prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「不撓不屈」

2009年03月23日 | 映画

飯塚事件という実際の出来事をもとにした高杉良の原作を、日本映画としては珍しく実名で映画化したもの。税理士を主人公にした映画というのも珍しい。

税金の申告での法律解釈論争で飯塚に負けた税務官僚がそれを「恥をかかされた」と恨みに思い、地位を利用していやがらせで脱税を認めろと責め立てる。理不尽だろうがなんだろうが権力に目をつけられたら百年目、逆らったらますますメンツをつぶされたとむきになり税務署のみならず検察まで一丸になって弾圧してきて、顧客も従業員もどんどん逃げていく前半は、星新一の「人民は弱し官吏は強し」を思わせて、国家権力のいやらしさと恐ろしさをまざまざと感じさせる。

あくまで理不尽な圧力に屈しない主人公を支えるのが家族や恩師というのはわかるが、禅師というのはややピンとこない。勝訴したあと、禅の教えに従って賠償金をとらないのは立派といえば立派だが、官吏の横暴に釘をさすという意味でやるべきだったと思う。

社会党の代議士が味方について国会で取り上げて国税局長官をとっちめるあたりは、官吏が強いといっても国会議員の方がもっと強いのだな、と思わせる。これが国民の代表が「官」を抑える図としていつも機能するのだったらいいのだけれど。ちょっとだけ出る、やはり味方につく自民党の一年生代議士が渡辺美智雄というのにびっくり。元税理士で主人公のことを知っていたからだという。映画には出てこないが、これで党に処分を受けそうになったらしい。

竹山洋の脚本・森川時久の演出は、前半を弾圧、後半を支援者たちの一種の人情劇にして、楷書体でメリハリをつけて飽きさせない。
松坂慶子の奥さんがダンナに「美意識のない女」とひどい言われようをしているのだが、戦いに勝ったてころでお祝いにバラの花をあしらった月桂冠を贈るのは、確かにかなりひどいセンス。気持ちは伝わるからいいのだが。
(☆☆☆★)