中国で年一回開かれる全人代(全国人民代表者大会)が3月上旬に開かれ、習近平主席が異例の3期目に満票(2952票)で選出された。それに合わせたかのように、中国の外交活動が活発化している。その代表的な「成果」が10日に明らかとなった、サウジアラビアとイランの国交回復を中国が仲介したという報道だ。中東でアメリカの威信が失墜しつつある象徴的な出来事かもしれない。サウジアラビアは世界最後の権威的王政国家だから、人権問題にシビアなアメリカは煙たいに違いない。
今は中東問題は置いて、中国とロシアの関係に絞って考えてみたい。中国はウクライナ戦争に関して本格的な発言はしてこなかったが、開戦1年を機に2月24日に和平案を発表した。そして、全人代終了後の3月20日に習近平主席がロシアを公式訪問して、プーチン大統領と会談し共同声明を発表した。中国の和平提案に関しては、それを評価する声も一部にあるが、疑問を持つ人の方が多いだろう。イラン、サウジの仲介に際しては、両者を北京に招いている。ウクライナ戦争に関しても、もし本気で和平を仲介するつもりなら、ロシアだけでなくウクライナも訪問する必要がある。しかし、それとは逆にプーチンを中国に招待している。現状では中国の意図に疑問を持つのも当然だ。
(習近平、プーチン会談)
習主席のロシア訪問はちょうど岸田首相のウクライナ訪問と被っていたが、その時発表された中ロ共同声明の主な内容は以下のようなもの。
●ウクライナ問題について双方は、国連憲章の目的と原則は遵守されなければならず、国際法も尊重されなければならないとした。
●ロシア側は、ウクライナ問題に対する中国の客観的かつ公正な立場を積極的に評価する。
●双方は、いかなる国家または国家グループが、軍事、政治およびその他の利益を追求するために、他国の正当な安全保障上の利益を損なうことに反対する。
●双方は、ウクライナ危機を解決するために、すべての国の正当な安全保障上の懸念を尊重しなければならず、陣営間の対立形成や火に油を注ぐようなことを防止しなければならないと指摘した。双方は、責任ある対話こそが、問題を着実に解決する最善の方法であると強調した。
●双方は、国連安全保障理事会によって承認されていない、いかなる一方的な制裁にも反対する。
(中ロ共同声明)
言葉はもっともらしいが、国連憲章や国際法を持ち出すなら、ロシア軍の撤退を打ち出さない限り信用されない。それはそもそもの12ヶ条に及ぶ和平提案にも言えることである。「ウクライナ危機への政治的解決のための中国の立場」と題された文書は以下のようなものである。細かくなるが全項目挙げておきたい。
(1)国家の主権を尊重:一般に認められている国際法と国連憲章は「厳密に」遵守されなければならない。
(2)冷戦の考え方を放棄、自国の安全のために他国を犠牲にしてはならない。
(3)敵対行為をやめる:全ての当事者は「合理性を保ち、自制を保ち」、紛争を煽ってはならない。
(4)和平交渉の再開:対話と交渉がウクライナ危機に対する唯一の実行可能な解決策だ。
(5)人道危機の解決:人道危機の緩和に貢献する全ての行動は「奨励され、支援されなければならない」
(6)民間人と戦争捕虜の保護:全ての紛争当事者は、国際法を遵守し、民間人や民間インフラへの攻撃を回避する必要がある。
(7)原子力発電所の安全確保:原子力発電所への武力攻撃を拒否する。
(8)戦略的リスクの軽減:核兵器は使用されるべきではなく、核戦争は行われるべきではない。
(9)穀物輸出の促進:全ての当事者は黒海穀物協定を実施する必要がある。
(10)一方的な制裁を止める:一方的な制裁と圧力は問題を解決できず、新しい問題を生み出すだけだ。
(11)サプライチェーンの安定化:全ての関係者は、既存の世界貿易システムを維持し、世界経済を政治目的の武器に使用してはならない。
(12)復興計画:国際社会は、影響を受けた地域で紛争後の復興を実施するための措置を講じるべきだ。
(中国の和平提案)
復興計画まで書かれている、なかなか周到な提案である。原発の安全確保、穀物輸出の促進など、忘れられがちながら重大な問題も扱われている。しかし、この提案の鍵となるのは「国家主権の尊重」と「一方的制裁の拒否」だろう。共同声明では「核心的利益を互いに支持する」とされている。中国の「核心的利益」は台湾問題だから、これでは中国はロシアのウクライナ侵攻を支持し、ロシアは中国の台湾侵攻を支持する「相互同盟」ではないかと疑念を持たれてもやむを得ないのでないか。
本気で和平を望むなら、ウクライナが和平会談に参加出来るような提案をしなければならない。そのためにはプーチン大統領の譲歩を求めなければおかしい。それが出来るのは中国だけなのだから、そこまで踏み切らないと信用されない。中国は「主権尊重」を強調するが、それだけで良いのだろうか。「主権」の名の下に、中国はミャンマーの軍事政権を非難しない。中国はウィグル問題、チベット問題などを「主権」の問題として、外国からの批判を受け入れない。この和平提案による限り、中国内部の人権問題の改善につながる論理が出て来ない。
やっぱり中国は自国の独裁体制維持が最優先だから、ロシアの現体制が急激に崩壊し「モスクワの春」が実現するのを阻止したいのではないか。長い国境線を抱える中ロ間で、ロシアが真の民主国家となった場合、中国への影響は計り知れない。中国は「国連憲章」は言及するけれど、その後の国際人権法の進展を無視している。本当は国連憲章と並んで「国際人権規約」の尊重を言うべきだと思う。中国も批准しているわけなんだから。もっともそれを持ち出せば、アメリカや日本も不都合な問題がある。しかし、「主権」にとらわれている限り、21世紀のリーダーにはなれない。
今は中東問題は置いて、中国とロシアの関係に絞って考えてみたい。中国はウクライナ戦争に関して本格的な発言はしてこなかったが、開戦1年を機に2月24日に和平案を発表した。そして、全人代終了後の3月20日に習近平主席がロシアを公式訪問して、プーチン大統領と会談し共同声明を発表した。中国の和平提案に関しては、それを評価する声も一部にあるが、疑問を持つ人の方が多いだろう。イラン、サウジの仲介に際しては、両者を北京に招いている。ウクライナ戦争に関しても、もし本気で和平を仲介するつもりなら、ロシアだけでなくウクライナも訪問する必要がある。しかし、それとは逆にプーチンを中国に招待している。現状では中国の意図に疑問を持つのも当然だ。

