松竹大歌舞伎「封印切」「蜘蛛絲梓弦」(9月7日・扶桑文化会館)
歌舞伎の巡業公演。今回はお気に入りの扶桑文化会館にて。このハコはこじんまりとしていて2階席でも充分役者の息遣いが伝わる距離感だし、ちゃんと花道や(ちょっと変わった仕様だが)桟敷席もある歌舞伎を観るにはお勧めの会場。昼はしっかり入っていたらしいが夜は空席も目立っていた(※下の写真は入場してすぐの様子)。
最初の演目は「封印切」。遊女の身請けの金にまつわる上方の和事。つまり関西歌舞伎の恋愛もの(←大雑把に言ってます)。台詞はもちろん関西言葉で、忠兵衛(鴈治郎)のいじめられっぷりが見もの。”封印を切る”というのは小判の封印を切るという事。これは公金横領とみなされる重罪だということを頭に入れておかないと事後の忠兵衛の絶望がしっくりと入ってこない。いじめる役の恋敵・八右衛門は松也が演じる。これがまたいい男だけに憎たらしい(笑)。松也は近年知名度もグングン上がって重要な役をやることが多くなってきた。吉弥の演じるおえんがいい感じだったなァ。
忠兵衛と梅川が2人して命を捨てる覚悟を決めた場面で、後ろの方から「ピンピロピロ~♪」と携帯電話を鳴らす馬鹿者が…。振り返ると60前半位のオッサンだったがびっくりすることに、電話に出たね(怒)。「モシモシ…」じゃないだろっ!(驚くことに、この人あとでもう一度鳴らして、呼出音を鳴らしたまま手に持って中座します…)。幕間に隣席の女性が「腹立ちましたねー。」と話しかけてきて共感してしまった。無神経な人って居るものだ。
2幕目は「蜘蛛絲梓弦」。扇雀が悪の4役をこなす外連味たっぷりの、言わば”ヒーロー戦隊もの”(笑)。いわゆる早変わりという程ではないが、役と衣装を変えて次々と貞光、金時、源光の前に現れる。60代前半の扇雀が最初におかっぱ頭の童子役で出てきたときはさすがに引いたが(笑)、役を変えて1時間延々と踊ることの出来る歌舞伎役者の資質って本当に凄いものだ。振付とかどうやって覚えるんだろう(しかも1ヵ月後にはまた他の役)。パァッと拡がる必殺技・蜘蛛の糸も各キャラ毎に大盤振る舞い。あれ1回でいいからやってみたいな。最後は全員が舞台に出て見得を切りながら、客席に向かって再度パァッと蜘蛛の糸。無条件に楽しい演目だった。
恋飛脚大和往来
一、玩辞楼十二曲の内 封印切(ふういんきり)
新町井筒屋の場
- 亀屋忠兵衛 中村 鴈治郎
- 傾城梅川 市川 高麗蔵
- 丹波屋八右衛門 尾上 松也
- 肝入由兵衛 中村 寿治郎
- 井筒屋おえん 上村 吉弥
- 槌屋治右衛門 河原崎 権十郎
二、蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)
- 女童扇弥 中村 扇雀
- 座頭駒市
- 傾城薄雲太夫
- 蜘蛛の精
- 碓井貞光 中村 虎之介
- 坂田金時 上村 吉太朗
- 源頼光 尾上 松也