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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

チャンドラー傑作集1

2025-02-28 19:27:38 | 読んだ本
レイモンド・チャンドラー/稲葉明雄訳 1963年 創元推理文庫
ちょっと前に(関川夏央・谷口ジローの『事件屋稼業』を読んだときだ)、そういやチャンドラーの短篇ってあんまり読んだことないなあ、と思ってしまい、地元の古本屋で文庫を手に入れた。(1982年の28版)
4作品収録されてるけど、どれも文庫で80ページ以上はあるからやや長い、中篇っていうのかね。
なんも知らんと、主人公はぜんぶフィリップ・マーロウなんだろうなと思ってたんだが、そうぢゃないのね。
訳者あとがきによれば、フィリップ・マーロウは1939年の長篇『大いなる眠り』からで、本書の「赤い風」はジョン・ダルマス、「金魚」はカーマディが、発表当時の主人公だったんだけど、短篇集刊行時にマーロウに改められたんだそうで。
ただし、チャンドラー自身の言葉によると、主人公は一貫した人物として書いたんだという、まあ、そうだろうな。

「脅迫者は射たない」Blackmailers don't Shoot(1933)
ジョン・マロリーがハリウッド女優を脅迫するとこから始まる。
若気の至りで書いたような男への手紙を買い取れというんだが、女はそんなもの何さニセモノでしょって感じで相手にしない。
女の用心棒みたいなやつとイザコザになって、ちょっとワルそうな刑事もからんできて、当然悪い組織の連中も出てくるし、だんだん大ごとになってく。
そしたら女優が誘拐されたとかいって、その黒幕は彼女の顧問弁護士ぢゃないかって言い出して、なんだかけっこう複雑。
いまひとつスラスラと読んでけなくて、なんつーかスッキリしない。これがチャンドラーのデビュー作だそうだ。

「赤い風」Red Wind(1938)
というわけで、これにはフィリップ・マーロウ登場、サンタ・アナ特有の暑い風が吹き荒れている夜に、住んでるアパートの近くに店でビールを飲んでるとこから始まる。
>若造はもう一杯ウィスキーを注いでやったが、それを差しだすとき、お祖母さんを蹴とばしでもしたような後ろめたい顔をしたので、さてはカウンターのかげで水増ししたなと私は察した。呑んだくれは平気なものだった。脳腫瘍の手術をする外科医のような細心の注意をはらって、男は二十セント銀貨二枚を山から摘みあげた。(p.100)
いいですねえ、こういう表現があちこちあると、退屈しているヒマがない。(村上春樹さん言うところの “目を覚めさせるサプライズ” )
その店に、女を捜している男が入ってきたかと思うと、突如銃撃があって死人が出ることになる。
そしてマーロウが自分の部屋へ帰ろうとエレベーターを降りると、捜されていたと思われる服装の女が立っていた。
(すっかり忘れてたけど、この作品は前にべつの文庫本で読んでた。)

「金魚」Goldfish(1936)
これもフィリップ・マーロウもの、むかし婦人警官だったっていう女性から、二粒で20万ドルの値打ちがあるレアンダーの真珠ってのを探してくれと依頼を受ける。
列車強盗で15年刑務所くらいこんだ男が盗ったはずなんだが、その真珠については絶対口を割ることはなかった、だが刑務所仲間のつてで手掛りをつかんだのだという。
>「(略)サイプというのは――もう年寄りでね。十五年間を勤めあげたでしょう。もう充分以上に罪をつぐなったのよ。それをきくと気が重くならない?」
>私はかぶりを振った。
>「だって強盗を働いたんだろう。人もひとり殺しているんだ。今はなんで生活を立てているんだね?」
>「細君がお金持ちなのよ。彼はただ金魚道楽をやっているだけなの」(p.194)
というわけで男を探しにいくマーロウだが、真珠を狙う別の連中とトラブルになるのは当然の成り行き。

「山には犯罪なし」No Crime in the Mountains(1941)
これの主人公はロスアンジェルスの私立探偵ジョン・エヴァンズ、内密の件で相談したいと500ドルの小切手同封した手紙で呼び出され、ピューマ・ポイントっていう標高五千フィートの湖があってキャンプとか盛んな山へ出かけてく。
行ってみてから、指示どおり電話したが依頼者は不在、何の話かもわかっていないうちに新しい死体を見つけちゃってトラブルに巻き込まれる。
それにしても、見知らぬ男に拳銃を突きつけられて後ろ向かされてからしばらくして、
>有能な人間ならいまが潮どきだった。すばやく地面に倒れると見せて、膝だちの姿勢でうしろから突きあげ、自分の拳銃を手に光らせて立ちあがるという按配だ。それには目にもとまらぬ速さが必要だ。腕っこきの男なら、後家さんが義歯をはずすときのような滑らかな一挙動で、この眼鏡をかけた小男をあしらってしまうことだろう。私にはどうしても自分が腕っこきとは思えなかった。(p.275)
って考えめぐらせ、ジッとしてるところなんか、なかなか正直でよろしい。ハードボイルドの主人公って、とかくスーパーマンとして描かれちゃいそうなもんだが、自分はそんなカッコよく立ち回れないと認めてる主人公って、なんかいい。
かくして、あちこち突っついてってみると、どうやら偽札づくりの組織がからんだ事件が相談の本題だったようだが、それにしてもバンバン人がよく殺される。
タイトルは、地元の保安官補が、
>「この土地には犯罪らしきものはなかった。夏場にときたま喧嘩とか酔っぱらい運転があるくらいのもんでね。(略)ほんとうの犯罪はおこりっこないさ。山には強力な犯罪の動機ってものがないからな。山の人たちは平和そのものなんだ」(p.311)
って言ってるあたりからきてるっぽいが、どうしてどうして殺人事件の舞台になっちゃう、まあ確かに騒ぎ起こすのはヨソもんだけどね。

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