ダイアン・アーバスの名前はスーザン・ソンタグの「写真論」
で見たことがある程度で、身近にいる特殊な人間の写真ばかり撮っていた人だということくらいしか知らなかったが、役の選び方に才覚を見せるニコール・キッドマンがやると聞いて期待していた。
ロバート・ダウニー・Jrの多毛症の男は、どうも昔の(「ハウリング」前の)狼男みたいだなあと思っていると、Diane Arbusのダイアンという名前が初めのうちディアナと呼ばれているが、これギリシャ神話の月の女神の名前だと気づいた。
男はいわば狼男が月の光に照らされて変身するように、ヒロインに照らされて隠されていた姿を現した、ということなのだろう。初めのうち、何かを通して覗き見るようなカメラアングルを多用しているのも、隠されたものに迫っていく展開をわかりやすく示している。
室内になぜか小さなプールがあったり水も多用され、ラスト男が海に出て行くのも、一見貞淑な妻に見えたダイアンの隠されていた女性性が顕れていくのとシンクロしている。
凡庸な商業写真家の旦那が妻が、異世界に入っていくに従って自分もヒゲを生やしていくのが、なんだか可笑しい。
多毛症男は「スター・ウォーズ」のチューバッカにも似ているが、考えてみるとSWサーガは異形の者たちをずらっと揃えて見せる見世物的な感覚をオブラートにくるんでいたのではないか。
全裸の男の性器を正面から日本の一般の映画館のスクリーンで見るのは、初めての気がする。
あと、昔の「フリークス」に登場したような異形の者たちがぞろぞろ現れるのに一驚した。どこまで本物なのか、今の映像技術からしてよくわからないが、彼らがぞろぞろ天井裏から現れる光景は本物のフリークたちを大挙出演させたというホラー映画「センチネル」のクライマックスを思わせた。
プロダクション・デザイン(Amy Danger)が素晴らしく、そのまま現代美術として見られるくらい。
ヌードキャンプを歩く場面、本当はキッドマンがヌードにならないといけないところだが、なんでもアウトドアではどこからパパラッチに狙われるかわからないので吹き替えを使ったとのこと。
(☆☆☆★★)