尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「ガーシー議員」除名問題、選挙と議会の本質を考える

2023年03月19日 23時16分42秒 | 政治
 参議院の「ガーシー(東谷義和)」議員が、ついに3月15日に除名となった。この問題については、1月27日に『「ガーシー」議員問題、どう考えるべきかー政党助成金削減も必要』を書いた。その時点では「欠席続きなのに文書通信交通滞在費などを受給して良いのか」、さらに「NHK党」は国会議員2人を擁する政党として助成金が支給されているのもおかしいと書いた。ガーシー議員の欠席の是非も大事だが、税金の使途という問題もあるという指摘である。
(除名を決定)
 今回はこの問題を選挙や議会の本質を考えるケーススタディとして書いてみたい。案外トンチンカンな議論を展開している人がいるから、ちゃんと考えておきたい。なお、「NHK党」は立花党首が辞任して、名前も「政治家女子48党」に変更したという。議員に男性しかいないのに、この名前もふざけた話だなと思う。ガーシー議員も本会議で除名が決定した時点で「前議員」だが、面倒なので「旧N党」「ガーシー議員」と表記したい。

 僕は今回の除名処分を「やむを得ない」ものと考えているが、中には「少数意見の排除につながる」という人もいるようだ。理解出来ない考え方である。国会に2議席を有する少数政党で、一人が海外にいて帰国せず欠席を続けている。少数意見を表明する権限を持ちながら、国会で採決に加わらない。自ら意見を表明しない人の除名で、「少数意見の排除」というのは理解不能である。今後繰り上げ当選になる新議員が出席すれば、「旧N党」は参議院で2倍の勢力を持つことになる。少数意見の排除どころか、少数意見表明の機会を保障する措置ではないか。

 国会を欠席し続けて除名になったという経緯から、「不登校の生徒を退学させて良いのか」などと言う意見もかつて見た。話は逆だろうと思う。国会議員は生徒ではなく、教員側のはずだ。立法権を持ち、国民のリーダーたる人々である。だから学校のたとえで言うならば、教師が一度も出勤せずに「授業はオンラインで出来るだろ」とか言ってるケースにあたる。職員会議を開くから出勤せよと職務命令を受けたのに、相変わらず欠勤続き。そこで無断欠勤で懲戒免職になったわけである。

 国会議員には自ら立候補して当選しなければなれない。当選出来たら、国会は仕事場である。理由なき欠勤はまずいだろうというのは、誰しもが理解出来るはずだ。「不当逮捕の恐れ」というのは理由にならない。国会議員には、会期中の不逮捕特権がある。(憲法50条。「両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。」)従って、「不当逮捕」される恐れはないと考えるのが常識だ。

 ところで、ガーシー議員はこの除名に関して、自分に投票してくれた「28万7714人」に詫びろなどと訳の判らないことを言っていた。これは全くの理解不足としか言いようがない。そもそも「28万強」の得票では当選出来ない。この票は「旧N党」の候補者リストで第1位になったという意味しかない。「政党名での得票」が80万票以上あったのである。「ガーシー」と個人名を書いた人の3倍近い。他の候補者の個人名得票と合計して、「旧N党」の得票は125万3875票。ガーシー氏の得票は全体の23%ほどしかない。政党名で投票した人のことを何にも考えていないのは、どういうことか。自分に対する期待より、所属政党へ期待した人の方が遙かに多かったのである。その期待に背いた責任を感じないのだろうか。

 さらに言えば、こっちの方が重要なのだが、そもそも国会議員は自分に投票してくれた人の代表ではない。衆議院の小選挙区を「世襲」する議員が多くなって、何か国会議員は自分の支持者だけ考える存在にように皆が思っている。だがそれでは議会制民主主義は立ち行かない。これは何度も書いているけど、「沖縄の問題を沖縄選出以外の議員が決めて良いのは何故か」という問題である。沖縄の問題を沖縄選出議員だけで決められるんだったら、辺野古埋め立ては不可になるだろう。しかし、国会議員は「全国民の代表」とされるので、国のあらゆる課題を多数決で決する権限がある。(だから辺野古移転が正しいという意味ではない。)

 本当にそういう思いで活動している議員が何人いるかは疑問だ。今の考え方は「民主主義の建前」である。だがこの建前を否定したら議会制民主主義は成り立たない。だからガーシー議員だって、当選した時点で「全国民の代表」なのである。だから詫びるなら全国民に詫びて欲しい。そのことが書きたかったのだが、これは多分他の議員にも言うべきことだろう。本当は立候補以前に「研修」がいるんじゃないかと思う。誰でも立候補して良いけど、民主主義のルールや歴史認識、科学的常識などの最低レベルは身に付けている人しか国会議員になってはいけない。

 ところで、国会議員を除名されて「ただの人」になった途端、逮捕状が請求されたとの話である。告発された以上、何らかの取り調べは不可欠である。名誉毀損は親告罪なんだから、不逮捕特権のある間に帰国して、相手方と和解すれば刑事事件化されない可能性もあっただろう。小さな交通違反であっても、呼び出しに何度も応じなければ逮捕されることもある。そんなことは誰でも知ってる常識だ。逮捕状から「旅券返納命令」になって、逃亡を続けるしかない人生になるのだろうか。容疑が「暴力行為等処罰法違反(常習的脅迫)」にアップした以上は、今さらどうにもならないだろう。
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