バーホーベンらしいヒロインが汚物をぶっかけられるグロテスク、マシンガンの撃ち合いはもちろん、変わったところでは棺桶やインシュリンを使った数々の残酷描写も豊富だが、物語の背景とぴったり一体になっていてそれだけ見せ物として浮いておらずアメリカ時代の映画より厚みがある。
ナチスはもちろん、レジスタンスもオランダの一般市民も、どいつもこいつも楽しくなるくらいのろくでなし揃い。立場が強くなるとすぐ人の足元を見る、自分だけいい思いをしようとする、都合が悪くなるとすぐ逃げる。ヒロインも例外とはいえない。その立場が戦況に応じてころころ変わるので、全体の展開とすると裏切りに次ぐ裏切りになり、波乱万丈でまったく飽きさせない。
戦争が悪いというより、人間の本性は性悪で、戦争の時はそれが露骨に現れるだけ、と身も蓋もなく言ってしまっている。
ナチスとしてはまともな将校が死刑判決を受け、ドイツ降伏後もその判決が生きていて刑が執行される、というあたり、事柄はまったく違うが、日本兵のシベリア抑留でも日本が降伏したにもかかわらず将校と兵卒の陰険な上下関係は温存されていたという史実を思い出した。そうしないと「秩序」が保てないというからだろうが、勝とうが負けようがしわ寄せは「下」に来ることに変わりはない。
イスラエルのキブツで家族と平和に暮らしているヒロインのところに爆音が聞こえてくるラストは、まったく度し難い人間の愚かさを示唆して身も蓋もない。
(☆☆☆★★)