浅草演芸ホール3月上席を通しで聞いてきた。昼夜の「入れ替えなし」という昔の名画座みたいな仕組みだから、その気になれば延々といられるのである。もっとも「入れ替えなし」と言われても、普通は疲れるからしない。今回は夜に「桃組公演」と名付けて、東京の定席寄席で初めて「女性のみ出演」というチャレンジをしている。今まで一回(余一会)だけとか寄席以外ではあったけど、10日間全部というのは初である。ということで、夜を見たかったんだけど、実は昼席のメンバーが豪華すぎて、どうせなら全部見ようかと思ったのである。そして、何とかそれほど疲れずずっと聞いてられたから、自分でも驚いた。
(桃組公演)
全部見ると、11時40分頃から20時40分頃までになる。さすがに長すぎてイヤなんだけど、13時前後に春風亭一之輔と桃月庵白酒が出るので、これは頑張るしかないなあと思った。二つ目昇進の柳家小もん、古今亭菊正にはさまれ、柳家わさび。少し後に一之輔が出て、子どもが父親に小遣いをせびる「真田小僧」。母が男を家に迎えるのを、ところどころで切りながら、お小遣いを貰わないと先は話さないという。何度も聞いてるけど、一之輔に合ってる噺。白酒は「粗忽長屋」。行き倒れを見た八五郎がこれは隣の熊だと言って、今朝会ったから確かだ、今から本人を連れてくるという。これは名作でいろんな人がやってるが、白酒はとぼけていて上手いのである。もうここまでで満足。
(桃月庵白酒)
こうやって全部書いてると長くなるから、後は簡単に。漫才のロケット団は相変わらず快調。その後に早くも柳家さん喬師匠で、夢の内容を言えと迫られる「天狗裁き」。新作の柳家小ゑんは仏像巡り女子の噺でおかしい。林家木久蔵は「勘定板」。春風亭正朝は小僧に浮気夫の後を付けさせる「悋気の独楽」。鈴々舎馬風の昔語りをはさんで、仲入り後に柳家燕弥が泥棒噺の「出来心」。柳家三三が「長屋の花見」で春も近い。こんなに演目を覚えてるはずはなく、今回はいつもはしないメモを取っていた。ここらで疲れて名人五街道雲助はウトウトしてしまった。
(柳家権太楼)
そして昼席トリの柳家権太楼。何回も聞いているお気に入りだが、久しぶり。去年紀伊國屋寄席で聞くつもりが、病気休演(さん喬が代演)だった。その後もコロナになったり、なかなか復帰できず去年暮れも病気で出られなかった。ようやく復帰しているが、体調はしっかり戻ってるらしき熱演だった。でも高齢(76歳)だから、熱演爆笑落語がいつまで聞けるか。逃さず聞いておきたい。今回は何度も聞いてる「代書屋」。履歴書を代書屋に書いてもらう噺だが、今回はトリなのでいつもより長く「賞罰」を書くまでやって場内大笑いだった。展開を知ってても笑える熱演の名作。
少し休憩を取って、今度は夜席が始まる。夜は二つ目が二人出た後の5時に「お楽しみ 余興」とプログラムにある。これが何と漫才の「すず風にゃん子・金魚」のトリビュート漫才だったのでビックリ。落語協会の寄席によく出ている二人組の漫才コンビである。にゃん子がツッコミで、金魚はボケてゴリラの真似をするお約束である。年齢不詳、同じネタながら、ゴリラの物真似はいつも受けてる。今回は春風亭律歌が「にゃん子」、蝶花楼桃花が「金魚」そっくりの扮装で出て来て、そっくり漫才をやる。そう桃花がゴリラのマネをするのである。これはある意味、「女性芸人」の本質を自己批評するとも言える大胆な「余興」で、桃花は偉いなあと感心した。なかなか出来るもんじゃない。体力的にも大変だし、男社会の中で生きる覚悟を示して大受けしていた。
(にゃん子、金魚)
蝶花楼桃花はトリにも出て来て、昔任侠映画の藤純子にハマった話がマクラ。今回桃の節句にちなんで「桃組」と名付けたが、トリを取る自分が「組長」に成りたかったという。そこから、多くの落語家が演じている三遊亭白鳥作「任侠流山動物園」の桃花ヴァージョン。ピンチに陥った流山動物園の動物たちの話で、僕は初めて聞いた。こんな変な噺があるんだと思ったけど、メス象に緋牡丹のアザがあって、桃花が緋牡丹博徒を歌い出す。元の映画「緋牡丹博徒」シリーズを知らないと乗れないかもしれないが、観客の大方は高齢だから知ってる人が多いだろう。実におかしかったし、桃花が顔だけで売れてるわけじゃないことが判る。
落語界で女性が初めて真打に昇進したのは、1993年3月の三遊亭歌る多と古今亭菊千代だった。それぞれ、三遊亭律歌、古今亭駒子という弟子を真打に育てた。今回は師弟そろって出演しているが、菊千代は「ふぐ鍋」、歌る多は「喧嘩長屋」かな。安定してやはり上手。柳亭こみちは「筍」(たけのこ)という隣家の竹がこちらに生えてきた武家の噺。この人は何回か聞いてるけど、すごく上手いと思う。また弁財亭和泉は初めて聞いたけど、非常に面白かった。(演目は失念。)
今回は落語以外の色物もすべて女性芸人。講談の神田茜、宝井琴鶴、曲芸の翁屋小花、音楽パフォーマンスののだゆき、本家のにゃん子・金魚、浮世節の立花家橘之助。橘之助は最近弟子のあまねを連れて舞台に上がっていて、客にも大受けになっている。二つ目の落語家は書かないが、真打は他にもいて交替出演している。通常の興行にも女性落語家は出ているわけだが、男性の大物にはさまれると印象が薄くなる。今回のような公演には、今の段階では価値があるように思った。それを実現出来たのは、トリを桃花が務めるというのが、マスコミ的にも話題になるからだ。平日夜にもかかわらず、9割方埋まっていたから興行的にも大成功だろう。まあ、かなり疲れたけど、大満足の一日だったなあ。
