many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

6月16日の花火

2021-02-27 18:35:02 | 丸谷才一

丸谷才一 一九八六年 岩波書店
丸谷才一は『男ごころ』所収の「屋上には恋猫もゐます」(1988年)という随筆で、『和田誠百貨店B館』という本をとりあげて、レコードジャケットとかポスターなどの絵をみながら、装釘については他のひとの本の絵も楽しみつつも、
>(略)しかし何と言つてもおれの本の出来がいいな、と喜んだ。(略)みんなが舌を巻いた『6月16日の花火』が、特殊な印刷法なため、原画しか収めてないのは残念だけれど、これはまあ仕方ない。(同書p.256)
なんて言ってるんだが、これがその本。
おととしの9月ころに古本手に入れたんだが、最近やっと読んだ。
タイトルなんのことか全然わかんなかったんだけど、
>題の六月十六日は言ふまでもなく、『ユリシーズ』のあつかつてゐる一日。毎年この日の夜はにぎやかに酒を飲むことにしてゐる。(p.244)
と、あとがきにあるように、読書家にとっては言うまでもないことなんだろうが、私は『ユリシーズ』読んでないのでしかたない。
>ジェイムズ・ジョイスは十代の終りごろ岩波文庫本で読んで以来、わたしが最も親しんだ小説家である。私の考へてゐる文学の中心部には、どうやら彼の作品があるらしい。(p.244)
と丸谷さんにとっては偉大な作家なんだが、どうも私は興味がわいてこないもんだからなさけない。
というわけで本書は、評論集なんだが、ぜんぶジョイスについて書いたもの。
うーん、投げ出さずに読みとおせるかなーと心配してたら、なんと「若いダイダロスの悩み」と「西の国の伊達男たち」は『梨のつぶて』、「通夜へゆく道」は『コロンブスの卵』に所収されてるもので、すでに読んだものだったんで、実質半分しか読まなかったことになる本書は。
「神話とスキャンダル」によれば、1880年ごろのアイルランドの政治的中心人物のスキャンダルが、『ユリシーズ』に反映されているんだというのだが、『ユリシーズ』知らない身としてはなんのことだかよくわからない。
「夜の町」によれば、スイスのゼクセロイテンという、冬を埋葬する豊饒儀式、春の祭を1917年に初めてジョイスは見て多大の感興を覚えたというのだが、これまた『ユリシーズ』読んでない不勉強者にはピンとくるものない。
>彼は『ユリシーズ』を書きながら、自分はいつたい何を作つてゐるのか、これはホメロス以来の文学史のどの流派に属してゐるのかと不思議で不思議でたまらなくて、そのうち偶然スイスの年の春の祭に出会ふことによつて、(略)この長篇小説全体が古典古代末期以来のカーニヴァル文学の末裔なのだといふことをとつぜん発見したのであらう。さう考へればいろいろなことがよくわかる。だしぬけに納得がゆく。(p.87)
と丸谷さんは言うんだが、いやあ、だしぬけに納得がいく感慨を共有できないのは残念だ。
コンテンツは以下のとおり。

神話とスキャンダル
夜の町
II
若いダイダロスの悩み
通夜へゆく道
西の国の伊達男たち
III
『ジアコモ・ジョイス』のための素描

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする