「鮨安吉」から出てバスで向かったのは博多の居酒屋の中でも名店として知られる「さきと」。天神のバス停で降り、路地を歩く。実は前の日に行って早仕舞いで振られたのはここだ。この日はまだ早い時間だったのでセーフ。それでもカウンターのみの店はほぼ満員で、ちょうど出る人がいたから入れたものの、断られている人もいた。すごい人気だな。店はわりと新しめの建物の1階テナントで、意外にも風情とかとは無縁。ここがなぜそんなに評判なの?と拍子抜け。カウンターには15人位入れるだろうか。目の前の漬け場も結構狭く、主人と女将さん(?)の2人がすれ違うのもやっとくらい。壁には所狭しと色んなお酒の名前や品書きが貼られていて、狭い中にも効率的に一升瓶が棚やカウンター下の冷蔵庫(たぶん)に納めてある。
どれも迷うほどいい日本酒ばかりだが、出来ればこちらのお酒ということで「若波」をぬる燗で注文した。ちゃんと一升瓶のラベルをこちらに向けて置いて見せてくれるのは気が効いている。主人の手元は見えないのだが、次々と入る注文をどこでどう調理しているのか、まるで魔法のように捌いている。自分にもお通し(ヒラマサの煮つけ)が置かれるが、これが滅法旨い。しかもお通しといってもちゃんと量があり、酒を邪魔しない丁度いい味付け。これでもう降参(笑)。カウンターの冷蔵ケースの中の大皿に大好物のクラゲが見えたので注文。コリコリとした食感と酸っぱ過ぎない味付けが日本酒でもばっちり。壁には食べたい品書きがぎっしりと書いてあるが、ひと通り鮨を食べてきてしまっているので、あれもこれも頼みたいのに(食べきれないと嫌だから)我慢しなくてはいけないのがつらかった。酒肴のジャンルはいろいろなのに、どれもが日本酒、ビール、焼酎、その他にそれぞれ合いそうな絶妙なラインナップ。その中から食べた事の無い「さえずり(鯨の舌の刺身)」とお酒をもう一銘柄追加注文し、味わう。いやぁ、これも旨いわ。もっとあれもこれも喰いたい…。
主人も女将さんも特に饒舌でもないし、どちらかというと注文をテキパキこなしていくばかりなのに、その姿をボケっと見ながら壁に貼られたメニューに目を走らせているだけで妙に居心地がいい。隣りには若い女性のお一人様客が座ったが、自然に店に入って旨そうにビールを喉にくぐらせている。特に客をいじるでもなく、主人は淡々とまた別の旨い酒肴を生み出している。うーん、箱(店舗)が歴史的だとか、意匠に凝っているとか、いい調度品を使っているとかでなくても不思議なくらいに居心地のいい空間。接客はベタベタもしていないし、かと言ってつっけんどんでもない。シンプルに酒とつまみが旨い。ここはいい。名残惜しいが、勘定を終えると主人は店頭にまで出て見送ってくれた(あんなに忙しいのに!)。あぁ、この店に通えたらなぁ…。(勘定は¥3,000程)
↓ 写真はほど近い「旧・日本生命保険株式会社九州支店(現・赤煉瓦文化館)」明治42年竣工
さきと
福岡県福岡市中央区舞鶴2-8-25
( 福岡 ふくおか 居酒屋 酒場 )