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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

星のパロディ大全集

2021-09-05 18:42:38 | 丸谷才一

丸谷才一・井上ひさし選 昭和59年 朝日文庫
前回記事(「ぱふ」)の雑誌インタビューでは、「時々、CMのパロディなどもありますね」に対して江口寿史が「そればっかという話も(笑)。」と答えたりしてるんだが、パロディといえば、これ。
これは今年4月に地元の古本市の初日に手に入れたもの、普通に文庫のワゴンにあった。
『花のパロディ大全集』の続編なんだが、見つけるまでに一年半もかかってしまったんで、見た瞬間すぐつかんださ。
初出は「週刊朝日」の1979年1月から1981年11月ということで、どんな時代だったかというと、あとがき代わりの対談で丸谷さんが、
>(略)ですから「週刊朝日」のパロディ三十四回の歴史というのは、要するに田中角栄騒ぎの日本史とちょうど重なっている。角栄さんが我々のパロディの大スターであったというのは当然のことなんですが、しかし単に年代的にダブっていたからという理由だけではなくて、この人はもともとパロディに向いている感じが非常にありますね。(p.188)
という社会背景というか世相というか、そんなころ。
政治関係のものをパロディにしてやっつけるのは基本という丸谷さんは、角栄以後のキャラクターにきびしく、
>それに遠慮のないところを言はせてもらへば、総理大臣はやはりもうすこし花のある人が望ましい。福田さんも大平さんも立派な人なのでせうが、残念ながらパロディには向かないのです。(p.26)
とか、
>ただ一つ残念だつたのは大福両氏をからかふ佳作がつひになかつたことです。諷刺でいちばん基本になるのはやはり政治諷刺ですから、ここのところが手薄になるのは寂しい。しかしこれはむしろあの二人が悪いのでせうね。実を言ふとわたしもいろいろ試みてみたのですが、うまくゆかなくて筆を投じました。近頃の日本の政治は本当に困る。(p.83)
という具合に「総理大臣がパツとしない」と嘆く。
どうでもいいけど、鈴木善幸首相をとりあげたネタのなかには、「棒読み」とか「顔も上げぬ男の話の空しさよ」とか「原稿を一枚抜かして読む」とかってフレーズが使われてて、そんなことあったっけって憶えてないんだが、まあ歴史は繰り返すものなんだなと思った。
毎回いい作品が寄せられてるんだけど、それだけに選者の要求するレベルも上がってるみたいで、恒例の百人一首で政治と野球ネタに佳作が少なかったときに、
>不振の理由はおそらく、起こつた事件の表面をなぞつただけで百人一首の元歌に当てはめ、それをパロディだと思つてゐることにある。しかしそれではパロディは出来ないんですね。事件や人物を思ひがけない角度からとらへ、冗談や諷刺を成立させたときはじめてパロディと言へるのです。(p.136)
なんて丸谷さんは苦言を、高度な苦言を呈している。
ふつうの文藝時評みたいな物言いだ、日本文学史におけるこの企画への期待の大きさを感じてしまう。
別の替え歌を題材にしたときにも、
>不振の原因について井上さんは、「元唄の文脈をとらえてゐないものが多い」と言つてゐましたが、まさにその通り、従つて、字句のもぢりに部分的にこだはつて、意味の方向がはつきりしないことになつてゐた。これでは困るんですね。(p.118-119)
なんて言っていて、「楽な話ではない」「厄介きはまる作業」と難しさを認めたうえで、パロディいかにあるべきかを説いている。
井上さんも、別のところで、
>全体の構想には大胆不敵な冒険を、そして細部にはもっともらしい忠実さを、これまたパロディ作法の基本です。(p.96)
というようなことを言っていて、もう単なる読者投稿ページの遊びではなく、この文藝に懸ける思いの強さが伝わってくる。
どうでもいいけど、本書には百人一首ぢゃなくて、「石川啄木の短歌」をパロディのお題にした回があるんだけど、2500の投稿があって日本人は啄木が好きなんだという話になるんだが、
>一行目、二行目をわざと下手に作っている気味がある。そして三行目に全力を傾注して自分の感情を盛り込み、表現にも苦心している。だから、下手、下手ときて上手に締めくくっているわけだね。これは芸当ですよ。こんな芸当を突きつけられて、当時の歌壇はさぞかし仰天したことだろうねえ(p.156)
という丸谷さんによる石川啄木の歌そのものに対する解説があって、すごい、そういう読みを教えてくれれば国語の教科書だってもっと興味もてただろうに、とは思った。
さてさて、私としては本書のなかでは、定番の百人一首よりも、ちょっと変わったお題のほうが好みだった。
「日本語を考える会編 『レーガンVSリーガン』」とかの「架空書評」なんかはもちろんおもしろいが、日本国憲法前文を使って、
>われら悪徳医は、金銭を主眼として行動し、われらとわれらの子孫のために、一部私立医大との協和による裏口入学制度と、わが国全土にわたる医師優遇税制のもたらす恵沢を確保し(略)(p.103)
みたいなのが、いかにもパロディって感じしていい。
あと、「パンダが死んだら何屋が儲かる!?」って回は、選者井上さんいわく「こじつけゲーム」なんだけど、おもしろい遊びだ。(おそらく1979年にランランが死んだという時事ネタと思われる。)
>パンダが死んだら、その記念に西郷さんがパンダを引いて立つことになる。そこで、全国の犬がひがんで吠えなくなる。犬が吠えなくなると、泥棒がふえる。泥棒がふえると、亭主族の帰りが早くなる。亭主族の帰りが早くなると、ネオン街がさびれる。ネオン街がさびれると、女性たちが昼間の勤めにきりかえる。昼の勤めにきりかえると、通勤ラッシュが激しくなって電車が増発。電車が増発されると、車両の需要がふえ、パンタグラフ・メーカーが儲かる。(p.42)
ってのが一席に選ばれたひとつなんだけど、西郷さんの銅像がパンダを引いて、それで番犬が吠えなくなる、って飛躍した導入もいいし、パンダからパンタグラフへって結末がばかばかしくて、おもしろい。
コンテンツは以下のとおり。
狂歌百人一首
江川君を励ます歌
パンダが死んだら何屋が儲かる!?
書かれざる本(?)の「架空書評」(1)
狂歌百人一首
「枕草子」
憲法前文
軍艦マーチ
狂歌百人一首
ある有名人の架空演説
石川啄木の短歌
現代一流作家が書く「なんとなく、クリスタル」
書かれざる本(?)の「架空書評」(2)
対談/丸谷才一=井上ひさし パロディの大スターたち


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