prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「鍵泥棒のメソッド」

2012年09月30日 | 映画
オープニング、広末涼子がいきなり相手も決まっていないのに結婚しますと宣言して、そこに至るまでのスケジュールを決めてしまうというつかみで、逆に初めから自分を決め付けてしまいなかなか恋愛できない性格というモチーフを示す。

小野武彦扮する父親が自分の葬式での挨拶をあらかじめ録画しており、あまつさえ三回忌以降の分まで用意していて、その中で娘が結婚しているという前提で話をしているのが、やたら用意がいい性格が娘に遺伝しているのと娘に対する愛情とを、ツイストの効いた小技で表現した。

香川照之の殺し屋がおそろしく几帳面なわりに犯行にズサンなところがあるな、と思っていると説明がつくようになっている。ただ説明はついてもやはりズサンには違いない。
記憶を失って、自分のことをノートに書き出し整理して理解の一助にしようとするのは、ほとんど精神医学の認知療法のよう。デジタルデバイスを使わないでノートに手書きというところがいい。ものすごく几帳面で整理された字がきれいなノートなのが、堺雅人扮する売れない役者の汚い字と好対照。

堺雅人が手元に置いている演技についての本で、わざとか表紙が見えないようになっているがマイケル・ケイン著 矢崎滋訳の「映画の演技」がある。堺雅人扮する役は役者としてスタニスラフスキー=ストラスバーグのメソッド演技理論を信奉しているらしいが(この映画のタイトルもそこから来ていると思われる)、やっている芝居は理論とは別物に思える。

借金を返しに行った女の子が片付け物をしていて、写真を返すというからどこから出すかと思ったら手に持っていたゴミ袋、というあたりに、二人がどういう関係なのか一瞬にわからせる。この写真がまた後につながってくるといった具合にすごく細かいのだが、細かすぎて伏線がびしっと決まった快感がかえって薄れている気がする。

広末が結婚相手の候補の写真を見て行って「ありです」「これもありです」と片端からやたら安直にOKを出し、「ぎりぎりありです」と言った相手が「私の夫です」と怒られるなどの小技の方が冴えている。

敵役がヤクザというのは、どうもウソっぽい。
胸がときめくのを、車の警報音で表現している才気。
(☆☆☆★★)

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鍵泥棒のメソッド - goo 映画

「ペンダント」(見てはいけない怖い話)

2012年09月30日 | シノプシス
「ペンダント」
小暮 宏

大山信也 22
長妻節子 22
武村有紀 18
古道具屋
アパートの隣人

武村有紀が手にペンダントを持って走っている。交通事故の音。
ペンダントが宙を飛び、物陰に落ちる。
地面に倒れた有紀の血にまみれた手が何かを求めるように伸ばされ、やがて力尽きて落ちる。パトカーと救急車のサイレンの音。

物陰に落ちたペンダントを、誰かが拾っていく。

大山信也は、長妻節子と同棲中。
ある時、一人で古道具屋をひやかしていたところ、ひとつのペンダント(冒頭のと同じもの)が目にとまる。じっと見ていると、その金属性の表面に誰かが写ったような気がするが、まわりには誰もいない。見ているとウインクするように光ったので、信也は何か気になって、値段も手頃だったので節子のみやげに買った。しかし見せられた微妙に節子は難色を示す。
普通だったら女性がかけるようなデザインで、気に入らなかったら自分が引き取るからと信也は主張して、とりあえずプレゼントする。このところちょっと喧嘩気味でご機嫌をとるつもりもあったのだが、逆効果になるかもしれない。
とりあえずそのペンダントは節子がかけていたのだが、その時から不思議な現象が身近に起こるようになる。節子の目から見てもペンダントにいないはずの女の姿が写ったり、窓の外に青ざめた女の顔が見えたり。
挙句に、ペンダントをしていると、妙に首が絞まるようになる。チェーンがきついのかと思うが、そんなことはない。またかけ直すと、今度ははっきり首を絞められて跡が残る。
怯えた節子は、ペンダントを放り出す。話を聞いた信也は、そんなことがあるものか金属アレルギーなんじゃないかと自分がしてみる。今度は首を絞められるようなことはなく、ほら見ろと信也は自分が使うことにする。
しかし、そのうち信也にも女の声が聞こえたり、鏡の中に女が姿を現したり、不思議な出来事が起きるようになる。
ただし話し合ってみると、現れたのが同じ女だったとして、信也と節子とではかなり持つ印象が違う。信也にはどこか悲しげに見えたが、節子には恐ろしげに見えた。それはあなたがその女に変な感情を持っているからだと節子はむくれ、とにかくペンダントは買った店に返してきてくれと言う。

やむなく、信也はペンダントを返しに行き、返品はお断りですという古道具屋と押し問答の末、金は返さなくていいからとやっと引き取ってもらう。ついでに、どこから仕入れたものか聞くが、近くにある家で誰か亡くなった時の遺品をまとめて引き取ったものだからわからないという答えが返ってくる。
やれやれと信也は部屋に戻ってくる。節子は留守だ。洗面台で水を飲む信也の背後で床に何かが落ちる。振り向くと、返してきたはずのペンダントがそこにあった。間違いなく返してきたのと同じ品だ。
こんなのを節子に見つかったら騒ぎになると直感した信也は、ペンダントをあわててしまいこむ。そして洗面台の鏡に向き直ると、今度ははっきりと女の姿が見える。ただ、敵意や恨みはあまり感じられず、鏡の中の女は恋人にやるように信也にそっと肩を寄せている。「おまえは何が言いたいんだ」
女はどこかに消えた。
その夜、寝ている信也がうなされている。枕元にあの女が座っているような気がする。信也の夢に再び古道具屋が現れる。信也の目が見ているのか、それとも女の目で見ている像なのか、そのまま夢の中で視覚の持ち主が歩き、見たことのないアパートにたどりつく。そこで信也は目が覚めた。
信也はペンダントを持って古道具屋の近くに来て、夢の中で見たルートを辿ると、来たはずがないのに夢で見たアパートの近くに着く。と、その一室の窓の中にあの女がいたと思うが、また姿を消してしまう。
その部屋を訪ねてみるが、その隣の人が「そこには誰もいませんよ」と言う。事実、空き室になっていた。以前は武村有紀という若い女が一人で暮らしていたのだけれど、交通事故で亡くなったのだという。
事情はわかった(?)が、さてどうすればいいのか、わからない。

その夜、帰ってきた節子の前で信也はペンダントを落としてしまい、「なんでまだ捨ててないの」と激怒し、自分で窓から放り捨ててしまう。
だが、しばらくして、カチャーンという音がする方を見ると、またペンダントがどこから戻ってきて床に転がっている。
ぶち切れたようにムキになった節子は、ペンダントをトイレに流してしまう。「何もそこまでムキにならなくても」という信也と激しい言い争いをした後、節子はやっと風呂に入る。
と、風呂に漬かった節子の首に、いつのまにかまたペンダントが絡まっている。しかも、誰かがその先を持って引きずり込もうとしているようで、絶叫した節子はペンダントをむしり取り、風呂から飛び出してくる。
何事かと驚く信也が節子のもとにかけつけ、なだめすかして落ち着かせようとするが、なかなか節子のヒステリーは治まらない。やっと服を着せ終えた時、信也は気づかなかったのだが、ペンダントがまたいつのまにか着せた服に混じって光っている。
すると、節子が突然ぴたっとおとなしくなる。ほっとした信也は、節子を寝かせることにする。だが、その時、実は有紀がぴったりと節子の後ろに貼りつき、抱きついて金縛りにしていたのだった。
節子が内心でいくら信也に助けを求めても、声はでないし体も動かない。そうこうするうち、信也が、勝手に調べてきたことを詫びた上で、どうやらペンダントは有紀が亡くなった後に念を残したもので、古道具屋で有紀は信也に一目惚れしたのではないか。そして同棲している節子に嫉妬して祟っているのではないか。そうとしか思えないと節子に話して聞かせ、「死んだ女の子もかわいそうなんだよ」と説得する。(それは実は同時に有紀も聞いている)
その時、節子の体が操られたように(というか、有紀に操られているのだが)起き上がって、信也に寄って来る。さっきまでの狂乱状態とはうって変わって、じいっと熱いまなざしを注いでくる。そして、自分から迫ってくる。信也は直感した。
(節子じゃないな)
節子の中にいる有紀は、思い切ってキスしてくる。信也は緊張しながらそれを受ける。そして言う。
「おまえ、武村有紀だな」
驚いたように節子=有紀の目が見開かれる。
と、突然がくっと節子が崩れ落ちる。有紀が離れたのだ。
信也は節子を正気づかせる。
と、二人の目の前で、有紀が頭を下げてから、すうっと消えてなくなる。
あれだけしつこく現れ続けたペンダントは、もうどこかに行って戻ってこなかった。
(終)

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「スタジオ」(見てはいけない怖い話)

2012年09月30日 | ホラーシナリオ
「スタジオ」

大山信也 22
長妻節子 22
武村有紀 11

毛利  先輩スタッフ カメラマン
田口  さらに古参のスタッフ 演出部
その他、スタジオのスタッフたち
テレビ番組の出演者
亡霊たち

東京H町にある、大きめの撮影スタジオ。そこに録音助手の信也と、スタイリスト助手の節子の若いスタッフの二人がぴったり寄り添ってやってくる。たちまち先輩の一人の毛利に「なんでスタイリストの荷物を、録音助手が持ってやってんだ」とひやかされる。と、もっと古参の先輩の田口が「こいつらはもう公認の仲なんだよ。野暮言うな」
実際、思い切り大きな荷物なのだが、節子はさらに信也の手首に巻いているペンダントに目をつける。「それもちょっと貸してくれない、とにかく集められるだけのペンダント集めろって状態で」「いいけど」と、信也は外して渡す。「なんで、それだけいっつも首にかけないで手首に巻いてるの」と聞くが、信也は曖昧な答えしか返さない。二人はキスして、それぞれの部署に向かった。

スタジオの収録作業が始まる。簡単なセットで出演者数人の通販番組だ。
ヘッドフォンをかけて音声を聞いている信也の耳に妙な意味不明の声が入ってくる。
首を傾げている信也に、「何か変な声が聞こえたんだろ。このあたりではずいぶん空襲で焼け死んでるからな」「川にとびこんだところを火にまかれて、焼け死ぬとともに溺れ死んだそうだ」「トンネルの中に大勢の遺体が供養されないまま押し込まれているらしいぞ」などと田口が、怖がらせるのを楽しむように耳打ちする。

毛利は操作しているカメラのファインダーの映像が妙にちらつくのにいらいらしていたが、ふと気付くと、ちらつきの向こうに妙な人影が写っている。肉眼で見ると誰もいないところに、カメラを通すとすっぽりと防空頭巾をかぶって顔を見せない人間の姿が見えるのだ。
かと思うと、突然ぷつっと照明が落ちてしまう。暗い中、懐中電灯を振り回してどこが悪いのか調べるが、どこも接触不良など起こしておらず、原因がわからない。

暗がりでスタッフたちが右往左往する中、節子が見ると、信也の首に自分が預かったはずのペンダントがいつのまにかまたかかっているのに気づく。節子があれっと思うと、信也が心ここにあらずといった風にとことこと歩いてくる。節子のところに来たのかと思うと、上の空で気付かないまま何かに導かれるように歩いてしまったらしい。
ふっと節子が信也のペンダントを見ると、ここにいるわけのない小さな女の子の手が(手だけで顔は見えない)そのペンダントをつかんでいる、と思ったら、その手が消えている。信也に聞くが、当人にはペンダントを持って行った覚えも首にかけた覚えもないという。

改めて節子はペンダントを預かり、間違えないように自分の首にかけておく。と、誰かがそのペンダントを引っ張る。気のせいかと思ったら、ぐいっと頭が下がるほどの力で引っ張られ、下を向いた拍子にペンダントをひっぱった青ざめた女の子と顔を合わせてしまい、悲鳴を上げる。
すぐに女の子はまた姿を消すが、節子がさらに闇をじいっと注視すると、何人かの頭巾をかぶった人影が闇に紛れているのが見えた、と思った時、さらに突然強い寒気が襲ってきて何だろうと思ったところで明かりがつく。
気がついたら節子の頭のてっぺんから足の先まで、びっしょりと水で濡れている。いったい、どこからそんな水が現れたのか、見当もつかない。

暗くなっていた間に肝腎の通販商品がいつのまにかなくなっていて、探し出すのにまた時間をくうといった調子で現場は混乱して一向に仕事ははかどらない。徹夜もやむなしと田口が言うが、毛利がこのスタジオは十二時以降は使ってはいけないのだと強く主張する。それ以降になると、「出る」からだ。結局節子と信也が残って明日の準備をするということで話がまとまる、というより下っ端の二人に押し付けて全員逃げてしまう。

次の日に備えて、二人はそれぞれの部署で夜を過ごす。信也は控え室で機材のチェックをしている。ふと見ると、鏡の中に10歳くらいの女の子が写っている。(女の子の顔を見るのがこれが初めて)あっと思ってよく見ようとしたら、もう姿は消えている。

節子はふと気づくと確かにしていたペンダントが、またもなくなっているのに気づく。一度ならず二度までも、しかも首にかけっぱなしにしていたのに、なくなるとはどういうことだろうとスタジオに戻ってみる。
と、セットの一部のライトがなぜかつけっぱなしになっている。「誰かいるの」
近づいていくが、スタジオはがらーんとしてまるでひと気がない。出て行こうとすると、ちかっ、ちかっとセットの陰から鏡で反射するような光が送られてくる。
「誰?」さらに近づいていくと、スポットライトが当たった机の上にまるで場違いな折鶴が置いてある。
「何これ」よく見ると、周囲の半ば闇に沈んでいるあたりにも、折鶴がたくさん置いてある。あるいは束になって吊るされている。
その中に、変わった文様の折鶴がぽつんと置かれてあるのに、ふと節子は気付いて怪訝な顔をする。何かシーサーをデザインしたような柄だ。と、突然ろうそくが灯され、その火が吊るしてあった折鶴の束について燃え広がっていく。それを見た節子は立ちすくむ。

信也はふと違和感を覚えて、ポケットに手を突っ込む。と、節子に貸してまだ返してもらっていないはずのペンダントが出てくる。
「どうなってるんだ」さらに、折鶴までもが出てくる。

信也がペンダントをベッドに寝ている少女に渡すフラッシュバック(舞台式のごく抽象化したベッドとバックの幕程度といった装置を使う)
少女がだだをこねて、ふとんをかぶってしまうフラッシュ。

スタジオの闇の中、薄気味悪くて立ち往生している節子。突然、携帯の着信音が鳴り響く。
心臓が止まりそうなくらいびっくりするが、見ると発信者は信也なので助けを求めるつもりで出る。
「いつ俺のペンダント、返したんだ」「返してないよ」改めてぞっとする節子。
「今どこにいるの」「スタジオ」そして目の前の机周辺に折鶴がたくさんあることを信也に告げて、このあたりには戦没者が大勢埋まっているとかいうけど(節子も知っている)、その慰霊に使われたものではないかなどと言う。「そうじゃない」「なんでそう言えるのよ」
その時、ふと「待って。確かにちょっと違うような気がしてきた」と、呟く節子。そのとき、何者かが暗がりから姿を現そうとしているのに気づく。
悲鳴をあげる節子。信也は控え室を飛び出してスタジオに向かう。

節子が逃げようとすると、突然すべての明かりが消えて真っ暗になる。
そこに信也が飛び込んできたが、あまりに暗いので身動きとれない。
二人は携帯の明かりを頼りに、互いに声をかけあって位置を確認する。
と、すうっとまた一部の明かりがついて、抱き合っている二人の姿が現れる。
「早く逃げましょう」と節子は言うが「ちょっと待って」と信也は奥に進んでいく。
「折鶴があったって」「それが何、早く逃げないと」
だが、信也は鶴が置かれた机の前にまで到達する。信也は折鶴を見て
「やっぱり、な」「何がやっぱりなの」「化けて出ていたのは戦争の犠牲者じゃなかったんだ。折鶴なんて置いてあったから、そう思い込んでいたけれど」「じゃあ、誰」
その時、節子は暗がりから誰かがすうっと姿を現すのを見る。
悲鳴をあげる節子。だが信也は「落ち着いて」と呼びかける。
「久しぶりだね、有紀」
現れたのは、控え室の鏡の中にいた、信也にペンダントをもらっていた女の子(有紀)だ。
フラッシュバック。ベッドに横臥している生前の有紀。枕元に折鶴が一羽置かれている。
「これは幸運のお守りだから、持っていて」と信也が有紀にペンダントを渡す。
「でも、まもなく君(有紀)はいなくなった」
空になっているベッド。母親が「これはもともとあなたのですから」とペンダントを信也に返す。

「それで、ペンダントを首にかけないでいたのね」「幸運のお守りなんて言っておいて、(有紀に)役に立たなくて、ごめんな。(節子に)返してもらっても、また首にかける気にはならないし、かといって捨てるわけにもいかないし。それで首にかけないで持って歩いてたんだ」

フラッシュバック。信也が腕に巻いていたペンダントを節子が持っていくのを見ている有紀の亡霊。

「でも、どこが幸運のペンダントなの」「これを買ったら君(節子)と出会えたことだ」驚く節子。有紀も驚く。

フラッシュバック。公園のベンチで寄り添っている信也と節子を、部屋の中からそっと見ている有紀。二人の距離がますます接近しそうになると、手鏡で光を送って節子の顔に当てて邪魔する。
その光は、先ほどスタジオから脱出しようとする節子を邪魔する光とだぶる。
「本気で嫉妬していたのかい」信也の言葉にうなずく有紀。節子は複雑な表情。
節子「思い出した。あの鶴を、あたしも折った。見覚えがあると思ったんだ」

フラッシュバック。寄り添っている信也と節子が言葉を交わす。「知り合いで病気の子がいるもので」「わかった。何羽折ればいい?」「多いほど」
節子は、シーサー柄の折り紙で鶴を折る。さっき、見たのと同じ折鶴になる。「どこか見覚えがあったと思ったんだ」
病床の有紀の枕元に吊るされた何十という折鶴の束が届けられる。
しかし、やがて有紀の顔に白い布がかけられる。

節子の耳元に有紀の声が届く。「ごめんなさい」
有紀が信也におずおずと近寄ってくる。抱きつこうとするが、突き抜けてしまって触ることはできない。試みに折鶴を取ると、それは持ち上げることができる。受け取る信也。
有紀が満足したように微笑む。
と、節子と信也の二人は、有紀の後ろの闇に、無数の亡霊が佇んでいるのに気付く。

節子ははっとした。
最初に信也のところにペンダントが戻ったとき、有紀がそれをひっぱって信也を亡霊たちの群れから遠ざけていたのだ。あの時は、亡霊たちと有紀とごっちゃにしていたが、実は有紀が信也を守っていたのだった。その後節子がかけたペンダントをひっぱったりしていやがらせしてはいたが。
そして、今また有紀が亡霊たちの前に立ちふさがって信也と節子のところに迫ってこないよう小さな体を盾にして防いでいる。

信也と節子は有紀に呼びかける。亡霊たちとかかずりあってはいけない。早く成仏しなさいと。有紀は微笑んで、すうっとわずかに光り、また暗がりの中に溶け込むように消えて行った。
二人は、盾になっていた有紀がいなくなったもので、たちまち迫ってくる亡霊たちから大急ぎで逃げ出し、スタジオから脱出する。

逃げ切った二人はビルから出て行きながら会話をかわす。
「ペンダント、どうしようか」「そうね。二人で持ってましょう」
さらに、ぽつりと続いた。「あしたの収録、どうなるんだろう」
(終)

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「怨霊vs殺人鬼」(見てはいけない怖い話)

2012年09月30日 | シノプシス
翔一 心霊マニア。霊に会いたいと熱望して、心霊スポットを巡礼している。
涼香 翔一と一緒に心霊スポットを訪れる女の子

杏子 心霊スポット取材班 心霊現象に懐疑的
力也 同 心霊現象を信じている
愛美 同 霊感の持ち主


とある心霊スポットの古いビル。
火事が出て数人が死に、たたられて死ぬ住人が出て閉鎖することになってオーナーも借金苦から自殺し、その後ももぐりこんで何人も自殺したりしているというきわめつきに不吉な場所だ。
そこに一組のカップルがやってくる。
男は翔一、女は涼香。
女が心霊スポットに興味があるので、気のある翔一が連れてきたらしい。まだ知り合ってごく日は浅い。
翔一はしきりとウンチクを傾けて、どんな幽霊がどんな風に出たと言われているのか、身振り手振りたっぷりに喋り、涼香もきゃあきゃあ言いながら聞いている。
そして翔一はどれだけ色々な心霊スポットをまわったか、半ば自慢げに付け加える。

しかし、いくら待っても一向にそれらしい現象は起こらない。
やっぱり幽霊なんかいないのか、とがっかりする涼香に、それまでただ気を引くためにちゃらちゃらついていたようだった翔一の様子がだんだん変わってくる。
その女の幽霊がどんな殺され方をされたのか、どんな風にそこに捨てられていたか、さっき以上に微に入り細にうがって語る。そしてこんなにひどい殺され方をしたのだから、恨みをのんで化けて出てくるのが当然だ、と続ける。

