尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

防衛費激増の新年度予算、日本の「防衛」とは何だろうか

2023年03月28日 22時37分51秒 | 政治
 今日(3月28日)、2023年度予算が参議院で可決され成立した。もっとも2月28日に衆議院で可決されていたから、参議院で揉めたとしても憲法60条の規定により、今日予算案は自然成立する。それにしても、従来の予算案以上に問題が多いと思われるのに、こんなにスムーズに成立してしまって良いのだろうか。参議院では「ガーシー議員」問題、あるいは「総務省文書」問題ばかりが記憶に残る。昨秋から低支持率に悩んでいた岸田首相が、ウクライナ訪問など外交で「成果」(または国民からの目くらまし)を挙げたということかもしれない。野党側もウクライナで「大しゃもじ」を贈ったなどの追求に終始した印象が残る。

 新年度予算は、なんと114兆3812億円という巨額である。前年度より7兆8千億円ほども増えている。下の画像で示すように、予算はどんどん増えている。もちろん社会保障関係費も6千億円増額になっているが、それ以上に異常なまでの「防衛費の増額」が目に付く。前年度の 5兆3687億円から、6兆7880億円と1兆4千億ほども増えているのだが、最大の問題はそこではない。「防衛力強化資金(仮称)」というものを創設して、3兆3806億円も防衛費に繰り入れるという。
(年度ごとの予算)
 そのお金は一体どこから出て来るのか。今のところ決まってなく、首相は一時は「増税」とも発言した。統一地方選を前に、増税案は引っ込めた形になっているが、首相の真意は判らない。本心かもしれないし、観測気球かもしれない。僕が推測するのは、「防衛政策の大転換」という本質的問題を隠す意図ではないか。「増税」を首相が口にしたことで、「防衛費増は仕方ないけど、増税はイヤ」という方向に世論が誘導されてしまった。野党も「増税するなら、その前に国民の信を問え」と迫るので精一杯だった。

 誰がどう見ても「敵基地攻撃能力」など憲法違反としか考えようがない。僕はそう思うけど、2015年の安保法制の時のような大反対運動はなかった。「コロナ禍」で大集会やデモが開きにくい。そもそも法律の改正を必要とせず、政府の方針転換だったということも反対運動が難しくした。僕にしても、成立してから批判を書くのではなく、その前に論陣を張るべきだと言われるかもしれない。だが「予算案の成立阻止」(または「予算案の組み替え」)は基本的に無理な方針だと思う。よほどの大問題が起きれば、予算案の年度内成立が難しくなり、臨時予算の編成に追い込まれることはある。それでも最終的には原案が成立するものだろう。
(敵地攻撃能力のイメージ)
 それとも国民がワールドカップやWBCに浮かれていて、何となく政府の言うとおりに流されているのか。いや、そんなことはないだろう。防衛費増額方針に対する世論調査の結果を見れば、賛否半々、むしろ反対が多い。(NHKの2月調査では、賛成40%、反対40%。読売新聞の1月調査では、賛成43%、反対49%。東京新聞(共同通信)は、防衛費増のための増税のみしか質問がない。朝日新聞、毎日新聞は過去の結果はデジタル会員しか見られない。)この間の世論調査を振り返ると、物価高対策、同性婚の是非などが大きく扱われている。防衛費増額問題は国民の関心を呼んでいなかった。

 それは基本的には、岸田首相の「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」(防衛大卒業式での訓示=3月26日)という認識を国民も一定程度共有しているということだと思う。僕も中国やロシア、「北朝鮮」の人権状況には大きな危惧を持っているが、だから今すぐ戦争の危機が迫っているという認識はどうなんだろうか。それもあるけど、そもそも「防衛費増額」とは、要するに戦闘機やミサイルを整備することだという岸田首相の身も蓋もない方針をどう考えればいいのか。憲法問題はさておき、自衛隊の身の丈を越えた装備としか僕には思えない。

 アメリカから兵器を買うこと、それが「いざという時」の日米安保条約発動の担保となるという認識だろうか。自衛隊を増強し、敵基地攻撃能力を持ったからと言って、僕もそれだけで日本が「軍国主義」化して、今しも侵略戦争を始めるだろうなどとは思わない。そんなことはアメリカが許さない。要するに日本はアメリカの下請けしか出来ないし、求められない。それがリアルな認識だろう。周辺アジア諸国に一定程度あるような「日米安保条約ビンのふた論」を日本国民も心の底で持っているのではないか。
(日本の食料自給率)(日本のエネルギー自給率)
 僕はそれより「日本防衛」とは何だろうかと思う。上記画像で判るように、日本は食料自給率エネルギー自給率も極端に低い。中国との貿易が断たれたり、東アジアの貿易航路の安定が失われた場合、日本在住者の生活は破滅に追い込まれる。間違いなく、大変なことになる。日本周辺で戦争が起きる事態は何が何でも止めないといけない。もちろん戦争は人命が失われるし、究極的な人権侵害である。今出来ることは、「もし攻撃されたら」などと仮定する前に、再生可能エネルギーの開発、食料自給・農業の再生に力を注ぐことこそ、「日本の防衛」と言えるんじゃないだろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする