文藝春秋編 1986年 文春文庫版
インターネット上で買いたいものを探していると、よく「あなたへのおすすめ」とか、「この商品を見ている人は他にこれを見ている」とかって広告的に出てくるんだけど、私はたいがい相手にしない。
ところが、あるとき何を探してたんだかわかんないが、本書のタイトル(画像なしテキストだけ)がズラリ並ぶリストのなかにあったときは、反応してしまった。
記憶のどっかにあったのかもしれないが、確認してみると、やっぱ思ったとおりの感じ、多数の作家によるコラム集、なんかおもしろそう、買った。
月刊誌(読んだことないけど)の『オール讀物』の巻末コラムを集めたもの。
単行本は昭和54年に出たらしいんだけど、この文庫は、そのあとのものも収録して、結局連載開始の昭和44年7月号から昭和60年12月号までの全作品198篇、ヘンに編集せず発表順に収録ってのも、なんかいいぢゃない。
執筆者は24人、登場順に並べると、獅子文六、丸谷才一、永井龍男、吉行淳之介、開高健、井伏鱒二、尾崎一雄、山口瞳、安岡章太郎、立原正秋、吉村昭、三浦哲郎、中村光夫、水上勉、井上ひさし、結城昌治、小沼丹、串田孫一、阿川弘之、伊藤桂一、野口冨士男、駒田信二、遠藤周作、井上靖。
知っているひともいるし、まったく読んだことのないひともいるが、どうでもよろし、私のフェイバリット丸谷才一が最初っから最後までいるのが非常によろこばしい。
一篇あたりは、誰かが「二枚半」って書いてたので1000字ってことかと思ったら、もう少しありそうなので、たぶん六百字詰めで1500字なのかもしれないが、いずれにせよ文庫で見開き2ページなのでとても短い。
ところが多士済々がその限られた分量で芸のうまさをみせてくれるので、とてもおもしろい、テーマもひとにより分散するので飽きるところなし。
そんななかでも私はやっぱり丸谷才一のものが好きだけどね。
安岡章太郎の一篇で、かつて自分は名門予備校で採点のカラい作文の授業で好い点をとった、五十点満点で二十点とれたら上出来という厳しさのなか、三十点以上をとって模範答案としてプリントして教室に配られた、って話があるんだけど、あとで知った話として丸谷才一も同じ予備校で同じくらいうまかったという。
四十点をこえると「うま過ぎる」ので模範解答という扱いにはならなくなったそうだが、
>そういえば丸谷がいま書いているコラムなど読むと、起承転結ととのって、たしかに「うま過ぎる」ぐらいウマい。(p.105「作文の功罪」)
などと同業者に評されるんだから、やっぱウマいんである、ウマいんだからしょうがない。
ほかには一読したなかでは、開高健のがいろいろとおもしろかった、多くのひとが日本人作家の随筆らしく自分の家の庭の季節の草木や鳥や虫に気づいたこと系みたいなの書くのに対して、ちょっと異彩放ってる感じがして。
昨今(というのは昭和47年のことだが)の日本酒が甘くてクドくてひどい味だと嘆く文章の結びを、
>どんな本を読んでいるか言ってごらん。そしたらあなたがわかる。これは酒にも通ずることである。大きな声をだして飲んでいますと答えられるサケをつくっていただきたいものである。(p.91「いいサケ、大きな声」)
なんて書いてるのを読むのはたのしい。
ほかにも、
>ヒゲで名声をとどろかせたのは例の結婚詐欺師の“青ヒゲ、ランドリュ”であるが、このダンナはわかっているだけで二八三人の女を殺した。(略)彼が御婦人を夢中にさせた武器の一つは顎ヒゲである。(略)そのヒゲで御婦人にキスしてとろとろにコナしたのだが(略)(p.308「こころの匂い」)
とか、アラスカへ何度もキング・サーモンを釣りに行ったってところから始めて、
>オスはあきらめが早いが、メスは屈服することを知らない。最後の最後の一瞬までたたかいつづけ、抵抗しつづける。
>これに勝つ方法はたった一つである。休ませるな、の一語である。ちょっとでも休ませると体力を回復してふたたび走りはじめる。(略)
>しかし、これは。
>サケ釣りだけの話だろうかネ?……(p.397「母の怒り」)
とか、コラコラとか思いつつ、妙におもしろいんである。
コンテンツとして198篇のタイトルを並べるのは大変なので、以下には丸谷才一の作を書き出す。(完全に私の備忘録用。ほかの本に収録されてて読んだことのあるものもある。)
さよならは日本語
遊べや
十貫坂にて
旅の心得
百科事典からガイドまで
先生の前
平和
野菜サラダの詩
賭け
フェミニズム
挨拶の句
出世魚考
博物誌
神様になる
難問
コツを教はる
逸話考
謎々づくし
小ばなし
学問的な話
紙幣論
イギリスの味