ただ幽霊が出るという怖さではなく、現実的な殺しの話なので、ふたりきりの状況で涼香はだんだん本気で怖くなってくる。

翔一は言う。「オレは幽霊が見たいんだ」その思いが募ったあげく、幽霊を作ればいいと思いつく。
そのために、出来るだけ恨みや呪いを残す形で涼香を殺す、という。場所も大事で、ここは霊気が定着しやすい場所だというのだ。

涼香は殺人鬼兼ゴーストメーカー翔一に追われる。さんざん嬲られた末に惨殺され埋められる。

では、首尾よく涼香の幽霊は出るだろうか。ビデオ数台を用意して翔一は待つ。だが、いっこうに幽霊が出る気配はない。鏡をのぞこうが、いったんビデオを回して再生しようが、何も写らない。

そうこうするうち、別の三人組(力也、綾野、杏子)の心霊スポット探検隊がやってくる。
先客の翔一は驚いた一行に一時は幽霊扱いしたりするが、ではそれぞれ干渉しあわないでということでいつく。

と、後から来た力也が霊感に響くものがあると言い出す。
そして、女の霊が翔一の背後に立って彼を指差しているというが、翔一にはさっぱりその姿が見えない。
しかし、力也が何か気づいたのではないか、と疑いのまなざしを向ける。力也の方でもそのまなざしに不吉なものを感じる。

綾野も翔一の態度に何か不自然なものをうすうす感じているが、杏子の方はしきりと本当に霊が見えるのかと乗ってきて、どうすればその霊を捉えられるかあれこれ工夫を始める。

何度か力也が女の霊を見たり見えなかったりするのを繰り返すうち、どう考えてもその霊が翔一に執着しているのがはっきりしてくる。だが、翔一はどうすればそれが見えるのか興味しんしんで教えてよと力也や杏子に迫るが、その態度の異様さに綾野はしだいに気味悪くなってくる。

どっかと陣取り、どこに霊が出ているのかと問う翔一に、「あなたの首を霊が絞めている」と力也が言っても、「どこだどこだ」ときょろきょうするばかり。
ついには「どうすれば見えるんだあっ。見せろ見せろ」と突然ブチ切れる。
そう言われても、どうしようもない。
ついに、翔一は力也も絞め殺してしまう。

あわてて逃げる綾野と杏子。
その目の前に、焼死した人間たちが現れる。あるいは自殺したオーナーも現れる。自殺したと思しき人間たちも現れる。
二人は悲鳴をあげ、必死で彼らから逃げ惑うが、翔一はなかなか気づかない。いや、気づいているのだが、あれほど見たがっていた幽霊をいざ見られるとなると意識から追い出そう追い出そうとする。
しかし、ついに幽霊の存在を認めざるをえなくなり、興味本位な態度はふっとんで悲鳴をあげる…

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「病院」(見てはいけない怖い話)

2012年09月30日 | ホラーシナリオ
「病院」

登場人物 飯沢聡子 20代前半 足のケガで病院に新しく入院した患者
     瀬川明美   〃   ナース?
       慶子   〃   後から入院してくる患者
     医者1(声だけの出演)
     医者2(声だけの出演)
     焼き場の係員(声だけの出演)

病院の各所(ラフに撮られたモノクロのざらついた静止写真 以下同じ)にかぶさり、
聡子のN「病院…、そこではどこよりも多くの人間が生まれ、どこよりも多くの人間が死ぬ」
古いビル。
N「私は東京で小さな出版社に勤めている。ずっと忙しくて休みもとれなかったけれど、やっと久しぶりの休暇をとって、女の一人旅としゃれこんだ」
車の走っている道路。
N「予定も立てずにぶらっと足の向くまま気のむくままに歩き回るつもりだった。小さな名も知らない駅で途中下車して」
商店街。
N「駅前をぶらついた後」
裏道。
N「狭い裏道に入って歩いてまわり、角を曲がろうとしたところ、一台のトラックがむりやり割り込んできた」
トラックのヘッドライトのアップ。
聡子の顔。
激痛でゆがんだ顔。
N「何が起こったのか、しばらくわからなかった」
救急車のサイレン。
T「内輪差」
N「小学校で習ったナイリンサ、という言葉の意味が十年以上経った今、やっとわかった」
トラックのタイヤのアップ。
N「四輪車がカーブするとき、後輪は前輪より内側を回る。だから前輪をよけても同じところに立っていると後輪に轢かれることがあるから気をつけなさいと、先生に教わった。その通りになった」
タイヤに轢かれかけている足。
N「トラックは、人の足を踏んだことにも気づかなかったのだろう。そのまま走り去った」
救急車。
病院の救急口。
トレーチャー。
N「都会暮らしに慣れてきたはずの私が、ちょっと田舎に入ってこんな交通事故に会うなんて、思いもよらなかった」
画面、F・Oする。
N「どういう治療を受けたのか、よく覚えていない。気がつくと、病院のベッドに上にいた」

○ 病室・大部屋・昼
その片隅、窓際のベッドに入院衣姿で横になっている聡子。
白衣を着た明美が、話しかけてくる。
明美「目がさめましたか」
聡子「ここは…」
明美「病院です」
聡子「病院…(まだぼんやりしている)」
明美「そうです」
聡子「なんで病院に」
明美「足にケガしたんですよ」
聡子「(記憶を探って)そうだ、あの車に踏んづけられたんだ」
明美「あの車って、どの車ですか」
聡子「あのトラック…、しまった、覚えてない」
明美「何を」
聡子「車のナンバー。踏んづけて、そのまま行っちゃった」
明美「仕方ありませんね」
聡子「警察に届けないと」
明美「どんな車か覚えてますか」
聡子「いいえ、よく。すぐ鼻先を通ったと思ったら、いきなり激痛が走ったものだから」
明美「では、届けても望みありませんね」
聡子「そんな…」
明美、近くのキャビネットの引き出しを開け閉めして、
明美「貴重品はここにまとめてあります。今日は、診察は終わりです。詳しいことはあしたから」
ナースコールのボタンを示して、
明美「何かあったら、これを押して下さい。私は瀬川です。瀬川明美」
と、立って隣の患者のところに行く。
隣の患者はぐるりをカーテンで仕切っていて、中の様子はまったく見えない。
明美の声「…はい、大丈夫ですよ。隣に人が入ったけれど、気になりませんね。調子は…まあまあ」
患者の声はさっぱり聞こえない。
聡子、テレビを見ようとするが、つかない。
引き出しを開けて、財布や携帯を出して確かめる。
聡子のN「そうだ、会社に連絡しないと」
携帯をかけてみる。
「…この携帯は、電波の届かないところにあるか、電源が切ってあるため、かかりません…」
聡子、けげんな顔をする。
隣のカーテンの中から明美が出てくる。
明美「病院内では、携帯は禁止です」
聡子「はい」
と、急いで引き出しにしまう。
明美、身を翻して去る。
聡子「あの」
と、声をかけるが、聞こえないのかさっさと出て行く。
聡子、仕方なくベッドの上でおとなしく横になっている。
N「私はやっと落ち着いて、自分の身の回りを見渡した」
大部屋だが、聡子と隣の患者の二つのベッドしか埋まっていない。
N「なんでまた、他にいくらも開いているのにこんなにくっつけて寝かせているんだろう。不思議に思った」
寝ている聡子。
N「ベッドの上でいろいろ考えているうちに、いくつもわからないことが頭にわいてきた。旅先だったから私は保険証を持っていない。もちろんこの病院の受信票も持っていない。それから入院のための書類も書いた覚えがない。なんですんなり入院できたのだろう。急患だったから受け入れたのだとしても、書類くらいは書かせるはずだ。免許証は持っていたから、身元はわかるのだし。それから課長の携帯は電源を切っていても留守録につながるはずで、すると電波が届かないのは、こちらの携帯ということになる。電波が届かないのに、携帯禁止?」
間。
N「私はどんなケガなのか。どんな処置をしたのか。誰が処置したのか。どれくらいで治るのか。何もわからない」
間。
N「そうだ、この病院の名前、なんというんだろう」

タイトル

○ 病室・夜
横になっている聡子と、相変わらずカーテンを巡らしたままにしている隣の患者。
ともに明かりはつけている。
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
変なうめき声が、隣から聞こえてくる。
聡子、いやな顔をする。
「ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
だんだんうめき声が大きくなる。
聡子。
「ウウウウウウウウウ」
聡子、がまんできなくなってきて、
「すみません」
うめき声はやまない。
「(声を大きくして)すみません」
うめき声が止まる。
聡子「ナースコールを押してみたら、いかがですか」
答えは、ない。
聡子「もし」
「ウウウウウウウウウ」
また、うめき声が一段と大きくなって再開する。
聡子、たまらず自分のナースコールを押す。
「ウウウウウウウウウ」
えんえんとうめき声が続く。
聡子、(早く来てくれ)という顔で待っているが、一向にナースは来ない。
聡子「何やってんのよ」
またコールするが、まだ来ない。
聡子「(たまらず、隣に声をはげまして)あの、すみません」
「ウウウウウウウウウ」
聡子「どうしました」
「ウウウウウウウウウ」
聡子「何かできることありますか」
突然、ぴたりとうめき声が止まる。
聡子「(どうしたのだろう)」
隣から女の声「あの」
聡子「はい」
隣の女の声「大変申し訳ないのですが」
聡子「はい」
隣の女の声「少し、私の話を聞いていただけないでしょうか」
苦痛のあとなどまったくない、落ち着いたしゃべり方。
聡子「(戸惑いながらも)ええ、いいですよ」
隣の女の声「すみません、顔も見せないで」
聡子「いえ」
隣の女の声「でも、見ない方がいいんです」
聡子「はあ」
隣の女の声「夫のせいなんです」
聡子「はあ」
隣の女の声「何もかも、夫のせいなんです」
聡子「…」
隣の女の声「夫のタケシが私をこんなにしてしまったんです」
聡子「…」
隣の女の声「タケシは、あたしをぶちます。何度もぶちます。朝もぶちます。昼もぶちます。夜もぶちます。夜中でも、叩き起こしてぶちます。手でぶちます。足で蹴ります。掃除機の棒でぶちます。ポットの中のお湯をかけます。風呂の中のお湯に頭を沈めます。玄関のドアの間に手を入れておいて、思い切り閉めます。足の甲を思い切り踏みつけます」
聞いている聡子、顔がひきつってくる。
隣の女の声「それから、思い切りあたしをののしります。顔が悪い。頭が悪い。スタイルが悪い。性格が悪い。いつもろくな服を着ていない。不潔だ。臭い。そう言って、あたしに唾を吐きかけます。おまえには生きている価値がないと言います。死んでしまえと言います。死んでも誰も悲しまないと言います。あたしが死んだら、墓の上で踊ってやると言います」
聡子「(おそるおそる)あの…」
隣の女の声「(構わず)傷だらけになって血まみれになると、『血を出すな。汚らしい』と怒鳴ります。顔が腫れて膨れ上がると、『醜い』とののしります」
聡子「あの、警察を呼んだらいかがでしょう」
隣の女の声「それからあたしの親を罵倒します。あたしの母親のしつけが悪いから、こんな出来の悪い娘ができたんだと言います。おまえの父親は本当の父親ではないと言います。おまえの母親は公衆便所だから、誰の子供だかわかりゃしないと言います」
聡子「(懸命になって)ちょっと、ひどすぎませんか。絶対警察に言うべきです。あるいは公の対策センターとかあるはずです」
ぷつりと隣の女の声が止まる。
聡子、耳をすましている。
何の音もしない。
聡子「あの…」
答え、なし。
聡子「もしもし」
隣から女の声「あの」
聡子「はい」
隣の女の声「大変申し訳ないのですが」
聡子「はい」
隣の女の声「少し、私の話を聞いていただけないでしょうか」
さっきと同じような何事もなかったようなしゃべり方。
聡子「(戸惑いながらも)ええ、いいですよ」
隣の女の声「すみません、顔も見せないで」
聡子「いえ(何か変だな)」
隣の女の声「でも、見ない方がいいんです」
聡子「…(前と同じことを言ってないか?)」
隣の女の声「夫のせいなんです」
聡子「はあ」
隣の女の声「何もかも、夫のせいなんです」
聡子「…」
隣の女の声「夫のタケルが私をこんなにしてしまったんです」
聡子「…タケル? タケシだったのでは」
隣の女の声「(まったく意に介さず)だからあたしはタケルをぶちます。何度もぶちます。朝もぶちます。昼もぶちます。夜もぶちます。夜中でも、叩き起こしてぶちます。手でぶちます。足で蹴ります。掃除機の棒でぶちます。ポットの中のお湯をかけます。風呂の中のお湯に頭を沈めます。玄関のドアの間に手を入れておいて、思い切り閉めます。足の甲を思い切り踏みつけます」
聞いている聡子、わけがわからない。
隣の女の声「それから、思い切りあたしはタケルののしります。顔が悪い。頭が悪い。スタイルが悪い。性格が悪い。いつもろくな服を着ていない。不潔だ。臭い。そう言って、タケルに唾を吐きかけます。タケルにおまえには生きている価値がないと言います。死んでしまえと言います。死んでも誰も悲しまないと言います。おまえが死んだら、墓の上で踊ってやると言います」
聡子「(おそるおそる)あの…」
隣の女の声「(構わず)傷だらけになって血まみれになると、『血を出すな。汚らしい』と怒鳴ります。顔が腫れて膨れ上がると、『醜い』とののしります」
聡子「あの、どちらが」
隣の女の声「それからタケルの親を罵倒します。タケルの母親のしつけが悪いから、こんな出来の悪い息子ができたんだと言います。タケルの父親は本当の父親ではないと言います。タケルの母親は公衆便所だから、誰の子供だかわかりゃしないと言います」
聡子「あの、わけがわかりません」
ぷつっと、また声が途切れる。
聡子、耳をすましている。
何の音もしない。
聡子「あの…」
答え、なし。
聡子「(よせばいいのに)もしもし」
隣の女の声「あなたのせいです」
聡子「は?」
隣の女の声「何もかも、あなたのせいです」
聡子「え…(わけがわからない)」
隣の女の声「あなたが私をこんなにしてしまったんです」
聡子「ちょっと」
隣の女の声「あなたは私に病気をうつした」
聡子「ちょっと、何をおっしゃるんですか」
隣の女の声「この病院、変だと思わない?」
聡子「え?」
隣の女の声「こんなにベッドが空いているのに、あなたとあたし、こんなにぴったりくっつけて寝かせて。こうやって、あたしに病気をうつそうとしているんだ。インフルエンザと、エイズと、それと癌と」
聡子「癌がうつるわけないでしょう。変なこと言うの、やめてください」
