歌劇「トゥランドット」が初演されたのは今からちょうど80年前の
4月25日。ミラノ・スカラ座だった。
だが作曲者のジャコモ・プッチーニはその舞台を観ることができなかった。
2年前にすでにこの世を去っていたのだ。
この「トゥランドット」の中で謳われる「誰も寝てはならぬ」は、
リリコ・スピントの名曲である。ドミンゴやカレーラスの18番だが、
イタリア人にはやはりモデナ出身のルチアーノ・パヴァロッティに
謳ってもらいたい。
その思いはトリノ・オリンピックの開会式で現実のものとなった。
パヴァロッティには、かって「イタリアの青空」と喩えれた最高音の
きらめきはすでに過去のものだったが、聴くものの心を揺さぶった。
この「誰も寝てはならぬ」を聴いた荒川静香は、「運命」を感じたと言った。
プッチーニの歌劇は、「運命」にもてあそばれる女性を描いていることが
多いのだが、彼女は「運命」を引きつけることができるのだろうか。
この大会寸前に、SPもフリーも曲を替えた荒川は、オリンピックという
まさに「運命」といってよい得体の知れない存在から一時も目を離すことなく
近づいていった。
コーエンが、スルツカヤが、プッチーニのヒロインのように「運命」に
もてあそばれる中にあって、自らの心を「クール」に保つことができた荒川が
当然のように圧勝した。
異国趣味の歌劇を得意としたプッチーニが生きていたら、このアジアの舞姫を
観てどのような名曲を創っただろうか。
ともかく、誰も寝てはならぬ、と睡眠不足の日本人に感動を与えた
女子フィギュアの3選手に心からのエールを贈ろう。
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