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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

奇術師の密室

2021-02-21 18:43:50 | 読んだ本

リチャード・マシスン/本間有訳 2006年 扶桑社ミステリー文庫
リチャード・マシスンを読みたくって、去年の10月だったか、たまたま古本街で見つけた文庫。
ほんとは短編集がほしくて探してるんだが、なかなか手に入れることができない。
長編かー、長編ミステリーってめんどくさいなーっ、て思ってしまう近ごろ、『月長石』とか読んで喜んでいたころの俺はどこへいった?
本書は、原題「Now You See It…」1994年の作品、マシスンって(「トワイライト・ゾーン」とか60年代に関わってたらしいから)もっと昔の人だと思いこんでたが、意外と最近のものもあるんぢゃない、って思った。
物語のほうは、長編っていうわりには、登場人物が少なくて、しかも舞台がひとつの部屋だけ、という意外なもの。
52歳のマジシャンの男マックスと、その二番目の妻で興行の助手もつとめる41歳の美女カサンドラと、カサンドラの弟35歳のブライアンがおんなじ屋敷に住んでいる。
そこへマックスのマネージャーで、カサンドラとも通じているハリーがやってくる。
マックスは近ごろでは身体が不調なのかマジックのキレが落ちつつあるようで、カサンドラはそんなマックスを見限って自分が主役になろうかと企んでいる。
マックスは自分を落ち目扱いするハリーのことも、妻カサンドラのことも気に入らない、っていうか憎しみ増すばかりって感じ、カサンドラのほうはマックスを亡き者にしちゃってもかまわないぐらいに考えてる。
そういう人物たちが一堂に会してるんで、なんのきっかけで暴力が爆発するかわからない状態。
そこにもう一人いるのが物語の語り部、マックスの父親で偉大な奇術師だったエミール・デラコート、当時73歳。ただし、
>みなさんは植物人間の書いた話など、これまで一度も読んだことがないかと思う。
という驚きの書き出しで始まるとおり、この語り手は、1966年に脳出血で引っくり返り、いまは車椅子の乗った植物人間という設定だ。
なので他の登場人物は、このひとが同じ部屋にいても、何も見ていないし聞こえてもいないという態で振る舞うんだが、当人はちゃんと事態を見つめている、驚いてもリアクションできないけど。
物語の舞台の部屋は、元はといえばこの父親の屋敷で、その奇術の下準備をする書斎であるマジックルームという特殊な場所。
いろいろ仕掛けがあるので、ふつうの単純な密室ものとちがって、奇想天外なトリックもあり。
そこんとこがちょっと、おもしろがって読めばいいのかもしれないけど、ずるいだろって思っちゃうと感心できなくなる、だって隠し扉とかイリュージョンショーの大道具・小道具使われたら、何でもありぢゃない。
だから、むしろこういう話って、それこそ「トワイライト・ゾーン」みたいなドラマとして映像にしてくれたほうが純粋に楽しめるんぢゃないかって感想をもってしまった。
ここで語られる、1980年7月17日の午後に起きたとされる出来事は、本文によれば「奇妙奇天烈」であって、
>これからはじまるのは、欲と冷血、恐怖と略奪、サディズムと殺人――(p.22)
ってことなんだが、まあ目まぐるしくて退屈はしない。

コメント
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