『逆転のトライアングル』(Triangle of Sadness)という映画を見て、実に嫌な気分になった。ほめてるのである。見る人をして嫌な感じにさせるように作ってあって、見事に嫌な気分になる。成功しているわけだ。その証拠に、この映画は2022年のカンヌ映画祭パルムドール受賞作で、かつ今年の米国アカデミー賞でも作品賞と監督賞(リューベン・オストルンド)のノミネートされている。(オストルンドはスウェーデンの監督だが、英語映画なので国際長編映画賞にはノミネートされていない。)

カンヌ映画祭の直近5回のパルムドールを振り返ってみると、2017年『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(リューベン・オストルンド)、18年『万引き家族』(是枝裕和)、19年『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ)、20年はコロナで中止、21年『TITANE/チタン』(ジュリア・デュクルノー)、22年が『逆転のトライアングル』ということになる。つまり、ここ5回のうち2回がスウェーデンのリューベン・オストルンド監督なのである。じゃあ、その人を知ってるか?
(カンヌ映画祭のオストルンド監督)
まあカンヌ最高賞だからと言って、いつも名作とは限らない。毎回審査員が違うから、その時々の審査員によるブレが大きいのである。一応カンヌ最高賞なんだからと、去年公開の『TITANE/チタン』も見たけど、ここでは感想を書かなかった。フランス女性監督版『鉄男』(塚本晋也)みたいな映画で、とても付いていけなかった。今度の映画も多分付いていけない人がいっぱいいると思う。全体で3つのパートに分かれているが、特に2番目の豪華クルーズ船のシーンはやり過ぎというかトンデモ度が濃厚。最後の孤島シーンも異様なんだけど、クルーズ船で観客も船酔いする感じで、ほとんど驚かないぐらいだ。
主人公と言えるのは、ヤヤ(チャールビ・ディーン)という女性モデル。カール(ハリス・ディキンソン)という男性モデルと付き合っている。でもファッションモデル業界では女性の方が需要が多く、お金も社会的影響力もヤヤの方が上。最初のシーンはモデル業界あれこれで、この二人はレストランの支払いをどっちがするか揉めている。次のパートでは、シーンインフルエンサーのヤヤが豪華クルーズ船に招待されている。夢のような豪華客船で、そこには世界的セレブがずらり。もっともロシアのオリガルヒ(新興成金)やイギリスの「平和を守る産業」(兵器産業)をやってる夫婦とか、ロクなもんじゃない。
(豪華客船の中)
船内の金持ちたちは下品で横暴で嫌なヤツばかりだが、そういう船を下層労働者が支えている。そして船長招待のディナーになるが、ヨッパライ船長が決めた日は低気圧で嵐がやって来て、船が揺れ始めると画面も揺れて見てる方も気持ち悪い。それなのに変な料理ばかり出て来て、画面ではどんどん気持ち悪い状態になっていく。見たくないけど、豪華クルーズのはずがあっという間に「逆転」である。このドギツイまでの風刺がこの映画の狙いである。そして船は遭難し、海賊が手榴弾を投げ込んで、どうなったのか判らないけど、次のシーンではある島に何人かがたどり着いている。あれま。
(島では階級が逆転)
島でのサバイバル能力になると金持ちたちはからきしダメで、そこにトイレ掃除担当だったアビゲイル( ドリー・デ・レオン)が登場する。彼女は魚を捕り、火を熾(おこ)す技術があって、あっという間に島での覇権を握ってしまう。この第3のパートこそ風刺喜劇の本領発揮で、笑えるシーンが多いけど、人間性の本質はこんなものかと不快感が募る。それにしても魚獲りぐらい出来ないのか、金持ち男どもは。風刺映画というのは、誇張表現が真骨頂だけど、そこまでやるか的な感想も持つ。
何だか南洋に流れ着いたのかと思うが、特定はされてないけどロケはギリシャだったようだ。コロナ禍でたびたび撮影が中断し、船内の客の中で島のシーンに出て来ない人が多い。遭難して死んだことにしたんだろうけど、要するに撮影がズレて島シーンに参加出来なかったんじゃないかと思う。この映画を取り上げたのは、出来は良かったからである。出来は良いけど、好きではない。船内シーンが気持ち悪いし、風刺もやり過ぎだなと思う展開が続く。
この監督の今までの日本公開作(『フレンチアルプスで起きたこと』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』)と同様に、日本での評価は高くならないと思う。こういうブラックユーモアが苦手な風土である。だけど、こんな方向で物語を作るというやり方もあるということだ。原題は「悲しみの三角形」で、これは両目と額を結ぶ三角形に怒りや悲しみの表情が現れるということらしい。世界的に評価された映画は見ておきたいというコアなアート映画ファン以外にはオススメしないけど、こんな映画もある。

