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ハリーの「聴いて食べて呑んで」

日々増殖を続ける音源や、訪問した店、訪れた近代建築などの備忘録

志ら玉 @名古屋市北区・上飯田

2019年09月10日 | 名古屋(東区・北区 老舗)

結婚して四半世紀も経つというのに記念らしきことは何もしていなかったし、事情があって嫁と2人でどこかへ旅行へ行くというのも無理な状況なので、食事でもするかと、自分がかねてから訪れたいと思っていた上飯田にある名古屋屈指の料亭「志ら玉」へ行くことに。創業は昭和11年(1936)とのこと。この日は簡単な茶席や店の主人による案内もある企画に乗った形で他人も同席だったが、普通料亭で食事をするというと部屋に入ったらそれっきりで、建物や内部の意匠を愛でることはなかなか出来ないし、料亭では料理や器の説明はされないものなので願ったり叶ったり。生憎の空模様で蒸し暑いが、何とか雨は上がって、傘をささずに住宅街の路地にある店へ。風情ある建物は何棟かに分かれていて、名古屋、京都、奥三河から移築したものなのだとか。この辺りは戦争で焼野原になってしまったので戦前の建物はほとんど残っていないそう。入ってすぐの土間には帳場があり、どこを見てもしっとりと時を刻んだ調度品ばかりで貫禄がある。緑鮮やかな庭を通って迷路のような通路を行き、まず茶室「笑庵」へ。

 

茶室の控えの間に何気なく飾られた掛軸の絵が魯山人だったりと、そこかしこが文化財級。この茶席は正式なものではないお試し的なものなのだが、自分は茶席に招かれた経験が無いので心得のある嫁の後を追って所作を真似することにする(笑)。うっかり黒い靴下を履いてきてしまったし、茶席に緊張していたのか、控えの間で腕時計を外すのを忘れてしまった。薄暗い茶席に5人程入る。菓子を回していただき、各人に薄茶が呈される。所作に慣れた嫁はそれを凝視して真似しようとしている自分を嘲笑うかのように「お先に。」とこちらを突き放している(笑)。主人が掛軸の由来やそれぞれの器、煙草盆、茶杓などの解説をして下さる。ざっくばらんな物言いで楽しい。正客(しょうきゃく)の席に座られたのは年配の男性。器などにも詳しい方のようで主人にも色々質問されていたが、”〇△時代の”と言われた由緒ある器を高々と掲げて観賞したり、スマホを器の上に出してバシャバシャ写真を撮ったりするのでヒヤヒヤ…(※通常、茶席で茶碗などを拝見する場合は高く持ち上げたり、他の物を重ねたりしない)。後から尋ねたら嫁もそれを見てドキドキものだったそうだ。もちろん主人は動揺することなく泰然と構えていらっしゃって注意したりすることはなかった。茶器や茶杓が回され、腰を屈めて拝見。出されている物はひとつひとつが歴史ある一級品ばかり。しかも選び方に少しだけ遊び心を加える「粋」。凄いもんだなァ。

移動して食事をいただく広間「桐の間」へ。欄間や襖にもしっかりと桐の意匠が。椅子席で料理をいただく。もちろん酒をいただく(嫁は呑まない)。こちらの酒は全て岐阜県美濃市の小坂酒造場の「百春」だとか。呑み慣れた酒だ。純米酒が冷蔵のようだったので本醸造をぬる燗でお願いする。皆が食事する間も主人がつきあってくれ、色々な話をしてくれる。料理のこと、料亭のこと、食文化のこと、建物のこと。普段訊くことが出来ない興味深い話が沢山聞けて楽しい。料理の献立は”会席料理”の定石通り、先付、しのぎ、煮物、向付、焼、八寸、鉢、止、御飯、水菓子、菓子と続いていく。海老、雲丹、鰻、鱸、鮪、烏賊、鮃などの食材が様々な形で出された。もちろん酒をお代わり。最初は熱すぎたので「人肌で。」と念を押す。これでも呑み過ぎないように自重している。料亭の料理は季節を感じさせることに一番心肝を砕くそうで、夏はやはり”鮎”なのだそう。この日の「鮎塩焼」は郡上(岐阜)のもの。小振りで蓼酢が付いているが、焼きはもちろんのこと、この蓼酢の風味が爽やかでとても良かった。その他にも所々で濡れた蓮の葉や笹の葉などの緑が用いられ、客が季節を感じ取れるように工夫してある。こちらの名物だというあっさりした味付けの「豚角煮」、食事が始まってから打つという「手打ち蕎麦」、そして「鮎御飯」をお代わりまでいただいて、水菓子、そして「わらび餅」で了。お腹はもちろんのこと、心も満足。嫁もひとつひとつの料理を楽しんだ様子で良かった。とてもいい経験が出来た。こちらでは通年でこういう機会を設けているようなので、季節を変えてまた参加してみたいナ。(勘定は¥32,000/2人)

  • <先 付> 海老 雲丹 冷製玉子〆
  • <しのぎ> 鰻飯蒸し 山椒
  • <煮 物> 胡麻豆腐 海老 茗荷 柚子
  • <向 付> 鱸洗い 鮪 烏賊素麺
  • < 焼 > 鮎塩焼 酢蓮根 蓼酢
  • <八 寸> フォアグラ 笹寿司 粟麩 玉蜀黍 サーモン レモン
  • < 鉢 > 豚角煮 湯葉 五月豆
  • < 止 > 手打ち蕎麦
  • <御 飯> 鮎御飯 香物
  • <水菓子> メロン キウイ マンゴー 寒天
  • <菓 子> わらび餅 薄茶

 

 

 

御懐石 志ら玉

愛知県名古屋市北区上飯田西町2-36

 

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コメント (2)
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