隣の女の声「そうやってあたしを殺そうとしているんだ」
聡子、憤然としてナースコールを押す。
だが、誰も来ない。
聡子「どうなってるの、誰か来てよ」
がちゃがちゃ押す。
隣の女の声「誰も来ないよ」
聡子、我慢できなくなって、むりやりベッドから這い出る。
包帯とギプスで固められた足をそろそろと床に下ろす。
激痛が走り、思わずうめき声が漏れる。
ケガしていない足を床に下ろし、なんとか一本足でけんけんしていこうとするが、踏ん張りがきかず転倒する。
悲鳴を上がる聡子。
それでも懸命になって床を這いずって出入り口に向かう。
隣の女の声「誰も来ない」
聡子、耳を貸さずに這っていく。
隣の女の声「(意味不明の絶叫)あーぁぁぁぁぁあ」
聡子、這う。
隣の女の声「あたしが死んでも、誰も来ない」
聡子。
隣の女の声「(絶叫が後ろから追いかけてくる)あたしなんか、死ねばいいっ」
聡子、振り返らないで、這う。
隣の女の声「死ぬんだっ」
聡子、少し逡巡する。
隣の女の声「死ぬんだっ」
聡子、這うのを停める。
隣の女の声「見ろっ、死んでやるっ」
聡子。
隣の女の声「(断末魔のような声)ぎゃああああああ」
聡子、思わず振り返ってしまう。
と、カーテンが中からのおびただしい量の血しぶきで真っ赤になる。
聡子、悲鳴を上げる。
そして、痛む足をひきずって出口に向かう。
やっと到着して、なんとか開けようと扉に手を伸ばす。
と、がらっと外から扉が開けられる。
見上げると、明美が上から見下ろしている。
明美「あら、だめじゃないですか。まだケガしたばかりなのに動き回ったりして」
聡子「(興奮して言葉にならない)あ、あの、隣の人が、死、し、し、しに」
明美「(意に介さず)はい、つかまって」
と、聡子を担ぎ上げるようにして立たせる。
その拍子にケガした足に力が加わり、
聡子「痛いっ!」
悲鳴を上げる。
明美「がまんして」
と、病室の奥に逆戻りしだす。
聡子「ちょっと」
慌てる。
が、振り向いて奥のベッドに近づくと、痛みの中でけげんな顔をする。
使われているベッドは窓際の聡子のだけで、カーテンが開けられて見ることができる隣のベッドには使われた形跡がない。
明美、ぐいぐいと聡子をひっぱって窓際のベッドに戻す。
聡子「さっきずいぶんナースコールを押したんですけど」
明美「あら、聞こえてすぐ来ましたけれど」
聡子「すぐ?」
明美「ええ」
明美、委細かまわず聡子をベッドに横にする。
聡子「いたっ」
明美「ごめんなさい(心がこもっていない)」
明美、聡子の脈をとったり、熱を測ったりする。
聡子「あの」
明美「はい」
聡子「この病院、他に患者さんいないんですか」
明美「いますよ。この病室だけたまたま空いているけれど」
聡子「でも、いくらなんでも静かすぎません?」
明美「夜ですからね」
聡子「あの、診ていただいてるの、何という先生ですか」
明美「飯沢先生です」
聡子「あら、あたしと同じ名前」
明美「…(何も言わない)」
聡子「(なんだか不安になる)」
明美「少し熱がありますね。お薬出しておきましょう」
と、席を外す。
聡子、隣のベッドを見る。
やはり、使われた形跡はまったくない。
見ているうちに吸い込まれそうになって、あわてて目をそらす。
明美が水と薬を持って戻ってくる。
明美「はい」
聡子「…(なんだか気味悪くて手を出さない)」
明美「飲んで」
聡子「これ、なんですか」
明美「ただの鎮静剤です」
聡子、やむなく飲む。
ごくっと鳴るノド。
明美「じゃ、ごゆっくり」
と、出て行く。
寝ている聡子。
のしかかってくるような沈黙の中、聡子の呼吸と心臓の鼓動だけが聞こえてくる。
聡子、薬が効いてきたのか、うとうとしてくる。
隣の女の声「(聞こえてくる)「ローンは大阪との関係がもっとも親密で、正確に数えまして、コンスタントに亡くなる1970年まで総数は100回、コンセルトヘボウと豊島区役所にまとまった代金がかかっています」
聡子「?」
目を向けると、いつのまにかカーテンがまた巡らされている。
暗い中、隣の女の声だけが響く。
隣の女の声「(意味がだんだん壊れてくる)もちろん助かる、まだキャビネットに可能性が高い、いのさきのことしか考えてない、きょうあしたきょう、いじめるのが好き、らしきさの、防衛こそ最大のラジオ、百円ショップで売っている包丁で十分、マザコンの母親はチッコリー、心が安くなる、階段から落ちる、テントウムシテントウムシ、頭がぱっくりわれてたたんで串刺しにして、水たまりができてる、浸透性ならあんた誰、あのエスカレータはあなたの行く先には止まりません、エクスプラターナ、プフファぅーラは私の本名ではない」
聡子、もちろん意味がわからない。
隣の女の声「(ところどころ日本語らしきフレーズは入るが、まったく意味がわからない)いかにしてけわけはビンらでいんわとりにかしたかにけだすことができなかつたとにゆうんすがぜんぜんちがう、楽天むすうえるてなにしてたのよそうはていたれはよかつたいと、いせんしやーなりすとまとめたしょういんおおけいだよと」
聡子、気が変になってきそうになる。
聡子「(耳を押さえて叫ぶ)もうやめてっ」
隣の女の声「けけけけけけけけけ」
聡子、我慢できなくなり、身体を起こして、カーテンに手をかける。
隣の女の声、ぷつっと途切れる。
聡子、一瞬迷うが、思い切ってカーテンを開く。
隣のベッドの上には、誰もいない。
ふと見ると、隣のベッドの傍らのテーブルに、ムダ毛剃りに使うようなカミソリがぽつりと置かれている。
聡子、つい目が吸い寄せられてしまう。
頭を振って、目をそらす。
ふっ、と明かりが消える。
聡子「(小さく悲鳴をあげる)」
聡子、立ちすくんでいる。
突然、眠気が襲ってくる。
だんだんひどくなり、立っていられない。
どさっと自分のベッドに座り、横になる。
意識が遠のく。
その顔にすうっと明かりが当たる。
聡子、もやもやした意識の中、そうっと光の来た方を見る。
隣のベッドのまわりにまたカーテンがめぐらされ、その中から光がさしている。
聡子、眠気と懸命に戦うが、身体が思うように動かない。
カーテンに、人影が写る。
聡子「(悲鳴をあげようとするが、薬が効いているのか、声か思うように出ない)」
カーテンが中から開けられて…、
姿を現したのは、明美だ。
ただし、ナースではなく、患者の格好をしている。
聡子「(エッ)」
明美、カミソリを手にしている。
聡子の上にのしかかってくる。
ノドもとにカミソリを当てられそうになって。
聡子「(突然、悲鳴が出る)」
聡子の身体が動くようになって、懸命に明美のカミソリを持った手をつかんで防ぐ。
明美、体重をかけてカミソリを近づけてくる。
聡子、明美の手をねじるようにして反撃する。
