なんでもないことのようだが、悪役を設定してそれをヒーローをやっつけるのをクライマックスにする、というボンド映画にとどまらない、ヒーローものの黄金の定石を破っている。
現代では悪役を設定すること自体が難しくなっているというよりムリになっているのを率直に反映して、悪者をやっつけるから正義のヒーローで、ヒーローだから美女が寄っているという論理の組み立てすら破棄されている。
描かれているアイテム自体はいつもとそれほど違わないが、組み立て方を変えたことで、主役を代えたという以上に、ちょっと驚くくらい本質的なリセットになった。
ダニエル・クレイグは「Jの悲劇」を見たあたりで次のジェームズ・ボンドと聞いて、悪役顔じゃないのと訝しく思ったが、ボンドのやっていることは大勢を殺すことで悪者といえば悪者に決まっているのだ。なんとなく「ロシアより愛をこめて」の殺し屋ロバート・ショーとか、最初の頃ボンド役の候補になったというパトリック・マクグーハンに顔だちや酷薄な雰囲気は近い。
タイトル・バックでもばたばた人を殺していたし。
筋肉の壁という感じの肉体美も凄い。
こうなると、ボンドが初めからかなりの程度女を平気で盾にしたりしている場面が多いのに気づく。女をやたらとっかえひっかえするのはモテるからというより、死ぬのが多いせいではないか。
(☆☆☆★★)