丸谷才一 2011年 文春文庫版
この随筆集は、たしか去年11月に古本まつりで買った文庫。
初出は「オール讀物」の2006年から2007年で、単行本は2008年だそうで。
タイトル、ふしぎな響きで、なんの意味があるのかわかりそうでわかんないんだけど、巻頭言に、
>雑書の山を作り、その上に一個のメロンと一個の月を載せよう。
とあって、梶井基次郎が檸檬を本の上においたののパロディらしい、ふーむ、なんのこっちゃ。
あいかわらず、いろいろと雑学が披露されてて、おもしろい。
それに書きっぷりが、「ここからは余談」とか、「ここで話をもとに戻します」とか、なんか自由な行き来があって、なんか談志家元の落語を思い出させるような芸って感じ。
『マーフィーの法則』って本があるけど、あれは『パーキンソンの法則』っていう1957年のイギリス人の書いた本の成功が先にあったからでたようなものだってのは知らなかった。
「公務員は如何にしてふえるか」みたいなことの理論を書いて、実績の数字で証明してるんだって、勝手に法則として宣言しちゃうんぢゃなくて、事実を表しているようなものなら、読んでみたくなる気がする。
丸谷さんは、歴史上の人物や著名人のエピソードをひいてくることも多いけど、本書のなかでは、
>ウーン、ここでちよつと思案にふける。巌流島の決闘は世界史にとつてどれだけ意味があるのか。むづかしいね。難問である。
>そしてわたしは、あまりむづかしい問題は考へないことにしてゐる。これがわたしの唯一の健康法。(p.110)
なんていって、人の一生の名場面はひとつで十分、つまんない逸話は世界史にとってどうでもいいことでは、なんて言ってる。
でも、そうかと思えば、日本人は歴史的な出来事に対して、想像力がなさすぎるのではないかなんて批判もしている。
なんか事件あると、アメリカ人なんかは、あたりはずれはともかく、ものすごく多くの陰謀論を考え出してあれこれウワサするんだけど、日本人にはそういう冗談を考える遊び心がないと。
>(略)歴史に対する態度が、さながら教科書検定官のやうに謹直であり、官僚的であつた。立派にして言へば、実證性的抑制力が強かつた。禁欲的であつた。
>わたしはこのことを現代日本のために惜しむのである。われわれの精神的エネルギーには何か足りないものがあるのぢやないか。
>(略)陰謀理論力とでもいふべきものが全国民的に欠けてゐる。全階層的に稀薄である。これはわが文化の弱点ではないか。(p.273)
という、大げさな日本人論を展開して、もっと妄想をたくましくせよって言ってんだけど、たしかにそういうのはたのしそう。
事実を当てるよりも、突拍子もないシナリオがあることを想像するほうが、話としてはおもしろい。
コンテンツは以下のとおり。
歴史の書き方
強盗の十則
ネクタイとバッジ
投石的人間
歴史の研究
バンドネオン
中庸その他について
首狩り族の唄
目黒三田論
出版社の社史
デズモンドとラモーナと赤ん坊
明治維新と商品
日本で最も好ましくない医者
陰謀理論のこと
スツポン論