「ギャッ」
聡子の顔に血しぶきがかかる。
明美の首にカミソリが刺さっている。
血を噴き出しながら、どうっと隣のベッドの上に倒れて動かなくなる明美。
聡子、また悲鳴をあげる。
ナースコールを押しかけて、はっと気づいて投げ捨てる。
聡子「どうしよう…、どうしよう…、どうし…」
興奮状態の中、また猛烈な眠気が襲ってくる。
聡子「眠いっ…なんで、こんな時に」
またベッドの上で横になる。
今度こそ、完全に意識がなくなる。
× ×
目をさます聡子(夜)。
ベッドの上で横たわっている。
顔に血のりの跡はない。
聡子の声「…夢か」
起き上がろうとして、身体が動かないのに気づく。
聡子の声「身体が…動かない…」
辛うじて動く目だけをめぐらして、周囲を見渡す。
カーテンがぐるりに巡らされている。
聡子の声「ここは、隣のベッドだ。なんでここに」
隣、つまり前の聡子がいた窓際のベッドから声がする。
明美「目がさめましたか」
窓際のベッドに、別の女(慶子)が寝かされている。
慶子「ここは…」
明美「病院です」
慶子「病院…(まだぼんやりしている)」
明美「そうです」
慶子「なんで病院に」
明美「覚えありませんか」
慶子「そう…、確か階段から落ちて…、誰かに押されて…」
明美「貴重品はここにまとめてあります」
慶子「どんな処置をしたんでしょう」
明美「今日は、診察は終わりです。詳しいことはあしたから。何かあったら、これを押して下さい。私は瀬川です。瀬川明美」
カーテンを開けて、明美が入ってくる。
聡子「!…」
明美、にっこり笑って、カミソリを取り出す。
どうするのかと思うと、傍らのテーブルに置いていって、カーテンをくぐって去る。
聡子、相変わらず身体が動かない。
その口から、勝手にうめき声が漏れる。
聡子「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
聡子の内心の声「こんな声、あたし出してない」
聡子「ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
だんだんうめき声が大きくなる。
聡子の内心「止まれ、止まれっ」
聡子「ウウウウウウウウウ」
慶子「すみません」
うめき声はやまない。
慶子「(声を大きくして)すみません」
うめき声が止まる。
慶子「ナースコールを押してみたら、いかがですか」
答えは、ない。
慶子「もし」
聡子「ウウウウウウウウウ」
聡子の内心「いやだっ、あんなわけのわからないことをわめき散らかすのはいやだっ、あたしはまともよ。おかしくなんかない」
聡子「(うめき声はますます大きくなる)ウウウウウウウウウーッ」
慶子「あの、ナースコールを押したらいかがですか」
聡子「押しても、来ないんですよ」
ぽろっと普通に声が出た。
以下、カーテンを隔てての会話。
慶子「来ない? そんなことないでしょう」
聡子「あの看護婦は恐ろしい人なんです。いや、人ではないかもしれない」
慶子「え?」
聡子「そうです。人ではない。悪霊か、地縛霊か、とにかく恐ろしいものです」
慶子「(あ、こりゃ頭が変な人だわという顔)」
聡子「あたしは旅先で事故でケガしてこの病院に担ぎ込まれました。いや、あの事故からしてこの病院の陰謀だったかもしれない。とにかく担ぎ込まれたけれど、誰が手当てしたのかもわからず、わけのわからないまま、身動きもとれずに、この病室に閉じ込められたんです。隣にわけのわからない女がいる、この病室にです」
慶子「わけのわからない女?(それはあんただろ、と顔に書いてある)」
聡子「えんえんとわけのわからないことを言い続けるんです」
慶子「…」
聡子「あたしがそうだと言うんでしょう。でも違う。信じてください」
慶子「はい、はい」
言いながら、ナースコールを押している。
聡子「今、ナースコールを押しているでしょう」
慶子「(図星をさされ、ぎょっとする)」
聡子「図星みたいね。あたしの頭がおかしいと」。
慶子「…やめてもらえません?」
聡子「いいえ、あたしの言うことを聞いて。あたしの言うことを聞いて、一刻も早くこの病院を抜け出すの。そうしないと、恐ろしいことになる」
慶子「(気味悪くなってくる)」
聡子「あの看護婦は恐ろしい人なんです。いや、人ではないかもしれない。あたしは旅先で事故でケガしてこの病院に担ぎ込まれました(同じことを繰り返しているのに気づくが止められない)。いや、あの事故からしてこの病院の陰謀だったかもしれない。とにかく担ぎ込まれたけれど、誰が手当てしたのかもわからず、わけのわからないまま、身動きもとれずに、この病室に閉じ込められたんです。隣にわけのわからない女がいる、この病室にです」
慶子「(本気で怖くなってくる)」
聡子「すでにつしびょうるいがなんおいならかわのけれわにになと。巣でんたらわれめこじとにしつびょうのこ。にずれとも記号みまま、いならかわのけ輪ずらかわもかのたしてあてがれだ」
わけのわからないことを口からだらだらと垂れ流している聡子、自分の上にかけているシーツの中から明美が顔を出してくるのに気づく。
聡子「(総毛立つが、口は止まらない)。いなれしもかたっだぼうびょうのこてしらかこじのあやい。鷹峰しまれまこぎつかにいんびょうのこ。てし影でこじきさびたのいんびょう」
そろそろと立ち上がり、ばっとカーテンを開ける慶子。
慶子の目には、隣のベッドには誰もいないように見える。
慶子「?…どうなってるの」
傍らのテーブルの上も見る。
カミソリがなくなっている。
カーテンを閉じる慶子。
隣のベッドの上の聡子。
その手に、いつのまにかカミソリが握られている。
聡子の内心「(それに気づき)何これ、なんでこんなものを」
声はあわてているが、身体は関係なく起き上がり、カーテンに手をかける。
聡子の内心「違うっ、こんなことをしているのは、私じゃない」
ぼーっ、と背後で明かりがひとりでに点く。
ばっとカーテンを開ける聡子。
びっくりしてこっちを見ている慶子。
聡子の内心「(絶叫)違うぅぅぅぅぅぅ」
それとは裏腹に平然たる表情で慶子に襲いかかる聡子。
取っ組み合いになる二人。
聡子「ギャッ」
そのノドから、血がほとばしっている。
もぎとったカミソリを持って呆然としている慶子。
聡子「なんで、あたしが…」
倒れる。
× ×
真っ暗な画面。
聡子の声「ここはどこ」
真っ暗なまま。
聡子の声「ここはどこ」
ギイギイいう音。
聡子の声「ここは」
フラッシュで、明美の顔が一瞬浮かぶ。
が、すぐ真っ暗になる。
医者1の声「ご臨終です。午前二時十八分」
間。
聡子の声「ご臨終? 誰が?」
医者2の声「ところで、この仏さん、身元わからないんだよな」
