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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

ムーン・ロスト

2021-05-23 18:46:09 | マンガ

星野之宣 2006年 講談社漫画文庫版
もうちょっと星野之宣を読んでみたくてって時期だった、2月頃に買い求めた古本の文庫。
雑誌連載は2002年からだったらしいが、まったく知らない、今回予備知識なしで読んでみた、タイトルからSFものと期待しただけ。
201X年が舞台、のっけからいきなり地球に最大の危機が迫る、でかい小惑星が地球に衝突するまで48時間。
穴掘って核爆弾使えば「アルマゲドン」なんだけど、そんなの間に合わないし核兵器ごときぢゃ爆破できない。
で、ある科学者がまだ仮説にすぎない「膜宇宙=ブレインワールド」という理論にのっとって作戦立てる。
宇宙とは薄い膜のようなものだという考え方に従うと、重力というのはどうしたこうしたとかで、よくわからんけど。
具体的な対策としては、月面上にある基地の粒子加速器で、(超超小型)ナノ・ブラックホールを人工的に作り出し、それを小惑星にどんどん撃ち込む。
質量を失った小惑星は太陽からの引力も弱まり、軌道を変更して地球衝突ルートから逸れると、うーむ、かっこいい。
ところが計算違いというか想定外の状況になり、不安定になった小惑星は月に引き寄せられていき、蒸発しないブラックホールは月を食い尽くすという結果に。
月が消滅、すごい大胆な展開。
月の破片が地球に降ってきて衝突、大津波がくるってだけなら「ディープインパクト」なんだけど、それだけぢゃすまない、月がなくなったから潮汐効果で盛り上がってた海面が一挙に崩れ落ちる。
それどころか地球の回転軸が狂いはじめる、その結果、気候の変動どころか、熱帯とか極地とかの位置もズレていく。
低い土地は海面の上昇で水没するのは当然として、北極点が北アメリカ大陸の南に移動、アメリカは“北極大陸”になっちゃって国土の多くは氷に覆われ、逆に温暖になったアラスカに首都をおく。
しかし、ここまでは物語の序章にすぎないってのがすごい、月の消滅の15年後から本題が始まる。
月が無いままでは、火星みたいに自転軸が10万年周期で何度でも変動するようになり、環境が不安定で生物は生き残っていけない。
これの解決策は新たな月を獲得するしかない、って計画をヨーロッパ宇宙機関って組織が主導する、ちなみにアメリカは現状だと自国の環境が最悪なので反対にまわる、大国のエゴ。
(それにしても、ほかの作品でもそうだったけど、星野マンガってほんと日本人が活躍とかって単純なつくりにはしないね。)
で、具体的にどうするかっていうと、木星の第2衛星エウロパを持ってこようという、壮大だあ。
どうやるかっていうと、木星の第1衛星イオにまたもやナノ・ブラックホールを撃ち込んで、イオが崩壊するときの重力エネルギーを、宇宙空間に網のように張った重力位相制御アンテナつかって重力場つくることによって、エウロパを木星から離脱させるんだという。
そんなことできるのかーって思うんだけど、やります、マンガですから、不可能はない。
かくして遠隔操作で天体の軌道を変えちゃえっていうド迫力シーンを中心に、計画に反対するアメリカが妨害してくる、乗員の誰がアメリカのスパイなのかとか、実はエウロパの海には未知の生物がいるんだけど、これどうすんのかとか、いろんな要素があって、けっこうおもしろく読んでいける。
重力とかに関する科学的仕組みはとにかく、私みたいな古い読者にとっては、木星を引き出してきたとこで、「お、『巨人たちの伝説』ぅ!?」と思い起こしてしまって、感慨深い。
あれも、氷河期を乗り越えるために、古代タイタン族が超能力をつかって“燃える第5惑星”をつくろうとしたり、科学の力で木星を爆発させてその熱を地球に届かせようって話だったから。
SF、たのしい、作者は絵師(←NHK教育「漫勉」での浦沢直樹の表現)として優れてるんで、とてもたのしい。

コメント
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