やがて、開店時間となり、カメラは支店長席の
後の箱の中に収まった。
〈ここから〉
開店時間となる。
一人目の客が入ってくる。女性だった。
カウンターの座っている日本人を眺めて
本当にびっくりした顔で、銀行から飛び出して
いった。
そのまま、帰って来なかった。
二人目も同じだった。
三人目、カウンターの日本人に話しかけてきた。
対訳表を見せられて、男性は両手を広げて
出ていった。
四人目、カウンターの対訳表を睨んだ男性客は、
おもむろに、「kogitte」と言い出した。
冗談ではない。1枚の紙切れを見て、
「kogitte」といい、交渉を続けるとは
考えられない。が、ここはイスラエルだ。
もちろん、カウンター係は、取り合わない。
お客は「kogitte」を連呼する。
カウンター係では、らちがあかないと思ったのか、
そのお客は、やおら支店長席の私に向って
叫びだした。文句をいっているのはわかる。
こちらは相手にできるわけではない。
黙って仕事をしている(もちろん振り)と、
突然、カウンターの横から中に
入ってきた。
机の前に来た!
私に何か叫んでいる。
「あんたが責任者だろう。なんとかしろ」
といっているのだろう。
(普通そこまではやらないよね)
今度は私が両手を広げる番である。
こちらも「助けて状態」となった。
そこでやっと、どっきりカメラマン登場である。
お客びっくり、怒り出す。
こちらはほっと息をつく。
リハーサル通りの笑顔をつくる。
うーん。これはなかなか面白い。
立派な「どっきりカメラ」が撮れたのでは。
――――――――――――――――――
私はこの体験が、その後の自分の人生に
影響を与えたと思ってきた。
ユダヤ人は凄い、どのような局面に至っても
諦めない。やはりベニスの商人は本当だ、と
思ってきた。
ユダヤ人観はこの時に出来たといってよい。
(働くということはこんな人間とも商売しなく
てはならないのかと思った)
しかし、私にある疑念が沸いてきた。
今夜はここまで。イブまで待ってね。
後の箱の中に収まった。
〈ここから〉
開店時間となる。
一人目の客が入ってくる。女性だった。
カウンターの座っている日本人を眺めて
本当にびっくりした顔で、銀行から飛び出して
いった。
そのまま、帰って来なかった。
二人目も同じだった。
三人目、カウンターの日本人に話しかけてきた。
対訳表を見せられて、男性は両手を広げて
出ていった。
四人目、カウンターの対訳表を睨んだ男性客は、
おもむろに、「kogitte」と言い出した。
冗談ではない。1枚の紙切れを見て、
「kogitte」といい、交渉を続けるとは
考えられない。が、ここはイスラエルだ。
もちろん、カウンター係は、取り合わない。
お客は「kogitte」を連呼する。
カウンター係では、らちがあかないと思ったのか、
そのお客は、やおら支店長席の私に向って
叫びだした。文句をいっているのはわかる。
こちらは相手にできるわけではない。
黙って仕事をしている(もちろん振り)と、
突然、カウンターの横から中に
入ってきた。
机の前に来た!
私に何か叫んでいる。
「あんたが責任者だろう。なんとかしろ」
といっているのだろう。
(普通そこまではやらないよね)
今度は私が両手を広げる番である。
こちらも「助けて状態」となった。
そこでやっと、どっきりカメラマン登場である。
お客びっくり、怒り出す。
こちらはほっと息をつく。
リハーサル通りの笑顔をつくる。
うーん。これはなかなか面白い。
立派な「どっきりカメラ」が撮れたのでは。
――――――――――――――――――
私はこの体験が、その後の自分の人生に
影響を与えたと思ってきた。
ユダヤ人は凄い、どのような局面に至っても
諦めない。やはりベニスの商人は本当だ、と
思ってきた。
ユダヤ人観はこの時に出来たといってよい。
(働くということはこんな人間とも商売しなく
てはならないのかと思った)
しかし、私にある疑念が沸いてきた。
今夜はここまで。イブまで待ってね。