39°8' / 泉谷しげる (1983)
泉谷しげる83年の作品。時期的にはAsylumに所属していた頃で、いわゆる80年代ニュー・ウェーヴ的な音作りが特徴。88年にビクターに移籍してルーザー(The Loser)を結成するまでのこの時期は、捉えどころのないアルバムが続き、このアルバムも大物(仲井戸麗市、鈴木さえ子他)が参加している割には、彼の歴史の中であまり顧みられることがない。泉谷が吠えずにしっかりニュー・ウェーヴしているが、バックにまわったムーンライダースの面々に大いに影響を受けたのだろう。
ただ、そんな(ちょっとお洒落な)泉谷が、これはこれで面白いんだな。この頃の泉谷は映画やテレビで役者としての仕事も多く、自分の記憶の中ではミュージシャンというより、狂気を含んだ特異な俳優としてのイメージが強い。実際、当時まだ彼の音楽をほとんど聴いた事がなかったと思う。そんな強いイメージの彼が、都会的で、キーボード主体の耳障りいい音と重なっているのが興味深いし、いい意味で色々な方面からの新しい刺激を素直に受け止めたんじゃないだろうか。
印象的なベース・ラインの1は中でも白眉で、後にルーザーでもライヴで取り上げて強力な曲になっている。後を知っている者からすると、このオリジナルはやや大人しくも聴こえるが、もちろんここでのアレンジが元になっているので聴きものだ。相変わらずストレートでない歌詞も健在。
先に「都会的」と書いたが、泉谷の音楽はまさに、都会に住む、都会の人の(厳密に言えば東京の)音楽だ。実際そこに住んでいる時には、彼の歌う曲の歌詞から、彼特有の狂気や不穏さ、苛立ちというのがダイレクトに感じられるが、田舎にいて聴くと正直ピンと来ない。自分もあれほどハマったルーザーから後にパッタリ聴かなくなったのは、多分東京を離れたからっていうのが大きい。一般の人は泉谷の風貌から(笑)泥臭い印象があるかもしれないが、彼自身は都会から離れて暮らす事って全く出来ない人間じゃないだろうか。
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