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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

大蔵官僚支配の終焉

2020-10-24 18:16:37 | 読んだ本

山口二郎 一九八七年 岩波書店
今年ときどきやってる、学生んときの課題文献を見つけてしまったので三十年ぶりにホコリはらってみたシリーズ、の第何回目かだ。
うーん、目次のとこに自分の字で鉛筆で、「レポ この本でわかったこと 〃の問題点 政策分析・自分だったらどう研究するか計画書(具体的)」なんてメモってある、当時の自分にできたとは思えないが、まあ適当にレポート提出したんだろう。
なかみは、日本の政治について、「党高官低」とかってわかったような言葉で単純にくくって思考停止しちゃわないで、ちゃんと考えてみようぜって話だ。
タイトルが「官僚支配の終焉」なんてドキッとさせる言葉なんだが、官僚支配が終わったからって、官僚がものの決定権まったくなくしたとか、政治家が100%優位を占めてるとか、そういうわけぢゃあない。
どうでもいいけど、「大蔵省」そのものが無くなっちゃったからねえ、いまや。前の時代の話になっちゃったといえば、そういうことになるが。
まあ、明治以来の近代化めざしてやってきたり、それが戦争負けてボロボロになったけどそっから復興めざしてやってきた中央集権体制みたいなもの、そういう時代が終わったときのことがまとめられてる。
昭和40年あたりのことだ、具体的には均衡財政主義が終わっちゃって、公債発行に転換したのはいかなる経緯だったか。
いまになって、歴史書として読むと、とてもおもしろい。
国際収支の安定を重視し、均衡財政主義で来たんだが、昭和40年の当時戦後最大の不況で税収不足になったときに、どうやって方針転換したか。
学生だった当時の私には理解できなかっただろうが、いままでの政策は正しいと肯定してきて、方針変えろって批判に対してはそんなこと無理とかって言い張ってきたお役所が、どうやって理屈つけて政策変えるかってのは、おもしろいんだよね、悪いんだけど。
そういうの、実社会に出て仕事してみて、去年まで言ってたことと矛盾するじゃん、それやるのかよ、って体験させられたりしたほうがわかるようになるんだ、これが。
昭和40年に初めて公債発行するときの主計局長の書いたものに、「従来の方針を揚棄(放棄ではない)する」(p.173)って言葉があるなんてとこ読むと、苦しいんだろうなー、って笑っちゃう。
(ちなみに「揚棄」なんて言葉は知らなかったが、止揚・アウフヘーベンと同じらしい、「矛盾した概念を更に高い段階に統一すること」(類語国語辞典)だって。)
でも、笑ってばかりいると、これは退却ではなく転進である、とか言い張る大本営発表にだまされてるうちに、悲惨な負け戦に導かれるってこともあるから気をつけないと。
しかし、やっぱ、これまでの施策の評価はしつつ、方向転換のための屁理屈を並べ、ブレーキなしだとヤバいのは承知してるから歯止め策は一所懸命先回りして用意しておく、って自分でやらされるとストレスたまるけど、ひとごとだと読物として楽しい。
昭和39年10月に池田勇人が病気で引退して、佐藤栄作が後継者になったけど、失政で退陣するんぢゃないから内閣は居ぬきで留任・政策は踏襲することって条件がついてたんで、田中角栄が大蔵大臣留任してるあいだは均衡財政主義は変えられなくて、翌年に福田武夫が大臣になるまでは公債発行はできなかった、とか、そういういかにも政治的な裏話がついてると、ますますおもしろかったりする。
公債発行だけぢゃなく、いつのまにか減税の構想が浮上してきて、
>本来、大蔵官僚にとって公債発行と減税とは何らの論理的連関もないものであった。その二つが結びつけられ、一つのセットとして打ち出されたのは、政治家福田の主張によるものであった。(p.221)
なんてあたりを読むとねえ、均衡財政主義ぢゃありえないことを、経済体質改善のためにはやむなし、みたいに自分を納得させるお役所の葛藤みたいなのがしのばれる。
で、その後景気はよくなっていくんだけど(いざなぎ景気)、昭和四十年代前半の財政政策っていうか予算編成ってのは、
>それは、主計局が合理的政策作成者であり、自民党と各省庁から出るノイズによって合理的政策が歪められるという予算編成過程の意味づけから転換して、自民党、各省庁という要求側を公式の予算編成手続の中に組み込んだという点である。(p.278)
というスタイルが確立されていくということになる。
勉強になるなあ、それはそうと、オリンピックがあるとか、急に景気わるくなるとか、首相病気で退陣するとか、なんか歴史はくりかえすのかなって気もしないでもない。
どうでもいいけど、ひさしぶりに読み返してみて思ったんだが、この本すごく読みやすい。
内容はむずかしい話なんだけど、どの章でも、段落の最初の一文読めば、それだけでつながって読めていく。
結論が最初に書いてあって、それが「第一に」「第二に」とか「まず」「次に」とか「この点について」「これに対して」とかって書き出しで、関係がサラサラーっとつかまえられる。
論文はこうありたい。
コンテンツは以下のとおり。
序 日本官僚制論と本書の課題
第一部 分析枠組
 第一章 政策決定の分析枠組
  第一節 政策決定理論の概観
  第二節 政策類型化の試み
  第三節 政策転換の動態モデル
 第二章 政策転換と政策過程
  第一節 政策過程の類型化
  第二節 政策転換と官僚制
第二部 公債発行と財政政策の転換
 第三章 公債発行前史
  第一節 戦後日本の均衡財政主義
  第二節 均衡財政主義の変容
 第四章 財政危機への対応
  第一節 危機の勃発
  第二節 福田財政の登場
  第三節 特例公債による危機突破
 第五章 主計局の長期戦略
  第一節 均衡財政主義の総括と四十年代財政の方向づけ
  第二節 財政法第四条と公債発行の歯止め
  第三節 儀礼としての減債精度
 第六章 財政新時代
  第一節 公債政策の正統化
  第二節 主計局のジレンマ
  第三節 財政政策の方向転換
 第七章 財政硬直化キャンペーンの挫折
  第一節 危機意識の背景
  第二節 問題提起
  第三節 対応
  第四節 意義と限界
結語 大蔵官僚支配の終焉
  第一節 政策転換の動態
  第二節 大蔵官僚の行動様式
  第三節 政策過程の変化と大蔵省主計局


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