聡子の声「何言ってるの、免許証だって持ってるでしょう」
医者1の声「冷凍室もいっぱいだしな」
聡子の声「ちょっと、死んだのあたし?」
医者2の声「ちょうど、ドナー用の死体が足りなくて困ってるんだけど、どうする」
医者1の声「いいね、使わせてもらおう」
医者2の声「ドナーカードなんて持ってるのか」
医者1の声「あるさ、ここに」
医者2の声「おお、あった、あった」
(F・I)
何も書かれていないドナーカードにどんどん丸がつけられていく。
医者1の声「全部、提供します、と」
(F・O)
医者2の声「ところで、死因は何にした」
医者1の声「失血死でいいんじゃないか」
心臓の画像のフラッシュ。
医者2の声「あれだけ血が出れば、死ぬよなあ」
医者1の声「掃除が大変だ」
医者2の声「俺たちがやるわけじゃないが」
二人の笑い声。
聡子の声「何がおかしいのっ」
かちゃかちゃ手術器具が触れ合う音。
医者1の声「目を開けて」
聡子の主観で、視界が明るくなる…が、何もかもピンボケでまともに見えない。
その霧の中から、尖ったものがぐぐっと近づいてくる。
メスだ。
医者1の声「(霧の向こうから聞こえてくる)では、まず角膜からいただこう」
聡子の声「ちょっと、何、これ、いやっ」
メスがカメラ=目に刺さる。
聡子の声「(悲鳴、絶叫)」
画面、暗くなる。
医者2の声「では、もう一つもいただこう」
また、画面が明るくなるが、ピンボケのまま。
再びメスが迫ってくる。
聡子の声「あたしは生きてるっ、生きてるっ、目が、目がっ」
メスが目を抉る。
画面がまた暗くなる。
聡子の声「ぁぁぁぁぁぁぁ」
正気を失ったような響き。
医者1の声「では、ホルモンもいただきますか」
医者2の声「あいよっ」
フラッシュ、光るメス。
やはりフラッシュ、血のついたメス。
聡子の声に異様な不協和音が混ざってくる。
ざくざく肉を切り分ける音。
聡子の声「何、この音。あたしの肉を切ってるの?」
医者1の声「肋骨、切りまーす。ノコギリ」
医者2の声「はい、ノコギリ」
フラッシュで、ノコギリが閃き、すぐ暗くなる。
ごりごり骨を切る音。
医者1の声「いっせいの」
医者2の声「せっ」
ぽきっと骨が折れる音。
聡子の声「あたしの、肋骨…」
医者1の声「丈夫な骨だな」
医者2の声「よく食べてたんだろう、このドナー」
医者1の声「昔は女は男より一本肋骨が少ないなんて言われてたんだよな」
医者2の声「少ないといいな、切る手間が省ける」
ぽきっとまた折れる音。
医者1の声「はい、もういっちょう」
医者2の声「はいっ」
また折れる音。
聡子の声「ちょっと、あたしの肋骨を折ってるのっ?」
医者1の声「いよいよ、心臓だ」
医者2の声「冷蔵ボックスの用意はいいな」
医者1の声「メス」
医者2の声「メス」
ごそごそ切る音。
医者1の声「はい、ハツいっちょう」
医者2の声「はい、ハツいっちょう」
ドナーカードの「心臓」の項目に丸がつけられる。
聡子の声「やめて、やめてえ」
医者1の声「はい、レバー」
医者2の声「はい、レバー」
ドナーカードの「肝臓」の項目に丸がつけられる。
医者1の声「はい、バサ」
医者2の声「はい、バサ」
ドナーカードの「肺」の項目に丸がつけられる。
医者1の声「はい、マメ」
医者2の声「はい、マメ」
「腎臓」の項目に丸がつけられる。
医者1の声「はい、タチギモ」
医者2の声「はい、タチギモ」
「脾臓」の項目に丸がつけられる。
医者1の声「はい、コプチャン」
医者2の声「はい、コプチャン」
「小腸」の項目に丸がつけられる。
医者1の声「いいねえ、若い子は」
医者2の声「新鮮そのものだ」
医者1の声「ぷりぷりしてる」
医者2の声「色もいい」
医者1の声「このドナー、外見もよかったんじゃないか」
医者2の声「内臓だって、外見のうちさ」
また、笑いあう医師たち。
医者1の声「警備の田中じいさんに見せない方がいいんじゃないか」
医者2の声「なんで」
医者1の声「結構、好みなんじゃないかと思ってさ」
医者2の声「爺さんの?」
医者1の声「そう」
医者2の声「中、空っぽになるからなあ。入れても、中が広すぎるんじゃないか」
医者1の声「あそこは取らないから、関係ないよ」
医者2の声「おまえがやるみたいじゃないか」
また、笑い声。
聡子の声「(もう笑うしかない)ははははははは」
医者1の声「さあ、空っぽだ」
医者2の声「すっからかんだ」
聡子の笑い声がえんえんとこだまして…、
からからいう、車輪の音。
聡子の声「何、この音。ベッドについた車輪の音?」
沈黙。
がちゃん、ごとん、といった重い音がする。
聡子の声「この音は何?」
間。
聡子の声「どこに置かれてるの?」
間。
読経が聞こえる。
聡子の声「お経? お経? なんでお経よむの。あたしは死んでない。あたしは死んでない。あたしは生きてる。生きて考えてる。助けて。助けて」
ぶちっと読経が途切れる。
聡子の声「何?」
間。
聡子の声「今度は、何かあるの」
焼き場の係員の声「おい、このへんにしておこうぜ。あとがつかえてる」
聡子の声「何、お経も録音だったの?」
がらがらがら、とお棺が焼き場に入れられる音がする。
聡子の声「(自問自答する)そんなこと気にしてる場合か」
ぼんっ、という火がつく音。
聡子の声「何、火がついたの」
ごうごういう炎の音。
ぱちぱち木がはぜる音。
聡子の声「ちょっと、焼ける、あたしの体が焼けるうっ」
じゅうじゅういう肉がやける音。
フラッシュで炎、焼ける肉。
聡子の声「ぎゃああああああああ」
それをかき消すくらい炎と不協和音が高まって…

○ 病室
慶子がベッドに寝ている。
慶子「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
その身体の上に、べったりと明美がはりついている。
「ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
だんだんうめき声が大きくなる。
慶子「ウウウウウウウウウ」
窓際のベッドから「(たまりかねたような)すみません」
うめき声はやまない。
声「(声を大きくして)すみません」
うめき声が止まる。
声「ナースコールを押してみたら、いかがですか」
「ウウウウウウウウウ」
うめいているのは、聡子だ。
明美同様、べったりと慶子を上から押さえ込んでいる。
また、うめき声が一段と大きくなって再開する。
慶子、身動きできない。
聡子に目がいってしまう。
慶子と目が合った聡子、にったあ、とすごい顔で笑う。
(終)

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