北尾トロ・えのきどいちろう 二〇二二年 河出文庫版
サブタイトルは「まったく天下をねらわない地方豪族チェーンの研究」。
ことし4月ころだったか、書店で見かけて思わず手を伸ばしてしまった文庫。
前に町中華の本を読んだりしたんで、なんかおもしろそうだなと想像して。
しかし、山田うどん、名前は知ってるけど、あんま食べた記憶がないな私、住んでるまわりではあまり見かけなかったような気がするし。
さて、冒頭の「文庫版のためのまえがき」を読んで、この文庫は先に出された二冊からの文庫化と知った、『愛の山田うどん』(2012年)と『みんなの山田うどん』(2014年)だって。
発端は2011年ころ、著者ふたりがネット番組でフリートークっぽい流れから、山田うどんの話になって、若いころからよく食った、どこにでもありそうな麺の味でボリュームがあってよかったとか盛り上がってしまい、研究しようということになったらしい。
で、山田うどんは埼玉が地元らしいんだけど、本書のサブタイトルにもあるとおり、全国チェーンで制覇しようとか、都内の一等地になるべく多く展開しようとかってんぢゃなく、地元とその周辺の関東近郊でやってこうっていう地方豪族なんだと。
>郊外、ローカル、東京への憧れとコンプレックス。この三要素を否応なく意識し、郊外に着目する大資本としのぎを削る。埼玉豪族は他府県に比べ、長く激しくこれをやってきた結果、自らの立ち位置を知るに至った。このままで行こうと。安く、気さくで、日常性のあるチェーン店。都会以外のどこにあっても風景に馴染むような店。それこそが武器なんだと。
>山田は地元でこれを徹底し、誰が言い出したか知らないが、埼玉のソウルフードと呼ばれるようになった。(p.189)
というのがメインの研究結果なんぢゃないでしょうか、埼玉のソウルフードっていうんだ、知らなかったけど、まあ私は埼玉に住んだことないし、詳しくないから。
対して、東京にも武蔵野うどんと名乗る勢力があったり、さぬきうどんなんかはあきらかに全国制覇を目指してる感じするし、ほかにも稲庭うどんとか博多うどんとか独自の製法というか味があって、どこも譲んない争いがあるようなんだけど、
>僕が言いたいのは豪族の背後にうどん文化ありってことだ。(略)食べられるうどんが地域によってさまざまなのは気候風土や味の好みがバラバラってことになる。長い歴史をもちながら融合することがなく、食べ方も麺の硬さもいろいろ。調べていくと、うどんはびっくりするほど地域性強いんだ。
>日本はうどんの国である。我々はうどんとともに生き、うどんとともにその生を終えていく国民だ。(p.97)
なんて大げさすぎるような考察もあったりして、たのしい。
でも、店舗ごとのちがいとか特筆すべきメニューとか、なんか熱い語りが展開されてるのに、いまひとつ私がのめりこめないのは、やっぱ食べたことがあんまりないからなんだろう、しかたないねえ。
ちなみに著者たちは自分ら山田うどんをこよなく愛する存在を、「山田者」なんて呼んでますから、かないませんねえ。
コンテンツは以下のとおり。
I 山田が心配でならない
山田うどんが降りてきた!
いざ、山田本社へ
潜入! 山田工場見学
山田で働く
II 山田を考えられるだけ考えた
山田うどんの埼玉性について
うどんの国から
山田ロードサイド論
地方豪族としての山田
分け入っても分け入っても山田――「かかし」の源流を求める旅
特殊山田の研究
案山子デザインの謎とジョンソン基地
高村薫『冷血』と山田うどん
埼玉豪族の日常力
山田CMに関する資料研究(序の口)
山田遺産への旅
国道50号線・山田うどんの旅
III 文庫書き下ろし 山田をまだまだ考える
アルカイック山田の時代
令和に蘇った勇者『TARO』
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