書評。
どっかで見たことのあるものも数点あるようだが、単行本未収録のものもあるというので、これはこれでいいんぢゃないでしょうか。
著者と読むものの趣味が完全に一致するとはかぎらないけど、そうぢゃなくて読むだけで十分おもしろい書評だったりするから、かならずしも紹介されてる本そのものにすすむ必要はなくていいと割り切って読んでる。
それでも読んでみたくなったのがいくつか。
E・M・フォースター/吉田健一訳『ハワーズ・エンド』(河出書房新社「世界文学全集1-7」)
>筋がおもしろいのは小説の本道だ。そして筋が興趣に富んでゐてしかも登場人物が生き生きしてゐれば鬼に金棒である。(p.168「小説家の領分」)
って言われたら、読みたくなるのはしかたない。
ジョン・ファウルズ/小笠原豊樹訳『魔術師』上・下(河出文庫)
>今は、あくびを嚙み(※←環境依存文字 噛み)殺しながら読む小説本が尊敬される時代なのである。しかしここに一つ、現代文学ではきはめて例外的な、読みだしたらやめられない長篇小説がある。『魔術師』(三部構成)を第一部だけ、ないし第二部だけでよすのは、たいていの読者に不可能なことだらう。(p.173「大団円のある世界」)
ってのも、読まずにはいられなくなる紹介のしかたにみえる。
ヨーゼフ・ロート/池内紀訳『聖なる酔っぱらいの伝説』(白水uブックス)
>この段どりのつけ方、流れるやうな筋の展開はまことに見事なもので、溜息がつきたくなるくらゐだ。(略)
>この種の珠玉の作を前にしたとき、批評家はただ沈黙して微笑すれば、それでいいのである。(p.347「すばらしい幸福」)
っていうのが、二百フランを見知らぬ紳士から恵まれた浮浪者が、次から次へと幸運に恵まれる話だっていうんだけど、うん、読んでみたいよ、それは。