prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」

2008年01月14日 | 映画
同じ下山事件を取り上げて同じ菊島隆三がシナリオを書き同じように新聞記者を主人公にした「黒い潮」では自殺説を採っていたが、こっちでは他殺説に立っている。それでどちらにしてももやもやした陰謀説的なものが残るのまで同じというのは妙な気もするが、いずれにせよ何らかの隠蔽工作が行われたのは確かみたい。
その「隠された」割り切れなさ、気味の悪さが不安をかきたてるという形のサスペンスを持つ。

実際のところ、「真相」を知っている者がいる、あるいはいたのかどうか、知っているつもりでいる者も事件の全体像を把握しているのかどうか、また事件が日本の戦後に与えた影響について完全に計算が立っていたのかどうか、かなり疑問。
そんなに計算通り世の中が動くのだったら、逆に政治家いらないよという気になる。

とはいえ、ものすごい手のかかった戦後風俗の再現(美術・木村威夫)、白黒画面の効果を生かした撮影(中尾駿一郎)の上に、熊井啓演出はリアリズムを通しながらところどころ表現主義的なイメージを打ち出してくる。
そういうイメージはルミノール反応を起こして光る血痕、米軍のヘリから突き落とされた井川比佐志の証人を飲み込む黒い海、など、のちの「ひかりごけ」や「海と毒薬」など他の熊井作品と共通していて、事実というより作者の中から生み出された感が強い。

仲代の部下役で役所広司が出ているみたい(写真右)。あんまり若いのと役が小さいのとで、確信が持てないが。
(☆☆☆★)


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goo映画 - 日本の熱い日々 謀殺・下山事件

「奇跡」

2008年01月14日 | 映画

キリスト教内部の宗派同士の争いや奇跡の到来など、クリスチャンでない人間には関係なさそうな内容なのに、不思議なくらい引き込まれ感動する。

次男・ヨハネスは自分をキリストだと思っている間は少し首を曲げているのだが、正気に返るとその歪みが直っている。ところで、隣人の仕立て屋のところに集まってくる信者仲間たちをずうっと横移動で押えたショットでは信者たちのポーズがやはり少しづつ歪んでいる。それぞれ別のポーズをとっている信者たちの構図は宗教画ではおなじみだが、明らかにそれを思わせる。

ヨハネスはかなりのシーンで細い枝のような棒を手にしているのだが、日本の能でも物狂いの役が狂い笹という笹の枝を持つ。物狂いは気が狂っているのではなく、大切な人を亡くして激しい悲しみに取り憑かれている、その情念の宿る依り代の代表が笹なのだという。
ドライヤーが能を知っていたとは思えないが、実はカイ・ムンクの原作戯曲ではヨハネスが発狂した原因は恋人が自分の代わりに交通事故で死んだからだったという設定だったと記憶している。それを映画では単なる神学の勉強のしすぎということにしているのが、微妙にずれたシンクロニシティという感じでなんともいえず面白い。
(☆☆☆☆)