1968年 監督トニー・リチャードソン、出演デビッド・ヘミングス、トレバー・ハワード、ジョン・ギールグッド、ハリー・アンドリュース、バネッサ・レッドグレーブ 撮影デビッド・ワトキン 音楽ジョン・アディスン
最初見たのはずいぶん前のテレビの土曜午後の一時間半枠で、正味70分強の枠に131分の映画を詰め込んだものだから主演女優のバネッサ・レッドグレーブが冒頭に顔を出しただけであとまったく出てこないというおそろしく乱暴なカット版だったが、よくわからないなりに面白く見た。
全長版を見ても印象そのものは意外と変わらない。スジと関係ない騎兵の訓練風景などの基礎描写が多いせいもある。騎兵と馬の訓練をこれだけ細かく見せる映画も珍しい。
それからしばらくして黒澤明が絶賛しているのを知って、なんとなく嬉しくなった。
今見ると、隊列の後進の様式美や、クライマックスの騎兵の突撃と砲火を浴びて全滅するクライマックスの場面の撮り方が「影武者」によく似ている(「影武者」の方が後です、為念)。
イギリス軍はユニオン・ジャックをあしらった赤と青の華美な軍服で左から右に突撃し、ロシア軍は灰色で右から左に砲撃するという色分けと構成がきっちりしている。
ただし、日本の興行はパンテオン・ミラノ座系という戦艦クラスの劇場チェーンだったが、二週間で打ち切りという不入り。
黒澤が見ていた前の席で、ポスターがラブロマンス風だから間違えて来たらしいオバサン客が「つまらない」「何これ」とやたら騒ぐものだから、「うるせえっ」と怒ったという。
コケたというのも無理がないところがあって、とにかくここには感情移入できるキャラクターがまったくいない。軍上層部・上流階級の連中のバカで無責任で縄張り意識ばかり強いこと、大戦末期の大日本帝国の軍部そこのけなのはもちろん、デビッド・ヘミングスの一応まともに見える大尉も友人の妻とデキているし、その最期の突っ放し方はすごい。
こういう将軍とか参謀とかいったお偉方をとことんおちょくるのは一種イギリスのお家芸で、日本映画ではなかなかここまでいかず、変にもったいがついてしまう。
旧「ピンク・パンサー」シリーズのタイトルで有名なリチャード・ウィリアムズの政治風刺マンガを動かしたようなアニメーションがところどころに挟まれるのがすこぶる効果的で、実写でもお偉方は徹底してカリカチュア風に、一方コレラで兵隊がばたばた死ぬ場面などどきっとするくらい生々しいリアリズムで描かれていて、それでいて総体としてはまとまっている幅が、単なる物量スペクタクル以上のスケール感につながっている。
(☆☆☆★★)