(桃組公演)
全部見ると、11時40分頃から20時40分頃までになる。さすがに長すぎてイヤなんだけど、13時前後に春風亭一之輔と桃月庵白酒が出るので、これは頑張るしかないなあと思った。二つ目昇進の柳家小もん、古今亭菊正にはさまれ、柳家わさび。少し後に一之輔が出て、子どもが父親に小遣いをせびる「真田小僧」。母が男を家に迎えるのを、ところどころで切りながら、お小遣いを貰わないと先は話さないという。何度も聞いてるけど、一之輔に合ってる噺。白酒は「粗忽長屋」。行き倒れを見た八五郎がこれは隣の熊だと言って、今朝会ったから確かだ、今から本人を連れてくるという。これは名作でいろんな人がやってるが、白酒はとぼけていて上手いのである。もうここまでで満足。
(桃月庵白酒)
こうやって全部書いてると長くなるから、後は簡単に。漫才のロケット団は相変わらず快調。その後に早くも柳家さん喬師匠で、夢の内容を言えと迫られる「天狗裁き」。新作の柳家小ゑんは仏像巡り女子の噺でおかしい。林家木久蔵は「勘定板」。春風亭正朝は小僧に浮気夫の後を付けさせる「悋気の独楽」。鈴々舎馬風の昔語りをはさんで、仲入り後に柳家燕弥が泥棒噺の「出来心」。柳家三三が「長屋の花見」で春も近い。こんなに演目を覚えてるはずはなく、今回はいつもはしないメモを取っていた。ここらで疲れて名人五街道雲助はウトウトしてしまった。
(柳家権太楼)
そして昼席トリの柳家権太楼。何回も聞いているお気に入りだが、久しぶり。去年紀伊國屋寄席で聞くつもりが、病気休演(さん喬が代演)だった。その後もコロナになったり、なかなか復帰できず去年暮れも病気で出られなかった。ようやく復帰しているが、体調はしっかり戻ってるらしき熱演だった。でも高齢(76歳)だから、熱演爆笑落語がいつまで聞けるか。逃さず聞いておきたい。今回は何度も聞いてる「代書屋」。履歴書を代書屋に書いてもらう噺だが、今回はトリなのでいつもより長く「賞罰」を書くまでやって場内大笑いだった。展開を知ってても笑える熱演の名作。
少し休憩を取って、今度は夜席が始まる。夜は二つ目が二人出た後の5時に「お楽しみ 余興」とプログラムにある。これが何と漫才の「すず風にゃん子・金魚」のトリビュート漫才だったのでビックリ。落語協会の寄席によく出ている二人組の漫才コンビである。にゃん子がツッコミで、金魚はボケてゴリラの真似をするお約束である。年齢不詳、同じネタながら、ゴリラの物真似はいつも受けてる。今回は春風亭律歌が「にゃん子」、蝶花楼桃花が「金魚」そっくりの扮装で出て来て、そっくり漫才をやる。そう桃花がゴリラのマネをするのである。これはある意味、「女性芸人」の本質を自己批評するとも言える大胆な「余興」で、桃花は偉いなあと感心した。なかなか出来るもんじゃない。体力的にも大変だし、男社会の中で生きる覚悟を示して大受けしていた。
(にゃん子、金魚)
蝶花楼桃花はトリにも出て来て、昔任侠映画の藤純子にハマった話がマクラ。今回桃の節句にちなんで「桃組」と名付けたが、トリを取る自分が「組長」に成りたかったという。そこから、多くの落語家が演じている三遊亭白鳥作「任侠流山動物園」の桃花ヴァージョン。ピンチに陥った流山動物園の動物たちの話で、僕は初めて聞いた。こんな変な噺があるんだと思ったけど、メス象に緋牡丹のアザがあって、桃花が緋牡丹博徒を歌い出す。元の映画「緋牡丹博徒」シリーズを知らないと乗れないかもしれないが、観客の大方は高齢だから知ってる人が多いだろう。実におかしかったし、桃花が顔だけで売れてるわけじゃないことが判る。
落語界で女性が初めて真打に昇進したのは、1993年3月の三遊亭歌る多と古今亭菊千代だった。それぞれ、三遊亭律歌、古今亭駒子という弟子を真打に育てた。今回は師弟そろって出演しているが、菊千代は「ふぐ鍋」、歌る多は「喧嘩長屋」かな。安定してやはり上手。柳亭こみちは「筍」(たけのこ)という隣家の竹がこちらに生えてきた武家の噺。この人は何回か聞いてるけど、すごく上手いと思う。また弁財亭和泉は初めて聞いたけど、非常に面白かった。(演目は失念。)
今回は落語以外の色物もすべて女性芸人。講談の神田茜、宝井琴鶴、曲芸の翁屋小花、音楽パフォーマンスののだゆき、本家のにゃん子・金魚、浮世節の立花家橘之助。橘之助は最近弟子のあまねを連れて舞台に上がっていて、客にも大受けになっている。二つ目の落語家は書かないが、真打は他にもいて交替出演している。通常の興行にも女性落語家は出ているわけだが、男性の大物にはさまれると印象が薄くなる。今回のような公演には、今の段階では価値があるように思った。それを実現出来たのは、トリを桃花が務めるというのが、マスコミ的にも話題になるからだ。平日夜にもかかわらず、9割方埋まっていたから興行的にも大成功だろう。まあ、かなり疲れたけど、大満足の一日だったなあ。