カンヌ映画祭の直近5回のパルムドールを振り返ってみると、2017年『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(リューベン・オストルンド)、18年『万引き家族』(是枝裕和)、19年『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ)、20年はコロナで中止、21年『TITANE/チタン』(ジュリア・デュクルノー)、22年が『逆転のトライアングル』ということになる。つまり、ここ5回のうち2回がスウェーデンのリューベン・オストルンド監督なのである。じゃあ、その人を知ってるか?

まあカンヌ最高賞だからと言って、いつも名作とは限らない。毎回審査員が違うから、その時々の審査員によるブレが大きいのである。一応カンヌ最高賞なんだからと、去年公開の『TITANE/チタン』も見たけど、ここでは感想を書かなかった。フランス女性監督版『鉄男』(塚本晋也)みたいな映画で、とても付いていけなかった。今度の映画も多分付いていけない人がいっぱいいると思う。全体で3つのパートに分かれているが、特に2番目の豪華クルーズ船のシーンはやり過ぎというかトンデモ度が濃厚。最後の孤島シーンも異様なんだけど、クルーズ船で観客も船酔いする感じで、ほとんど驚かないぐらいだ。
主人公と言えるのは、ヤヤ(チャールビ・ディーン)という女性モデル。カール(ハリス・ディキンソン)という男性モデルと付き合っている。でもファッションモデル業界では女性の方が需要が多く、お金も社会的影響力もヤヤの方が上。最初のシーンはモデル業界あれこれで、この二人はレストランの支払いをどっちがするか揉めている。次のパートでは、シーンインフルエンサーのヤヤが豪華クルーズ船に招待されている。夢のような豪華客船で、そこには世界的セレブがずらり。もっともロシアのオリガルヒ(新興成金)やイギリスの「平和を守る産業」(兵器産業)をやってる夫婦とか、ロクなもんじゃない。

船内の金持ちたちは下品で横暴で嫌なヤツばかりだが、そういう船を下層労働者が支えている。そして船長招待のディナーになるが、ヨッパライ船長が決めた日は低気圧で嵐がやって来て、船が揺れ始めると画面も揺れて見てる方も気持ち悪い。それなのに変な料理ばかり出て来て、画面ではどんどん気持ち悪い状態になっていく。見たくないけど、豪華クルーズのはずがあっという間に「逆転」である。このドギツイまでの風刺がこの映画の狙いである。そして船は遭難し、海賊が手榴弾を投げ込んで、どうなったのか判らないけど、次のシーンではある島に何人かがたどり着いている。あれま。

島でのサバイバル能力になると金持ちたちはからきしダメで、そこにトイレ掃除担当だったアビゲイル( ドリー・デ・レオン)が登場する。彼女は魚を捕り、火を熾(おこ)す技術があって、あっという間に島での覇権を握ってしまう。この第3のパートこそ風刺喜劇の本領発揮で、笑えるシーンが多いけど、人間性の本質はこんなものかと不快感が募る。それにしても魚獲りぐらい出来ないのか、金持ち男どもは。風刺映画というのは、誇張表現が真骨頂だけど、そこまでやるか的な感想も持つ。
何だか南洋に流れ着いたのかと思うが、特定はされてないけどロケはギリシャだったようだ。コロナ禍でたびたび撮影が中断し、船内の客の中で島のシーンに出て来ない人が多い。遭難して死んだことにしたんだろうけど、要するに撮影がズレて島シーンに参加出来なかったんじゃないかと思う。この映画を取り上げたのは、出来は良かったからである。出来は良いけど、好きではない。船内シーンが気持ち悪いし、風刺もやり過ぎだなと思う展開が続く。
この監督の今までの日本公開作(『フレンチアルプスで起きたこと』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』)と同様に、日本での評価は高くならないと思う。こういうブラックユーモアが苦手な風土である。だけど、こんな方向で物語を作るというやり方もあるということだ。原題は「悲しみの三角形」で、これは両目と額を結ぶ三角形に怒りや悲しみの表情が現れるということらしい。世界的に評価された映画は見ておきたいというコアなアート映画ファン以外にはオススメしないけど、こんな映画もある。