習主席のロシア訪問はちょうど岸田首相のウクライナ訪問と被っていたが、その時発表された中ロ共同声明の主な内容は以下のようなもの。
●ウクライナ問題について双方は、国連憲章の目的と原則は遵守されなければならず、国際法も尊重されなければならないとした。
●ロシア側は、ウクライナ問題に対する中国の客観的かつ公正な立場を積極的に評価する。
●双方は、いかなる国家または国家グループが、軍事、政治およびその他の利益を追求するために、他国の正当な安全保障上の利益を損なうことに反対する。
●双方は、ウクライナ危機を解決するために、すべての国の正当な安全保障上の懸念を尊重しなければならず、陣営間の対立形成や火に油を注ぐようなことを防止しなければならないと指摘した。双方は、責任ある対話こそが、問題を着実に解決する最善の方法であると強調した。
●双方は、国連安全保障理事会によって承認されていない、いかなる一方的な制裁にも反対する。

言葉はもっともらしいが、国連憲章や国際法を持ち出すなら、ロシア軍の撤退を打ち出さない限り信用されない。それはそもそもの12ヶ条に及ぶ和平提案にも言えることである。「ウクライナ危機への政治的解決のための中国の立場」と題された文書は以下のようなものである。細かくなるが全項目挙げておきたい。
(1)国家の主権を尊重:一般に認められている国際法と国連憲章は「厳密に」遵守されなければならない。
(2)冷戦の考え方を放棄、自国の安全のために他国を犠牲にしてはならない。
(3)敵対行為をやめる:全ての当事者は「合理性を保ち、自制を保ち」、紛争を煽ってはならない。
(4)和平交渉の再開:対話と交渉がウクライナ危機に対する唯一の実行可能な解決策だ。
(5)人道危機の解決:人道危機の緩和に貢献する全ての行動は「奨励され、支援されなければならない」
(6)民間人と戦争捕虜の保護:全ての紛争当事者は、国際法を遵守し、民間人や民間インフラへの攻撃を回避する必要がある。
(7)原子力発電所の安全確保:原子力発電所への武力攻撃を拒否する。
(8)戦略的リスクの軽減:核兵器は使用されるべきではなく、核戦争は行われるべきではない。
(9)穀物輸出の促進:全ての当事者は黒海穀物協定を実施する必要がある。
(10)一方的な制裁を止める:一方的な制裁と圧力は問題を解決できず、新しい問題を生み出すだけだ。
(11)サプライチェーンの安定化:全ての関係者は、既存の世界貿易システムを維持し、世界経済を政治目的の武器に使用してはならない。
(12)復興計画:国際社会は、影響を受けた地域で紛争後の復興を実施するための措置を講じるべきだ。

復興計画まで書かれている、なかなか周到な提案である。原発の安全確保、穀物輸出の促進など、忘れられがちながら重大な問題も扱われている。しかし、この提案の鍵となるのは「国家主権の尊重」と「一方的制裁の拒否」だろう。共同声明では「核心的利益を互いに支持する」とされている。中国の「核心的利益」は台湾問題だから、これでは中国はロシアのウクライナ侵攻を支持し、ロシアは中国の台湾侵攻を支持する「相互同盟」ではないかと疑念を持たれてもやむを得ないのでないか。
本気で和平を望むなら、ウクライナが和平会談に参加出来るような提案をしなければならない。そのためにはプーチン大統領の譲歩を求めなければおかしい。それが出来るのは中国だけなのだから、そこまで踏み切らないと信用されない。中国は「主権尊重」を強調するが、それだけで良いのだろうか。「主権」の名の下に、中国はミャンマーの軍事政権を非難しない。中国はウィグル問題、チベット問題などを「主権」の問題として、外国からの批判を受け入れない。この和平提案による限り、中国内部の人権問題の改善につながる論理が出て来ない。
やっぱり中国は自国の独裁体制維持が最優先だから、ロシアの現体制が急激に崩壊し「モスクワの春」が実現するのを阻止したいのではないか。長い国境線を抱える中ロ間で、ロシアが真の民主国家となった場合、中国への影響は計り知れない。中国は「国連憲章」は言及するけれど、その後の国際人権法の進展を無視している。本当は国連憲章と並んで「国際人権規約」の尊重を言うべきだと思う。中国も批准しているわけなんだから。もっともそれを持ち出せば、アメリカや日本も不都合な問題がある。しかし、「主権」にとらわれている限り、21世紀のリーダーにはなれない。