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M&Aが地場産業を救う

2020-11-15 12:00:00 | 20期生のブログリレー

こんにちは。ながいち!です。

M&Aによる事業承継

検索エンジンに「中小企業」「事業承継」「M&A」と入れて検索すると、「M&Aご相談に乗ります」とPRするコンサルティング会社等のサイトがずらりと並びます。
2020年の中小企業白書には、社長年齢別に後継者の有無を確認すると、「60代で50%、70代で40%、80代で30%が後継者不在」とのデータが掲載されています。廃業リスクが高まっており、事業を残すためには、親族や社内関係者以外を譲受人としたM&Aが必要な状況になっていると考えられます。
M&Aコンサルティングを行う株式会社レコフによると、M&Aの成立件数は、2017年が3,050件、2018年が3,850件、2019年が4,088件と右肩上がりで増加。中小企業のM&Aが増えており、経営者高齢化による事業承継目的が増加していると分析されています。

11月10日のNHK TVの「おはよう日本」で福井県鯖江市の眼鏡関連の製造事業者が、M&Aによって事業承継したことが紹介されました。ご覧になった方はいらっしゃるでしょうか?「地場産業・生き残りをかけた模索」と題するミニ特集でした。
地域経済、特に零細企業で構成された地場産業振興の視点からは、M&Aによる事業承継が、どうしても必要な選択肢であることを痛感しました。今回のブログでは、報道の内容を基礎としながら、地場産業の今について少しだけ掘り下げ、広げてみたいと思います。

鯖江市(福井県)の眼鏡

福井県鯖江市は、国産眼鏡フレームの約95%を生産している産地です。鯖江市には約450社の眼鏡関連の事業所があり約4,800人が従業しています(2016年)。チタン製フレームを開発し技術力が世界的に評価される産地ですが、国内需要の減少と中国品の台頭により、最盛期(1980~90年代)に較べると製品出荷額と従業者数は4割減、事業所数は半分になっています。
私も鯖江のフレームを利用しているのですが、15年目ながら問題なく使えており、モノの良さと技術力を実感しています。
事業者数が多い理由は、鯖江市の眼鏡産業の特徴として、眼鏡フレームの製造プロセスが、パーツ毎、工程毎の専門製造業者によって分業されているからです。
このコロナ禍の販売不振により、事業を続けられない小規模事業者が出ているとのこと。製造プロセスの一部を担っている事業者が廃業すると、完成品ができなくなります。そこで、フレームメーカーが当該事業者を買収し事業を譲り受けることで、生産システムを維持している、というのが報道の内容でした。
福井県の中小企業診断士がチームを立上げ支援をしているとの説明もあり、福井県の診断士協会会長がインタビューを受けておられました。眼鏡関連の企業に広く調査票を配布し、廃業のおそれがある企業を洗い出し、M&Aの橋渡しをすることで廃業を回避するよう努めているとのことでした。
M&Aの成立により、買収企業は譲り受けた工程を内製化。そのことで、品質の向上、開発力の向上、納期の安定化を図ることができます。
一方、地域経済の視点からは、雇用が守られ、技術が守られ、地場産業の生産システムの崩壊が食い止められます。眼鏡産業は福井県の主要産業のなかでも労働生産性の低い部類に入るようです(626万円/人、県平均:1,007万円/人)。買収による成果が出れば、労働生産性の向上にも貢献するでしょう。

燕市(新潟県)の金属洋食器・金属ハウスウェア

地場産業の状況に関する他の事例として、新潟県燕市の金属加工業に関する記事や資料を見つけましたので、ご紹介します。
燕市は、ご存じのように金属洋食器・金属ハウスウェア(ポット、トレー等)の産地として有名です。国内生産額の90%が燕市で生産されています。ステンレス研磨の技術力が特に優れており、アップルがステンレス製のiPodを発売したとき、当初その研磨加工を燕市の業者が引き受けていました。
市内には、金属製品製造業の事業所が約340か所あり、常時従業者が約5,700人(2013年と古いデータですが)。最盛期の1991年から2013年までの変化は、製品出荷額が50%ダウン、事業所数が60%ダウン、常時従業者が40%ダウンとなっています。
洋食器の製造工程も多段階になっており、この地域では小規模な事業者が各工程ごとに分業して担っている特徴があります。鯖江市の眼鏡フレームと似た産業の構造です。
燕市が2016年に行った後継者に関する調査では、小規模事業者の45%が「後継者不要」と回答し、後継者不要の理由として93%が「自分の代で廃業予定」と答えています。また、燕市の金属製品製造業の労働生産性は355万円/人にとどまっています(2014年)。地場産業の持続性について、鯖江市よりも厳しい状況にあると推測されます。
燕市地域では、地元のコンサルティング会社や金融機関によって、積極的に事業承継の橋渡しがなされているようです。
鯖江市の眼鏡産業同様、こうしたケースのM&Aは、譲る方、譲られる方、通常はお互いにやってよかったという結果になると予想されます。さらに、優れた職人の技術と企業のノウハウが失われることなく買収企業に承継され、安定した企業の傘の下で活かされることは経済政策としても重要であると考えます。安定した企業においてこそ、職人の技術継承も可能になります。

稼ぐ地方づくり

日本国内の地場産業が全体としてどうなっているのか、その知見はありません。ただ、後継者不足に悩み、中国等海外品との競争で劣勢となり、沈滞状況あるいは衰退傾向にある産地は少なくないでしょう。
一方、政府の第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では「稼ぐ地方づくり」が基本目標の一つとなっています。「地域企業の生産性革命の実現」に向けた取組みをする、と書かれています。地場産業の企業間M&Aが推進されるような施策が、うち出されるのでしょう。施策の実行に当たっては、中小企業診断士に期待される役割も大きいのではないかと考えます。

コメント (2)
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